空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:EX「剣道着姿のアマネ、久々に見たなぁ。ヒロミもだけど」
「そもそも会うのが久々って感じだけどな」
短い夏休みを終えて、秋学期が始まってから少し経った頃。道場に姿を現したのは、アメリカに行っていた筈の汐見と空閑であった。『放課後、剣道部顔出すわ』という汐見からの端的なメッセージを受け取った篠原とフェルマーがその場所へと向かえば、既に剣道着を纏い面手拭を首に掛けた二人の男がそこに居た。
「今日の昼にこっちに戻って来たんだ」
「学校の定期便、ホント便利だよね。流石にアメリカからだと体バッキバキでさ。運動しよっかって話になって」
世界各地にある系列校間では、生徒や教員の移動の為定期的に専用機が飛んでいる。彼らはそれに乗りアメリカへと渡り、そして日本校へと戻って来たらしい。大きく伸びをしながらそう口にした空閑に、篠原は呆れたように「お前も含めて、俺ら引退した筈なんだけどな」と肩を竦めた。
「引退したって来ちゃダメって訳じゃないし、どうせ二人とも推薦決めて暇なんでしょ?」
からからと笑いながら返された空閑の言葉に、再び篠原は肩を竦める。無言の肯定だった。久々に顔を合わせた彼らが言葉を交わしていれば、道場の入り口から口々に嬉しそうな声が投げられる。
「あ! 先輩方、来てたんですか!」
「稽古参加しますよね!」
「っていうか、何で空閑先輩と汐見先輩はもう既にひと稽古終えたみたいな感じになってんですか……?」
一学年下である後輩たちから投げられた言葉に答えるのは汐見だった。
「ようやっと帰国したから来た、稽古は参加するに決まってるだろ、俺ら今日アメリカから戻ってきたから授業がなかったんだ」
一気に投げられた質問を、端的に――しかし丁寧に返していく汐見の言葉に篠原は彼の成長を感じる。もはや視線が保護者のそれになってしまっている気がするが、彼が一年の頃であれば多分「参加する」の一言だけしか戻って来ないだろう。そしてそれを通訳のように空閑が補足していくのだ。
帰国、の言葉に合点がいったように頷いたのは、コース的にも彼らの直接の後輩であるパイロットコースの二年生で。
「あ! アメリカ校の飛行訓練ですね! どうでした?」
来年選抜に入れれば彼も同じようにアメリカ校への短期航空留学が待っている。前に彼らが話していた時に聞いた後輩の成績はそこそこで、このままの成績を維持できれば選抜にも入れるだろう。そんな希望に満ち溢れる後輩に、汐見が笑って「最高だったぞ」と口にする。
「やっぱり単独飛行は楽しいよね。教官と乗るのも良いんだけどさ」
「自分ひとりの命を操縦桿に乗せる感覚って、格別だったな」
空閑の言葉を繋ぐように、汐見が言葉を重ね揃って楽しげな笑みを浮かべる。そんな彼らの言葉に後輩も大きく頷いて。
「お前、割と成績上位だったもんな。このまま行けば選抜入れるだろ」
「え、汐見先輩俺の成績チェックしててくれたんですか?」
ポツリと思い出したかのように溢された汐見の言葉に、後輩は驚いたように目を丸くする。
「そりゃ、同じ部活で同じコースの後輩だから、多少は気にするだろ」
不思議そうに首を傾げる汐見に、空閑は笑いながら「アマネはあんまり周りの事気にするタイプじゃないから、気にされてないと思ってたんでしょ」と揶揄う調子で言葉を投げる。空閑の答えは的を得ていたらしく、後輩は少しだけ困ったように苦笑し、汐見は空閑の言葉と後輩の反応に成程と頷いていた。
「まぁ何だ、授業で分からん所あったりしたら言ってくれて構わないぞ。俺でわかる所なら教えるくらいはするからな」
「本当ですか!?」
「アマネは自分が言った事、ちゃんと守るから安心していいよ。アマネに言い難かったら俺に言ってくれてもいいし」
先輩風くらい吹かせさせてよ。と重ねた空閑に、後輩は嬉しそうに大きく頷いた。