春は過ぎ去った スマホ画面に通知されたメッセージの差出人の名前を見て、思わずキーボードを叩く手を止めた。急いで内容を確認しようとスマホを持ち上げるのに、こんな時に限って顔認証が上手く反応しない。二度もインカメラでのロックに弾かれた後、俺は苛立った手つきでパスワードを手入力した。
『つづるん久しぶり! 元気だったー?』
あの頃は毎日のように用もなくメッセージを飛ばし合っていたのに、彼と連絡を取らなくなってからどれだけの月日が経っただろう。文体に落ち着きが増した気がする。それもそうか、と思う。俺が今年で30歳を迎えるということは、当然彼も俺より一歩早くその年を迎えているということなのだから。
そんな挨拶文の次に、フライヤーのような画像が送られた。まだその画像を開いていないため何が描かれているのかはわからないけれど、解析度の低い小さな画像の状態でも、十分にそれが美しいデザインのものであることが分かった。
画像を開こうとした瞬間、ポンと次のメッセージが送られてきた。
『結婚したからつづるんも式に来て!』
思わず画像を開こうとする指が止まる。その軽快な文章を何度もなぞるように読む。ちっとも頭には入ってこなかった。
結婚、というのは、三好さんが?思わずメッセージ欄に『あんたが?』と打ち込んで、すぐに全削除した。逆に三好さん以外に誰がいるんだ。こんな間抜けなメッセージを送ったら、俺が動揺していることがバレてしまう。それは何だか悔しかった。
改めて彼から送られていた画像を開く。それは結婚式の案内だった。きっと三好さんが友人に送るために自ら作ったのだろう。オフホワイトの背景に品のあるフォントで、式場の名前やマップ、連絡先、式の日時、そして三好さんの名前とその奥さんの名前が並んで書かれていた。既に籍を入れたのだろう、結婚相手の女性の苗字は、既に三好になっていた。
どうやって言葉を返そう。なんて言えばいいのだろう。
そうやって頭の中で、どこかで聞いたようなかしこまった祝福の言葉がぐるぐると巡った。俺が必死に言葉を選んでいるうちにも、三好さんは催促するように『既読無視しないでー!笑』と、おちゃらけた言葉を送ってくる。こっちは笑っている場合じゃないのに。
結局俺は、脚本家としてのプライドを捨てて、テンプレートのような祝福の言葉をそのまま彼に送った。
資料室で三好さんとキスをするようになったのは、俺が大学二年の春頃からだ。
決して付き合っていたわけではない。彼のことを恋愛として好いていたわけでもない。ただ、事故のように一度彼と口づけをしてしまってから、惰性のように、はたまた習慣のように、三好さんとキスをするようになったのだ。
はじめてした日、俺たちは互いに締め切りに追われ、徹夜を重ねた状態だった。俺はインスタントコーヒーを、ボトルの裏面に書かれたレシピの3倍の濃さで淹れて飲んでいたし、三好さんは眠らないようにと常にガムだか飴だかを口に含んでいた。あの日はそんなぼろぼろの状態で、たまたま三好さんと夜中の資料室で鉢合わせたのだ。
「……あれ、三好さんも探し物っすか」
「んー……西洋風のデザインがマンネリ化していて新しいデザインの刺激がほしくてさぁ」
「へーそうなんすね」
相槌を打つも、俺は彼の言葉の意味を理解していなかった。自分の脚本のことで精一杯になっており、三好さんのデザインの話を聞ける状態ではなかったのだ。会話もそこそこに、各々自分の求める資料を背丈ほどある本棚から探した。俺は中世ヨーロッパでの民衆の生活に関する書籍を探していたので、三好さんが向かって立つ本棚を覗き込んだ。
「ちょっと前いいっすか」
「ん、ごめん」
「いえ」
ふと、彼の頬に絵の具がついていることに気付く。
「三好さん、ほっぺ」
「え?」
「絵の具ついてる」
「へ、あー……、大学で課題やってる時だ」
俺は彼の頬に触れ、拭い取ろうとする。しかし一向に取れる気配はなく、かさついた頬を撫でつけるだけだった。
「んー、取れないっすね」
「むりだよぉ、そういう画材だもん」
「なんだ、じゃあ早く言ってくれればいいのに」
「あは、ごめん」
今思い返しても、あの時の俺たちは正気でなかったことは確かだろう。互いに一週間以上4時間睡眠で作業を重ね、一人で集中して作業をしていたので他の団員ともほとんど会話をしていなかった。距離のつめかたとか、話し方とか、触れ方とか、そういったものを全部あの資料室の外へ置いてきてしまっていたのだ。
