もちろんその方がオレにとっては都合が良い……そのはずなのに、何故かやたらとイライラした。
「警察官が、善良な市民を騙していいのか?」
「騙してないよ」
「アァ?」
「だって、カップルになってくれなんて、好きな相手にしか言えないだろう?」
じっとオレを見据えるルークの、耳のふちが僅かに朱く染まっている。抜けるような白い肌を、鮮やかに彩る色に強く引き付けられた。
思わずルークを見つめ返すと、目線がうろうろ泳ぎはじめる。少しずつ肌の赤みが増して、やっと合った視線の先の緑はわずかに潤んで見えた。
「だから、君しかいないんだ」
いつしか頬まで真っ赤に染めて、ほとんど吐息で出来た呟きが転がる。視線をかわして目を伏せている、その様子は物慣れないくせに充分人を誘う色を帯びていた。
こくりと喉を鳴らす動きに、目が離せなくなる。
「オレでいいって?」
わざとらしくからかうように紡いだ自分の言葉は、少し掠れてどこか上滑りしているように聞こえた。何が気に入らないのか、キッと強い視線に睨まれる。
まだ目元に赤みを残したまま、ほんのわずか潤んだ目で、それでも真っ直ぐオレをつよく見据える。
「君でいいなんて言ってない。君が、いいんだ」
相棒としてだろう、とか。
そうした茶化し方をすることもできなかった。
「どうしても駄目なら諦める……けど」
挑みかかるような視線の強さに灼かれる。
大きな声を張り上げているわけでもないのに、不思議なほどすんなり耳に馴染む声が、身体の内深くまで届いてそのまま根付いた。
「できれば、君と一緒に入りたいとおもって決めたんだ。ここも、次の店も。だから、その……今日だけでいいから、僕の好きにさせてもらえないか?」
おねがいだ、と。
続けられたルークの言葉に、首を横に振ることは簡単だ。
そうしなかったことが答えなのだと伝わっている気はしないのに、言葉で返事をかえすことは出来なかった。
――結局、店には二人で入った。
男二人の組み合わせだったが、特に店員が気にした様子はない。
ルークは無事にカップル限定のスペシャルスイーツにありつけてご満悦だ。
ふかふかしたパンケーキは幾重にも層をなして、高く積み上げられていた。綺麗な焼き目がついた生地は、溺れるほどのメープルシロップを二度くぐって飴色につやつやとコーティングされている。ふんだんに生クリームでデコレーションされているパンケーキの合間には、季節のフルーツがこれでもかと盛り込まれていた。見た目にも鮮やかだなそれは、そのあたりで売っているものよりも色鮮やかに見える。不思議に思ったルークが店員に尋ねたところによると、砂糖漬けや蜂蜜漬けにしてあるからだと答えが返ってきた。フルーツそれぞれに合うように、様々な種類の甘味が使われているらしい。
店員の説明を聞いているだけで、胸焼けしそうだ。甘ったるい匂いと合わせてげんなりして、目の前にあるコーヒーを一口啜る。別にたいしてコーヒーが好きなわけじゃねえが、酒も置いてないこの場所で、甘ったるさを押し流すにはちょうどよかった。
「アーロンは食べないのか?」
糖分のかたまりみたいなそれらを食べたいという欲求なんて沸くはずもない。だいたい、それくらいのことは目の前の男もわかっているはずだ。