21/03/07 ――聡い女。
キャスターに抱いたのは、そんな印象。
或いは、彼女は幼い見た目でありながら、実際のところ長い年月を重ねている……らしい。その人生経験の賜物なのか?
すぐさま見抜かれて。
今だってそうだ。
「綱さま」
眉を下げて、笑う。
「いったい、私を通して誰を見ておいでなのです。私はかつてを生きた者の影。私は、あなたのそのような瞳に守られるべきの……そんな存在ではないのに」
「俺は今、どんな目をしていたのだ」
「お気づきでなかったのですか?」
キャスターはそっと目を伏せる。そうすると、彼女の言う『見た目と精神年齢は一致しません』という言葉にも納得がいくような、そんな影をまとう。とはいえ、キャスターは『姿かたちに振る舞いも影響を受けるのですが』とも言っていたが。
「尊さの満ちるような、そんな目を」
「尊さ?」
些か、書物めいた言い回し。しかし、すぐに思い当たる……『あの御方』のことだろう。
「隠すようなことでもないか」
「はい?」
「聞いてくれるか。俺の、もう過ぎた悔恨のことを」
光るように貴い娘。幼き頃から知っていた姫。身分違いの子どもにさえ、優しく笑い掛けるひと。
……護れなかったこと。
「だから、なのかもしれないな。護るということに固執するのは」
「……大切だったのですね」
しみじみと噛みしめるような、大切という言葉そのものをそっと手に取り、愛おしむようないたわりに満ちた声色。得体の知れない、俺の理解の埒外にあったキャスターの存在が、今、胃の奥底に落ちたようで。
「過ぎたことだ。だが……この天覧聖杯戦争、勝ち抜いた暁には、きっと」
あの御方の笑顔を取り戻す。
そう呟けば、キャスターはちいさく息を呑んだ。
「それが、綱さまの戦う理由なのですか」
「ああ。そして、おまえを護り抜く。今度こそ、俺は大事なものを最後まで護るのだ」
小さく、彼女の口元が動いた。しかし音は掬えず、意味も意図も汲み取れない。
「……その、」見上げる瞳は存外に透徹。「宜しくお願いしますね。お分かりかと思いますが、私は戦闘は不得手なので……」
「ああ」
そんなことを気にしていたのか。構わないのに。むしろ、彼女の補助はいつも的確で、ひとりで戦うよりよほど好い。
それを口にするには、俺は……。
「おまえを護るために、力を尽くそう」
なあ、キャスター。キャスター・メディア。
心中だけで呼びかける。
おまえの笑顔は、あの御方にはあまり似ていないのだな。