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    kemuri

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    冬の蝶々は狂気を吸う/フロリド

    息が白い。すっかり冬になってしまったがウィンターホリデーはまだ先だったな、と冷える指先を手の中に握り込みながら思い出す。踏みしめる地面もすでに枯れ葉が積もっている。
    外壁の隅、教舎と教舎の間に見慣れたターコイズブルーの頭を道すがらに見かけた。足元には……オクタヴィネル寮の腕章を付けている生徒が何人か倒れ落ちている。ドスの効いた怒声も罵声も飛んでいるし、殴っているのか蹴っているのか鈍い音も耳に入ってくる。
    これがハーツラビュル寮の生徒であれば一も二もなくその首を刎ねていたがそれ以前にアイツは例外だ。眉間に皺の寄る話だが、他寮である上にそもそも自分が関わると幾分不都合なことになるだろうことは経験則で知っている。あとでアズールに連絡を入れようと考え足早にそこを離れようとすると、案の定後ろから聞き慣れた甘ったるい猫なで声がかけられてしまった。
    「金魚ちゃんだあ~!何してんの?散歩?」
    へらへらとした顔をしてこちらに駆けてくるフロイド。手の甲をだらしなくはみ出たYシャツになすりつけて汚れを落としているし、今更何をどう見た目を気遣うのか短い髪を手櫛で整えている。
    「それはこっちの台詞だよ。キミ、自寮の生徒に何をしてるんだい…保健室に連れて行くとかそれくらいしなよ」
    「アイツラの方が先に喧嘩売ってきたんだから別にいいでしょ、それにここの生徒ならアレくらい平気だし」
    フロイドを見て突っかかる生徒なんて滅多にいないし、多少自業自得かもしれないとはいえ倒れているのなら平気ではないだろうと思うが…フロイド当人に言ったってどうにもならない。暖簾に腕押しとはこのことだ、と今までに何度も反芻した言葉を飲み込んだ。
    「こちらに用事もないのだろう?ボクは忙しいんだ」
    「え~金魚ちゃんと遊ぶ用事があるし。ね?オレと遊ぼ」
    さっきまで荒っぽく喧嘩をしていた人と同じ生き物だろうか。うろうろと巨体を揺らして前を塞ぐ彼をボクは見上げた。こういうときだけ人懐こそうな笑顔になるんだよな、とため息をついた。
    「また今度にしてくれ」
    隙をついて前に抜ける。後ろからえーだのつまんねーだの声が聞こえるが無視だ。
    途端、マントの裾を掴まれる。キッとして振り向けばパッと離される。
    「何をするんだ、危ないだろう」
    「ヒラヒラしてんのすっげーいいなって思って」
    ニターっと笑って手を振られる。
    「……意味がわからない。ボクは行かせてもらうよ」
    「うん、また今度ね~」
    今日は解放が早くて助かる。誰に対してもこれくらいの態度が出来るのならもうちょっと平和だろうに、どうしてボクにばっかり妙な態度をとるのか。再びため息をついて冷えて赤くなっただろう鼻先を手の甲で擦った。
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