「……なんで今、キス?」
「わかんない、ごめんなさい」
「つづるんなら別にいいけど……」
「いいんだ」
「まぁ、そういう時ってあるしね」
「……もう一回いいっすか」
「えー、つづるんさっきコーヒーで口が苦かったし、今度にしよ」
「ちょっと、触れるだけだから」
三好さんからの了承も待たず、俺は再度唇が触れるだけのキスをした。
何かがおかしくなっていたのだ。モラルとかマナーとか倫理とか秩序とか、そういう意味はわかるけどニュアンスは理解していないものたちを、全部まるごと部屋の外へ置きっぱなしにしてしまったから。けれど三好さんは拒まなかった。彼も動かない脳みそのまま俺からの口づけを受け入れて、照れることも動揺することもなく、へらっと笑った。その表情が何だかおかしかった。
「……そういう気分の時、あるよね」
「たぶん、そういうことです」
俺と三好さんとの間で『そういうこと』は、あの日から何度も行われた。
俺から資料室に誘うこともあれば、三好さんから誘われることもあった。親密な触れ合いは資料室の外では行われなかったし、キス以上のことは一度もしたことがない。ただ、お互いに誘ったり、示し合わせたように資料室で落ち合ったり、本当に偶然鉢合わせて、あの小さな埃っぽい部屋で何度も唇を重ねた。
何度キスをしても、俺は三好さんに恋愛感情は湧かなかった。もし第三者からこの関係について問いただされたらきっと「ただの触れ合いです」と答えるだろうし、独占欲のようなものも実感がなかった。ただ、光の入らないあの小さな部屋で彼と二人きりになり、三好さんに触れる瞬間のことを考える時間がひどく心地よかったのだ。
あの日触れた頬が柔らかかったこと、唇が薄くていつもしっとりとしていること、小柄に見えて近づくと俺とそんなに背丈が変わらないこと。服の上からわかるほど腕と脚が細くて、腹回りも肉付きがなくて、この身体を抱きしめたらどうなってしまうのだろう、とか、二人きりになると口数が減ってしおらしくなる三好さんは何をしたら顔を赤らめるのだろう、とか、とにかくこの部屋の中で俺の興味関心は全て彼に向いてしまっていた。
「来週この部屋に新しい本棚が来るんだって」
「へぇ、確かにどの棚もいっぱいですもんね」
「しばらく本棚設置したり、資料を入れ替えたりでこの部屋は使えないからね」
「別にたかだか数日のことでしょ」
その日も、三好さんは俺の背中に手を回して抱き着きながら、世間話のように話し始めた。秋も終わりに差し掛かり、肌寒い季節であったから、腕の中で抱き寄せる三好さんの身体が温かくて心地が良かった。この抱擁はどちらから始めたことなのか、もうちっとも思い出せない。
「オレさぁー……、窓がたくさんあっていつも光が差し込むこの寮が大好きなんだけどさ」
「うん」
「資料を日焼けさせないために薄暗いこの部屋も好き。好きになった」
「……そっすか」
その時の俺は、ヘアワックスで甘い香りが付いた彼の髪の毛に鼻を埋めて、三好さんの匂いや体温を感じ取るのに夢中で、彼の顔に一瞥もくれなかった。ただ、あの薄暗くて寒い部屋で抱きしめる三好さんの身体の温度が心地よかったことだけを、はっきりと覚えている。
夏組主宰の結婚式前夜祭には懐かしい面々が揃った。
俺や三好さんのように寮を出て独立した者や、演劇の世界から離れた者、今も舞台に立ち続けている者など、現状は様々だった。かつてこの寮で『役者』という等しい肩書を背負って共に過ごした仲間たちは、今それぞれ異なる道に進んでいるが、こうやって集まった時の空気はあの頃と一切変わらなかった。
正確には前夜ではないけれど、結婚式の前に三好さんの結婚を初期メンバーで祝いたい、という夏組からの連絡に、他の団員もすぐに賛同した。
監督に許可をもらいMANKAI寮に集まらせてもらって、料理は何を用意するか、できるだけみんなが集まれる日にちはどこか、せっかくなら各組からプレゼントも渡そうか、これだけのメンバーが集まるならエチュード大会をやりたい、など、普段そこまで活発に動くことがなかったLIMEのグループチャットが、すごい速さで更新されていった。なぜか主役の三好さんが一番張り切っており、主体となってあれがしたいとかこれを持ち込もうとか、彼らしい自由なアイディアで計画を進行させた。
パーティー当日は、まるであの青春の日々に戻ったような盛り上がりだった。主に夏組が中心となって企画した催しは全て大盛り上がりで、それらがすべて終わってからも、久々に再会した仲間との時間を誰もが慈しんでいた。
