酒は飲んでも飲まれるな!「っはー生き返るぅ」
「おっさんくさいぞ」
大学時代の同期が営むバーで、仕事上がりの一杯を嗜む私に、店員であるリサが冷たく言い放つ。
「妙齢の乙女捕まえておっさんとは何だおっさんとは」
「ソレ、自分で言うか?」
「うっせぇ自分でも思ってないやい」
悔し紛れに言い放ち、私はグラスの残りを一気に呷る。
「海舟ーお次はゴッドファーザーで!」
カウンターの向こうにいる同期にそう告げれば、奴はしかめっ面をして見せながら「ソレで呼ばないでって言ってるじゃない」と返してくる。
「じゃぁ麟太郎」
「ヤダ、本名で呼ばないでよ!」
麟さんもしくはママとお呼び!と声高に宣言しながらも、私の前にグラスを差し出す彼または彼女はこのバーのママであり同期の浅野麟太郎。源氏名は麟。学生時代からのあだ名は海舟。そう、美しいドレスを纏い着飾った彼女達は正真正銘の男である。ついでに言えば、ここの店で働く 女の子達も。
「アンタどうせ明日も仕事なんでしょ、大丈夫なの」
そう言いながらも私のオーダー通りにキツい酒を出す彼女に笑いながら「聞いて驚くなよ、なんと、明日は休みだ!」とグラスの中身に口を付ける。強いアルコールがのどの奥で熱を発していた。28勤ストップうひょーい! なんて言葉が漏れ出て、海舟とリサの二人から顔をしかめられる。
「ホンット、サッちゃんって強いよな、酒」
隣の席で呆れたようにそう言うリサに「飲まなきゃやってられんのよ」と言いながら次は一気にアルコールを流し込んだ私を見たリサは更に呆れるようにため息をつく。
「ようやるよ、何でそうしてまで続けるんだ」
サッちゃんなら転職しようと思えば何とかなるだろ、多分。と付け加えながら問われれば「そうなんだけどねー」と笑うしかない。
「かわいい後輩がね、一人居てさ」
今私が抜けたらあの子が同じ目に遭うの、目に見えてんだよ。と答えれば、リサと海舟は同時にため息をつく。
「だからアンタは駄目なのよ」
そう口を開くのは海舟。「そんなことばっかりやってるから貧乏くじも引きまくるし、変なのに引っかかるの」と。
リサも一緒になって「あーソレっぽいよな、アンタ」と乗っかってくるのだ。
「そんな事くらい、前からわかってらぁ」
そう口に出すのが私の精一杯で、その言葉に二人のオネェは疑わしげな顔で私を見つめる。
「それじゃぁ、アンタの残念エピソードを大学時代から今まで延々とリサに話すわよ?」
そう言い始めた海舟に「それお前もダメージ受けるよな?」と睨みつける。「あら?アンタの方が私よりダメージ受けるでしょ?ついでにムネちゃんも呼ぶ?」そう返す海舟にもう好きにしろよと私はカウンターに突っ伏す。
「行儀悪ぃなぁ」
ため息混じりに窘めるリサにうるっせとだけ返し、携帯をいじり始める海舟に思い出したように「武将、今日来るぞ」とだけ声をかける。
「あらヤダ、本当?」
「つうか、元々武将に誘われたんだよ。此処で待ち合わせ」
武将というのも、学生時代の同期のあだ名。本名は舞島宗直と書いてマイジマムネタダ。武将のような名前だからというだけの安易なネーミングだ。大学時代、私は基本的に海舟と武将の二人と連んでいたのだ。連んでいたというか、ゼミが同じだった関係上、取る授業も似通っていたから気づいたら一緒にいることが多かったというか。更に言えば、武将に至ってはサークルまで同じだった。そらぁ一緒に居る時間も長くなるってもんだ。
「どうもー」
「噂をすれば、ね」
そんな事を話していればカランと鳴るドアチャイム。ドアを開いたのは噂をすれば、な武将の姿。「ママ、ビールちょうだい」真っ先にそれを口にして、未だカウンターに突っ伏す私の隣に座る。これで私は武将とリサに挟まれる形になってしまって。
「逃げ場無し、だな」
「今ちょうどリサちゃんにリツの残念な話する所だったのよ、アンタも一緒にどーぉ?」
「笹野の残念な話? 俺最新のストーカー女しかネタねーんだけど」
「ちょっと何ソレ! 私にも詳しく!」
「本当にヤバい奴なら警察相談した方が良いぞ? ツテあるけど使うか?」
武将の一言で一気にテンションを上げてくる海舟とリサに、武将へのなぜソレを知っている、という言葉と勝手にしろという言葉すら言えずに私はグラスのアルコールを飲み干して、更に強い酒を求めることしかできなかった。
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笹野は飲む時はアホみたいに飲む(無駄に強い癖に最終的には寝落ちるやつ)