文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day26 眼前に現れたのは、白く艶やかな塗装が施された古いジェット機だった。外見だけは美しいその機体は、空を飛ぶ事ができない。尾翼には、アメリカ航空宇宙局のロゴがしっかりと描かれていた。
「綺麗……」
ほう、と感嘆のため息と共に呟くのはフェルマーで。その言葉に吉嗣は楽しげに「だろ?」と笑う。
「この学校が開校されたのと同時に寄贈されてな。宇宙飛行士も使ってたやつだぞ」
「ヴィンを連れて来たって事は、飛ばせるようにしたいって話すか」
「話が早くて助かる」
汐見の問いに大きく頷いた吉嗣に、フェルマーは小さく笑う。
「ボク、ロケットエンジンが専門なんですけど?」
「お前なら航空機のエンジンも頭に入ってるだろ」
艶やかな機体を撫でながら呆れたように笑うフェルマーへ、吉嗣はカラカラと笑いながら言葉を返して。
「ヴィンがこれ直せたら、俺が飛ばしたいな」
吉嗣の言葉に乗るように、空閑が楽しげな声を上げる。そんな空閑に「俺だって飛ばしたい」と汐見も張り合うように口を開く。
「お前らが操縦出来るのはレシプロ単発だけだろうが、学院でライセンス取ってコイツで飛べるようになってたら乗せてやるよ」
「それまで吉嗣センセちゃんと居てくれるんすよね」
「母校に帰って来たら辞めてるとかナシですよ?」
調子のいい吉嗣の言葉に彼の教え子である汐見と空閑は口々に少しだけ不満げな様子で言葉を紡ぎ、吉嗣はカラカラと笑うばかりだった。
「ていうか、渡航間近にめちゃくちゃ難題押し付けてきますね? もっと早くに言ってくれればよかったのに!」
少しだけむくれ気味で不満を口にするフェルマーに吉嗣は肩を竦める。
「改修の許可が出たのが昨日の夜なんだよ、お前が間に合わなけりゃ俺が引き継ぐし」
まぁ俺だけで出来ねぇ事はないんだけどなぁ。と重ねられた吉嗣の言葉に「吉嗣せんせーが楽したいってだけじゃないですか!」とフェルマーは不満げに声を上げた。
「でも、アメリカ航空宇宙局で使われてたタロンなんてお前らだって触りたいだろ?」
フェルマーの不満に口元に弧を描いたままで返される吉嗣の言葉に、反論できないままにフェルマーは唸る。
「まぁまぁ、ヴィン。俺も手伝うしさ」
「そうだな。俺だって整備は出来るから、出来る所までやってみようぜ?」
フェルマーの両隣を固めるように、空閑と汐見が口々に言葉を繋ぎながら彼の肩を励ますように軽く叩いて。そんなパイロットコースに所属していた二人の男の様子に、フェルマーは腹立たしげに叫ぶのだ。
「ヒロミとアマネだって結局タロンに触りたいだけでしょ! この飛行機馬鹿!」