一衣帯水「おい、本当に行くのか?今日じゃなくても…」
一人の若者が、黒髪の男を引き止める。
「どうせすぐ帰されるんだから、そんなに心配すんなって!」
「そうそう!いくら神の目持ちでも、見てくれてる神様なんぞもう居ないんだぞ〜?なっははははは!」
「コイツなら大丈夫だろ。最速で一級冒険者まで上がったんだぜ?」
「死にやしないって!殺された人はいねぇしな!」
周りの大男たちはガヤだろうか、それとも冷やかしか。大声で笑う彼らは昼間から酒を飲めども、その正体は全員が三級以上の冒険者だ。
「そんなにここは危険なのか?」
黒髪の男は大男たちに問うが、男たちは決まってこう言うのだ。
「いいや?世界一優しい“水の精霊”サマの秘境さ。」
ここはスネージナヤ南部にある【秘境:クジラの森】。その前に建っている冒険者教会の(ほぼ酒場として機能している)建物の中は賑やかだが、誰一人として秘境に入ろうとする者はいない。
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