誘惑のストロベリーパイ~あるいは医師Mの回想~ たとえば朝歯を磨いている最中だとか。
たとえば昼食を終え一息ついた瞬間だとか。
たとえば夜ベッドの上で眠りが訪れるのを待つ間だとか。
そういう、思考の空白が生まれる僅かな時間。ふと気がつくと村雨の頭を占めるものがある。
ふう、と村雨はため息を吐いた。
──ことの起こりは、数ヶ月前に遡る。
その日は叶が料理配信をするというので、獅子神宅に村雨を含め友人達が集まった。
しかし発案者の真経津は早々に飽き、主導の叶も配信で映える程の腕前はなかった。用意された教本がもう少しまともなら初心者とはいえ村雨にもやりようはあったろうが、曖昧で感覚的すぎる表現ばかりではどうにもならなない。『少々』『キツネ色』など個人の感覚に任されすぎだ。もっとはっきりグラム数や時間を記載すべきだろう。あの教本は低評価に違いない。
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