笑む_Lその週末の夜のこと。
休日前の浮ついた空気をはらんだ夜闇に紛れるようにして、私の居室に現れたアグラヴェインは誰かと思うほどに軽やかな装いだった。
ブルーとシルバーの細いレースに縁どられた柔らかげな淡い色のチュニク、
ゆるく崩し気味の髪、
彼の細身な体つきを殊更に強調するかのような黒い革のパンツ。
いかつい甲冑を脱いだ彼はひどく若く、そして上品に見えた。
彼に感じるとは思ってもみなかったような情欲が、ふと湧き起こる。
一瞬目を丸くした私に、アグラヴェインがいくらかの恥じらいを滲ませた。
「…今宵、と王の耳に入っていたようでな。御前に召されて少々弄られた」
「結局、我々は王の手の上で踊らされているということか」
ふ、と笑いあう。
とは言え、それ以上干渉してくるような無粋な主ではない。
何か飲むか?という問いに、アグラヴェインが軽く頭を振る。
「では、ベッドルームに」
部屋の中で歩を進める間に、アグラヴェインが躊躇いがちに問うてきた。
「……その、」
「ん?」
「卿は私相手で、本当に可能なのか?」
「つまりは勃つのか、と?」
「……まあ、そうだ」
「まぁ、ね」
ベッドに掛けさせながら、ふわりと笑いかけてやる。
魔力供給すること自体には納得しているようだが、彼と私とで本当に行為が成立するのかは気にかかっているらしい。
いくらか不安げに見返してきた表情は、どこか幼くさえ感じられて思わず口元が緩んだ。
「男は初めてか?」
アグラヴェインが軽く目を逸らし、それから私に視線を戻して、小さくあごを上げるようにして頷いた。
「心配はいらない。
魔力的に干渉できる分、生身よりも楽な部分もある。
君が心情的にも私を拒まず受け入れてくれれば……」
そこでアグラヴェインが浮かべたいわく言い難い表情に苦笑する。
「少しだけ力押しになってしまっても?」という問いには、
ああ、と頷いた。
心から私を受け入れるよりも、力づくで身体を開かれた方が気分的にはまだマシだということらしい。
長い溜息を一つつき、存外すんなりと私の腕に身体を預けてその肌に触れさせてくれながら、そっと目を伏せたアグラヴェインの滑らかな黒髪と白い肌。
どこか主アルトリアにも通じる面立ちには少女めいた雰囲気すらある。
アグラヴェイン、と呼びかけると静かにこちらを見上げてくる銀灰の瞳を美しいと思った。
この淡い色の瞳で日差しを直視するのは危険だろうが、陽光を受けるこの瞳はどんなにか美しいだろうと思う。
本気の愛恋になどはなるまい。
だが、この瞳が情欲に潤むさまを想像するだけで心はざわついた。