空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:07 放課後の武道場に併設されている更衣室で並び立ち制服を脱いでいた篠原は、隣に立つ空閑の背中に走る幾筋もの朱い痕を目にしていた。
――お盛んな事で。
背中の爪痕を付けられた側も、おそらく付けた側であるだろうもう一人の男もそんな情事の痕など気にも止めずに制服を脱ぎ剣道着を纏っていく。経験者である汐見は元より高校入学を機に剣道を始めた空閑も手慣れたように袴の紐をキュッと結ぶ様を横目に、篠原も同じように紺袴の紐をきっちりと結んで。
そうして更衣室を連れ立って出て行こうとした所で、汐見の纏う剣道着の隙間に見えた朱に目を剥いた。
「待て待て待て待て汐見! 出るな!!」
思わずそんな叫び声と共に汐見を押しとどめようと身体ごと彼へぶつかって行った篠原は、びくともしない汐見に受け止められる。ひょろりとした長身の汐見は、体当たりでもすればよろめいてしまいそうな線の細さを持った男であるが――しっかりとした体幹としっかりと付けられた実用的な筋肉で、自身よりも体格のいい空閑ですら稽古中に体当たりで飛ばすような人間だという事は篠原もこの半年以上経った関係の中で知っていた。
「浩介? いきなりどうしたんだ」
篠原を受け止めながら不思議そうに首を傾げる汐見と、珍しいものを見るように二人を見守る空閑という二人分の視線を受けながら体勢を立て直した篠原は自身のロッカーに入れていた肌色のテーピングを汐見へと渡す。
「お前、これ貼っとけ。どうせ空閑がやったんだろ、ソレ」
ソレ、と指摘しながら自身の首元を指で示した篠原に、再び首を傾げる汐見の反応に彼は思わず「空閑ァ!」と叫ぶ。
「浩介、血圧上がるよ?」
遂に自身やヴィンツェンツの事も呼び捨てにし始めた――おそらく被っていた猫を脱ぎ始めたのだろう空閑は、へらりと笑いながらそんな事を口にする。
「汐見は鏡見ろ、空閑お前はもう少し自重を覚えてくれ」
大きな溜め息を吐き出した篠原に空閑は真顔で言葉を返すのだ。
「これでも自重してるんだよ?」