空閑汐♂デイリー【Memories】08 エンジンが空気を震わせていた。バリバリと空気を引き裂くエンジン音を轟かせ、その機体は空へと舞い上がる。
「お、今日もやってるな」
「やってるねぇ」
教室で座学の復習をしていた空閑とフォスターは窓の外へと視線を向ける。雲を描き空を自在に舞うのは汐見が操縦するジェット練習機で。眩しげに目を細めて見つめる空閑に、フォスターは呆れたようにため息をひとつ零していた。
「それにしてもあいつ、課外で取れるライセンス全部取り終わってるのにまだ乗ってるのか」
五年目の大気圏外実地訓練に進む為に必要なライセンスは授業中の訓練で取れるようなカリキュラムを組んであり、希望者の中から実技成績順に選抜される課外訓練ではその他にもこの場所で取れるライセンスの取得が出来るシステムで。一年次から成績上位をキープし続けている汐見はその課外訓練の全てに参加していたのだ。
「ライセンス取り終わっても飛べる時には飛びたいってのが、アマネのポリシーだからねぇ」
カラカラと笑いながら背面飛行を難なくこなす汐見の機を見つめる空閑に、フォスターは問いかける。
「クガは、その、シオに置いてかれているとか、そう言う事を感じているのか?」
眉を寄せ言いにくそうに溢されたフォスターの言葉に空閑はパチリとその瞳を瞬かせ、空からフォスターへと視線を戻す。置いてかれている。という言葉に少しだけ思考を巡らせた空閑は「コンプレックスみたいな?」と首を傾げた。
その言葉にさらに眉を寄せたフォスターの表情に、まぁそう思われても仕方ないだろうと笑った空閑は言葉を重ねる。
「まぁ、無いわけではないんだけどさ。アマネが自分の才能と努力で今の成績を維持してて、俺がそれにちょっと及ばなかったってだけだし。比べるものでもないしね」
肩を竦めて笑って見せれば、フォスターも安堵したように息を吐いた。この同期は人がいい。だからと言って、空閑自身が抱えている汐見への負い目――どこまでも一人で行ける筈だった彼の翼を奪い絡め落としたという執着を、口にしようとは思わない。
「俺はさ、アマネと一緒にオーベルトで楽しく暮らせればそれで充分なんだよね」
この道を選び汐見と出会ってからずっと、空閑はそれだけを望んでいる。その中にはパイロットとして働く事だとか、この揺籠から飛び出して行きたいだとか、汐見と出逢う前からの夢だって全部詰まっているのだ。汐見の成績には及ばなくても、空閑の成績も全体から数えれば悪い方ではない。
このまま折れずに進んでいけば、望みが叶う場所まで空閑も汐見もたどり着いているのだ。そんな空閑の言葉に、フォスターは笑って頷いた。
「お前らの成績なら、難しくなさそうだけどな。言う相手は選んどけよ」
「フォスターだって成績上位者じゃん」
「俺は元々軍志望だからな、オーベルトには観光で行ければ充分だ」
もし結婚でもするなんて時には、式に呼べよ。重ねられたフォスターの言葉に空閑は大きく頷いた。