22時を回るころには、本人すらも結婚前夜祭という趣旨を忘れてしまったみたいで、ただの壮大な同窓会となっていた。俺も春組の皆と集まるのは久々だったので、彼等と近況について話したり、自身が執筆した現在のMANKAIカンパニーの脚本について他の団員と話したり、久々に寮のキッチンに立って料理をしたり、その時間を純粋に楽しんでいた。いや、むしろ同窓会としてめいいっぱい楽しもうと意識していたのかもしれない。三好さんが俺の知らない女性と既に籍を入れ、もうじき式を控えているという現実を受け入れるための猶予を自ら作ろうとしている浅ましさを、俺は自覚していた。
他の団員と話したり、料理をしたり、ふざけ合ったりする間も、俺はパーティーの中心にいる三好さんの姿を度々盗み見た。あのころよりも少し肉付きが良くなり、髪色も落ち着いた彼は、いつ見ても多くの人に囲まれて笑い合っていた。
三好さんが楽しそうでよかったと純粋に思う。だけどその集団の輪への入り方が分からない自身の有様を見つめて惨めになる。俺はその気持ちから目を背けるために、キッチンで伏見さんやガイさんの作業を手伝った。彼らとキッチンに並んで共に作業をするのは数年ぶりだったが、あの頃と変わらず連携が取れて安心した。
「綴も一成とちゃんと喋ったか?」
伏見さんはデザートのカッサータを切り分けながらそう言った。
「まぁ、挨拶は……。でも今日の主役をそうずっと独り占めするのも良くないし」
「あっはは!あの頃はお前らはいっつも一緒にいたのに。もしかして会うのが久々だから距離感が分からなくなってるのか?」
それは図星だった。伏見さんが切り分けたカッサータの皿にカットフルーツを盛り付けながら黙り込んでしまった。
「俺も太一と直接会うのが久々だったから、ここへ来るまでは少し緊張しちゃったよ。この寮に住んでいた頃はおはようとかおやすみとか、お腹すいたとか背中がかゆいとか、そんなくだらないことばっかり毎日喋っていたのに」
「ほんと、久々だと何を喋っていいかわからなくて……、それに急に結婚なんて」
「でも今のうちに話しておかないと、これから二人で喋る機会なんてもっと少なくなるんじゃないか?一成もデザインの仕事が順調みたいだし、家庭を持ったら友達としょっちゅう会うのは難しいだろ」
「そう……っすよね」
キッチンカウンターから三好さんの姿を探す。丁度冬組のみんなと話し終えて、ダイニングテーブルに並んだチーズやフルーツをひょいとつまんで食べている。
「ほら、一成もいま一人になったし、綴も話してこい。もうキッチンの手伝いはいいから」
「……っす」
三好さんの好物ばかりが並んだテーブルを見つめていた彼に声をかけた。「楽しんでますか」なんて、まるで他人行儀だ。声も震えて情けなさで胸がいっぱいになった。三好さんはそんなことを一切気にせず、ピックに刺さったチーズとオリーブの実を一口でほおばり、頬を持ち上げて笑った。
「うん! チョー楽しい! みんなとこうやって会うのっていつぶりだっけ? てかつづるんと会うのも一年ぶりとかだよね、ヤバすぎ!」
「そっすね。あの頃は毎日会ってたのに、変な感じですよね」
「てかさー、つづるんかっこよくなったね。昔は素朴な好青年だったけど、今は大人の男って感じで」
「そりゃ、俺ももう三十代ですよ。世間で言ったらおじさんって呼ばれる年でしょ」
「年下のつづるんがそんなこと言っちゃダメでしょー」
あ、意外とちゃんと喋れる。少しずつ会話がテンポに乗っていく感覚がある。軽やかな言葉を交わしながら、あの頃のような心地よさが蘇ってくる。そうだった、俺はこの人の、人の話を心から楽しそうに聞くところが、昔から大好きだったのだ。
「三好さんが結婚するって聞いて、本当にびっくりしました」
「でしょー? でも高校生の時オレは、25で結婚して28でパパになってるって思ってたからさ、オレの人生って意外とスローペースだなって思ったよね」
「そりゃ今の時代は……」
そこで突然、玄関の方からワッと騒がしい声が聞こえた。その声から、初代組の人たちが来たのだとすぐにわかった。おそらく彼らも三好さんの結婚を祝う名目で、みんなで集まって酒を飲みながら思い出話をしにきたのだろう。きっと彼らが三好さんを見つけたら、三好さんもそちらに引き寄せられてしまうに違いない。
