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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2022-08-18/本日は空閑編!ようこそオーベルト!って言いながらもまぁ不穏。ヴィンは割と汐見♂モンペなとこあるよね。

    ##空閑汐BL
    ##静かな海
    ##デイリー
    #BL

    空閑汐♂デイリー【Memories】18 かつて目指したものにはなれなかった、けれどもかつて目指した場所には辿り着く事が出来た。一度は喪ったと思っていた全ては、まだ自分の中に残されていて――喪失感に打ちのめされそうになる夜に抗い、空閑は約束の場所へと降り立つ事が出来たのだ。
    「ようこそ、オーベルトへ」
     静かの海に位置するオーベルトの玄関口であるオーベルト宇宙港で空閑を迎え入れたのは、いち早くオーベルト勤務を拝命し既にこの地で働きはじめていたフェルマーで。整った相貌にお手本みたいな笑みを浮かべて空閑を出迎えた彼に、空閑は小さく笑みを浮かべて頷いた。
    「――で、アマネの事振ったんだって?」
     宇宙港から少し進んだ場所にあるノースエリアのダイニングバーで、フェルマーは不機嫌そうな表情を浮かべてビールを呷る。刺すように繰り出されたフェルマーからの問いに、空閑は困ったように笑みを浮かべながらも頷いて。
    「あの時は、それが最善だと思ったんだ。学院も退学させられて、パイロットにはなれなくて――アマネがそれに責任を感じてた」
     あの日の光景は、きっと一生忘れない。涙を流しながらも、空閑の我儘を通してくれた汐見の姿は三年経っても鮮明に空閑の記憶に刻まれている。空閑は懺悔するように、言葉を重ねていた。
    「アマネは、元々一人でもどこまでも行ける人で。俺がアマネの翼を奪ったんだ。俺がいなければ駄目になってって、一緒に二人でどこまでも行こうって」
     傲慢にも、二人でどこまでも行けると信じていた。そしてそれは、若者であるが故の慢心であり驕りであったと、空閑は知ってしまったのだ。
    「あの時――それこそ全部喪ったと思って、もうアマネと同じ場所には行けないと感じて、本当はアマネと一緒に墜ちてしまいたかった」
     静かにビールを飲みながら空閑の告解を聞いていたフェルマーは、形の良い唇をゆっくりと開く。
    「――だから、アマネを手放したの? 一緒に墜ちて行かないように」
     確かめるように問われた言葉に、空閑はゆっくりと肯首して。彼と共に地上に墜ちて、閉じ切った世界だけで二人暮らす事が出来ればどんなに良かったか。日銭を稼ぎ、隣には愛する男がいて、呼吸をするだけの暮らし。そんな暮らしが出来るなら、きっとそうしていた。
    「だって、きっと――アマネはそんな暮らしには耐えられない。俺への負い目だけで手が届いた筈の航宙徽章を手放させて、地面に縛り付けて、ただ息をするだけの為に生きるなんて。それはもう、俺が好きになったアマネじゃないでしょう?」
     だから、手放した――奪った翼を彼に返したのだ。その判断に後悔はない、空閑はせめて汐見が呼吸をしやすい場所で、あの苛烈さと真っ直ぐさを損なう事なくうつくしい軌跡を描いていて欲しいから。
    「別れようって言った日に、アマネが言ったんだ。俺はオーベルトに行くから、お前もって」
    「それで軌道警察局の試験を一発でパスしてオーベルト勤務を勝ち取るんだから執念だよねぇ」
     フェルマーは呆れたように笑う。
    「でも、オーベルト勤務になった事すらアマネに言わないんだから酷い男だよね」
     フェルマーが空閑をチクリと刺すのを忘れないのは、きっと彼が汐見の味方だからだろう。基本的にフェルマーは昔から空閑と汐見が衝突した時、無条件で汐見の肩を持っていたのだ。
    「だって、アマネを振ったのは俺からだし。俺から連絡するのは違うんじゃないかなって――アマネにだって俺以外とどうこうなる権利はある訳だし、他に恋人が出来てるかも知れないし」
     空閑の後ろ向きな言葉に大きなため息を吐き出したフェルマーは「ボクは意地が悪いんだ」と口を開き――フェルマーの言葉に首を傾げた空閑へ、口端だけを上げた笑みを浮かべて言葉を重ねる。
    「ボクね、アマネから浮気しないかって誘われたんだよね。ヒロミがアマネを振った頃に。その時は話を聞くだけで宥めたけど、アマネの事見てらんなくなったり――縋られたら、ボクはアマネに手を出すからね」
     そうしてにっこりとお手本みたいな笑みを浮かべたフェルマーの姿は、宗教画の天使のようだったが――空閑の目には、悪魔のように見えていた。
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