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    志山

    @48ma_meso

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    志山

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    リンレトワンライ。
    自分の夏服を着せたいリンと、まんまと着せられる先生の話。士官学校時代、ルート不定。

    お題:夏服、「似合ってる」 青海の節も半分が過ぎ、夏の気配を疑う余地もなくなったころ。ほとんどの生徒たちの装いが夏服に切り替わったころ。
     強い日差しが照りつけ、日の高いうちは外に出たくない。こんな暑さで訓練なんて正気の沙汰じゃない。めまいがする。涼しい夜に活動しますからどうぞお構いなく、と昼食どきに僕の部屋を訪ねてきた担任に言った。
    「とりあえず食事だけはちゃんと摂れ。腹が減っては戦はできぬ、と言うだろう」
    「戦なんかしたくないです……だから部屋にいます……」
    「駄目だ」
     しかし、容赦のない先生は許してくれなかった。閉めようとした扉に足をすかさずねじ込まれ、無理やりこじ開けられた。そして枕を持ったまま強制的に部屋から引きずり出され、食堂まで連行される。
     好きなものを頼みなさい、と言われたが、あまり食欲は湧かない。今は熱いものを口に入れたくないので桃のシャーベットを頼んだ。
     僕の隣では先生がゴーティエチーズグラタンを頼んでいた。僕もその料理は好きだけど、この季節には遠慮したいかな。
     各々注文したものを受け取り、席に着く。先生は僕の真向かいに。
     匙でシャーベットをすくって口に運ぶ。ああ、冷たくて美味しい。夏はずっと三食これでもいい、と僕がぼやくと、
    「冷たいものばかり食べていたら腹を壊す」
    「いいですねえ。訓練をサボる口実ができます」
    「……」
     先生は無言でじっと僕を見つめる。怒っているのだろうか、呆れているのだろうか。相変わらずの無表情なのでわからない。だけど冷たい人じゃないことは確かだ。こうやって僕なんかにわざわざ世話を焼いてくれるんだから。
     料理冷めちゃいますよ、と声をかけると「そうだな」と言って先生も食べ始める。できたてのそれは、ほかほかと湯気が立っている。先生はそれを難なく口へと運んでいる。しかも、闇に溶けるような外套や防具はきっちりと着込まれている。その光景は見ているだけで汗が出る。
    「……先生、暑くないんですか?」
    「この手の料理は熱いうちに食べるほうが美味い」
     チーズが死んでしまうからな、とまた一口。いやまあ、それはそうなんだけど。
    「僕が言いたいのは料理の話じゃなくて、貴方の服装のことですよ」
     暑くないんですか、ともう一度問いかける。先生は口の中のものを飲み込んでから答えた。
    「ガルグ=マクはそれなりに標高があるから、他の土地に比べれば遥かに過ごしやすい」
    「その口振りだと暑さは感じてるんですよね? もっと涼しい装いに替えたりしないんですか?」
    「軽装になってしまうと、いざ何かあったときに対処できないだろう」
     いつでも敵の襲撃があってもいいように備えておかなければ。腹ごしらえもその一環だ。とまあ、そういう理由らしい。もともと傭兵だったからなのか、先生の行動原理はいつも戦闘に重きが置かれている。
    「とは言っても、修道院や街は騎士団が守ってくれているから治安もいいですし、課題で遠征に出るとき以外はもう少し気を抜いてもいいんじゃないですか? 暑さで体調を崩しては元も子もないんですから」
    「それはそうかもしれないが……」
     それに、と僕は付け加える。
    「先生のその格好を見ているだけで僕のほうが暑さで倒れてしまいそうです。他にもそういう人がいるかもしれません」
    「それは困る」
    「でしょう? ですからこれを食べ終わったら、僕の部屋へ行きましょう」
    「……は?」
     ずっと無表情だった先生の目が大きく見開かれる。なるほど、これがこの人の驚きの表情か。


     先生を部屋にまんまと連れ込んだ僕は、備え付けの箪笥を漁っていた。そして、目的のものを引っ張り出して先生に手渡した。
    「どうぞ、先生」
    「これは……制服?」
    「はい。僕が着ているものと同じ夏服です。これなら少しは涼しくなるでしょ?」
    「俺が着るのか?」
    「先生と僕はそんなに背丈も体格も変わりませんし、問題ないかと」
    「……俺は教師だ」
    「でも僕らとあまり年も離れてないですし、きっと似合いますよ」
     先生が言いたいのはたぶんそういうことじゃないってことはわかってるけど、僕は素知らぬふりをする。早くしないと僕倒れちゃいます、などと嘯く。
     先生は制服に視線を落とし、「わかった、着よう」と答えた。
    「だがその代わり、授業にはちゃんと出ること」
    「ええー、交換条件ですか? ずるいなあ」
     わかりました、ちゃんと出ます、とこっちも条件を呑んだ。
     そして、夏服に袖を通してくれた先生の姿を見て、僕は妙に気分が高揚していた。
     いつも暗い色で全身を包んでいる先生が、淡い色の服を着ているのはとても新鮮だ。いっそ眩しいくらいだ。
     しかも先生が着ているのは僕の服だ。その事実がなぜだかわからないけれど楽しくて嬉しくて仕方がなかった。上から下までじっくりと眺めて、しみじみと「うん、似合ってる」と独りごちる。
    「涼しくていいな。思ったよりも動きやすいし、防具も手甲くらいなら……」
    「つけないでください」
    「駄目なのか?」
    「駄目です」
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