文体の似ないわたしたち人理継続保障機関フィニス・カルデア。その所在はどの国も所有権を持たない南極大陸に注意深く隠されていたが、公用語は英語ではなく、日本語である。
『唯一のマスターとなってしまった、日本人であるマスターへの負担は少ないに越したことはない』という職員たちの計らいにより――多言語をおさめる職員たちの優秀さもあって――はじまったそれは、その基地をうしなってなお暗黙の了解として続いているものだった。
「――」
「……メディア殿?」
「わわっ、どうされたのですか、綱さま?」
「ノックをしたのだが、聞こえなかったか?」
「すみません、気付きませんでした」
メディア・リリィに割り当てられた一室に、来客。
メディア、幼きメディアの手元にはペンとノートがあった。そのページには、丸っこくちいさな筆跡でつらつらと何かが記してある。
「何を書いて居たのだ?」
「日記です」
「日記……ああ、すまない。中を少し見てしまった」
「構いませんよ。見られて恥ずかしい内容なら、もう閉じてます」
ふふ、と淡い笑いとともにそう答えられて、ひとまず綱は安堵した。
「メディア殿は日本語で日記を書いているのか」
「はい。お話するぶんには魔術の補助があるのですが、文字は無理なようなので……練習もかねて日記をつけています」
「そうなのか」
マスターと出身国が同じである綱には、あまり縁のない苦労。
自分よりはるかに下にある、メディアの瞳を尊敬の念をこめて見つめる綱。
「努力家なのだな」
「いえ、そんな……」
メディアは淡く微笑んで、謙遜してみせる。