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    #古キョン版ワンドロライ
    【第2回】より絆創膏
    +3min
    SOS団部室日常の一コマ

    #古キョン
    oldKyon

    「おや、怪我をしていますね」
     突然の指摘に少しだけ驚いた俺を見て、古泉が困ったように首をかしげる。
    「ほら、ここに」
     形の良い指に指し示された先を確認すれば、手首のところに擦り傷が出来ていた。薄く皮がめくれた程度、血は滲んでいるものの、気付いてもいなかったそれが、目にした瞬間じくりと疼いて痛みを訴えるのはどういう了見なんだろうな、いったい。
    「ハルヒにさっき引っ張られたせいだな」
     いつものことだ、と溜息を落とす。
     猪突猛進を絵に描いたような存在は、俺を引っ張り回すときに容赦がないし自分の進みたい方向へ進む。こちらの態勢が整っているかなんて気にしたことはない。今日はホームルームが終わった瞬間、首根っこを掴まれて後ろ向きに引っ張られたものだから、油断もあって机に腕をぶつけている。その時の傷だろうな。
    「それはそれは……お疲れ様です」
     にこりと如才ない笑みを張り付ける古泉は、別のクラスだからそうした被害は少ない。もし、同じクラスだったとしても俺より被害を被ることはないんだろうが、どうもその差が釈然としない。 
     ちなみに俺に傷を作った張本人は朝比奈さんと長門を連れてどこかへ行ってしまい、部室に残されたのは俺たち二人きりだ。だったら別に俺が引き摺られる必要はなかったんじゃないのかと思わなくもないが、余計なことは考えずハルヒから解放される少しばかりの自由時間を楽しみたいところだ。
     さっきまでなかったはずの痛みは、じくじくとした鈍い疼きからズキズキと苛むものへ変わっていく。気にしなければいいんだろうが、一度意識を向けてしまうとどうしても気になった。
     とはいえ、大した傷でもないから放っておくしかないだろう。
     そう、思っていたのに。
    「消毒は必要なさそうですね」
     当たり前のように手を取られて、傷口のほど近い皮膚を古泉の指がなぞる。痛みはないが強い違和感に思わず手を振り払おうとしたけれど、存外強い力で腕を引かれた。
    「でも洗っておいたほうがいいですよ」
     促される形で、廊下の水場に連れていかれる。迷子の子供でもあるまいし、大の男が手を引かれて歩いているなんて誰かに見られたらいい笑いものだと思うのに、何故か離せと言えなかった。
    「……痛っ」
     蛇口からあふれる水流に手を浸せば、刺激を与えられた傷口が痛みを訴える。大して血が流れていたわけでもなく、少し流すだけであっというまに傷口は綺麗になった。
    「どうぞ」
     差し出されたハンカチは真新しく見えて躊躇したが、自分のタオルは鞄の中だ。ありがたく受け取ることにして手を拭いて傷口を見ると、じんわりと血が滲み始めている。このまま放っておけばそのうち瘡蓋になる筈だった。
    「手を出してもらえますか?」
     部室に戻ると当たり前のように絆創膏が出てきた。
     ぺりぺりと外装を剥がして、中央のガーゼ部分を傷口に当てる。慎重な手つきで貼るから、痛くはなかった。
    「あまり不用意な怪我はしないでください」
     いつもの笑顔が僅かに外れている古泉の声音が本当に俺を心配しているように聞こえて、当たり前のように触れる手を嫌だと思う気持ちが見当たらなくて、男子高校生の持ち物に絆創膏があることがおかしくて、ぐるりと色々な感情が綯い交ぜになる。
     ――だったらハルヒに言え、俺は被害者だ。
     そう口にしたって良かったのに。
    「……わかった」
     笑みを浮かべている割に妙に憮然とした古泉から目をそらし、ぽつりとそれだけ言葉を落とした。
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    MAIKINGジョン・スミスはだれ?

    イアシキ(ミステリ)小説になる予定。序盤。書けたところから足していきたい。
    ※真エンドクリア済み閲覧推奨
     ディスプレイを眺める男の目はひどく濁っていた。
     今日も一人、人間が死んだ。正しくは男が死に追い込んだのだが。死んだ人間の名前は「ジョン・スミス」名無しとして警察の名簿に載ったことを確認すると、鼻から笑いが漏れた。人間の存在など所詮その程度のものだ。データ、書類、人の記憶、媒体が何であれ記録されたものはいとも容易く更新できてしまう。男はそれをおかしいと思わなかった。自分にはそれができたからだ。そんな男自身もしばらく本当の名前というものを呼ばれたことがない。
     名無しのジョン・スミス。
     自分もそうなのかもしれない。



    「いい加減に休みを取れ」
    「取ってるよ。そこで」
     常人なら平伏してしまいそうな高圧さでイアンに見下されたシキが、何の感慨もなく指差した先は部屋の隅にぽつんと置かれた二人掛けのソファだ。ディスプレイを見続けながら返事をするシキに「こっちを向け」と言っても効果がないのはもはや分かりきっている。この会話をするのも実は初めてではなく、お互いがお互いの言い分にうんざりという顔を隠さなくなってきた程度には回数を重ねているのだった。
     ここ二週間ほど、シキは家に帰っておらず、満 2126