この人をまだ独り占めしていたい、と思ってしまった。
「み、三好さん」
「ん?」
「あそこ、行きませんか。ちょっとだけ……五分だけでいいから」
彼の腕を強引に引っ張り、俺たちはこっそり談話室を出た。みんなアルコールが回っていて、主役がそこから抜けても誰も気づかなかった。
自分でもこの衝動を、どうやって対処すればいいのか分からなかった。久々に彼と会って、二人で喋って、信じられないくらい楽しくて、愛おしくて、もう少しだけ二人でいたいと、ただそれだけの気持ちだった。今日のパーティーの主役は三好さんで、今日この人を俺一人が独占するなんてあってはならないことだと先ほどまではきちんと理解していたのに、そんな理性よりも自分の利己的な欲求がわずかに上回った。
あの日……まだこの劇団の幕を上げるための準備すら整っていなかった大学一年の春の日に、ここへ三好さんを連れてきたのは俺だ。俺がこの人と劇団を繋いだ。誰よりもこの人のことを知っているつもりだった。あの日の功績は、俺が今日彼を独り占めする免罪符になり得るのかはわからないけれど、そんな子供じみた矜持だけが俺の背中を押した。
この寮へ来るのも数年ぶりなのに、身体が資料室の場所をはっきりと記憶していた。廊下を進んだ先にある資料室のドアノブに伸ばしかけたとき、三好さんが俺に引っ張られていた腕をグイッと反対方向に引いて、俺の足を止めた。三好さんは強張った表情で、じっとこちらを見た。湿った視線だった。
「あー……、あは、なつかしーね。あの頃よくここで鉢合わせたよね」
「……はい」
「……急に強引になったかと思えば、また急にしおらしくなってんじゃん」
彼に資料室への入室を止められて、途端に冷静になった。俺は一体、何をしようとしていたのだろう。帰る家があり、籍を入れた女性がいる、この男に。
「俺、もう30歳なのに、すげー子どもっぽいことして……、地味に自己嫌悪してる」
「30歳でも40歳でも、つづるんはオレにとって永遠に年下だから、別に多少我儘でも許したげる」
どうして今になって、そんな優しいことを言うのだろう。あの頃散々この人にからかわれて弄ばれた未熟さを、今はまるでかわいげの一つであるかのように許容してしまえるこの人のことが恐ろしかった。
「ここでのこと、覚えてますか」
「……んー、どうだろ。あ、そういえばさぁ、昔劇団七不思議で」
「俺と三好さん、資料室で何回もキスしましたよね」
「……俺たちもう、大人でしょ?」
三好さんはわかりやすく俺から目をそむけた。へらっと乾いたみたいに笑って、足元ばかりを見つめている。
別に今更この人と付き合いたいとか、結婚を阻止したいだなんて微塵にも思っていない。彼には幸せになってほしいと、心から願っている。
ただ、心の内で湧き起る疎外感を、自分一人で抱え込めなかったのだ。三好さんに『なかったもの』にされたくないと、願ってしまった。ただの通過点でいいから、あの青春のひと時に、俺との時間があったことを、消し去られたくなかった。
過去の一瞬でもいいから、この人の人生の一部になりたい。そしてそんな傲慢さを、今の三好さんに受け入れてほしかった。
「三好さん」
「なぁに」
「おれ、あの頃、三好さんと一緒にこの部屋で過ごす時間が好きでした」
「オレもすきだったよ」
「あのひと時が好きで、形を変えたくなくて、あえて名前を付けたがらなかったんだと思います」
「あはは、弱虫」
「……あの頃、三好さんときちんと向き合っていたら、俺たちの関係は変わっていましたか?」
「……もうこれは、過ぎた春の話だよ」
あの頃は、抱きしめるだけでよかった。キスができれば十分だった。彼の全部なんていらないから、この光の入らない埃っぽい資料室で二人きりになれるだけで満たされていた。
いや、そうだと思い込んでいたのだ。きっとあの頃の俺にとって、関係が変わることも、三好さんが自分のものになることも、誰かのものになることも、ぜんぶ何もかも怖かったんだ。
俺はあのころよりも古ぼけた資料室の扉の前で、三好さんの手を握ったまま向かい合って、彼の少し老けた顔を見つめた。この場所も、彼も、俺自身も変わった。けれど、三好さんのすっとした鼻筋や、ぱっちりとした目、そして掴んだままの手から伝わる体温の温かさはあの頃と変わらなかった。
三好さんの唇にそっと俺のものを寄せると、彼のほっそりとした指で制止された。俺の唇を端から端へ、つうっと親指で撫でつけられる。俺はその間何もできなかった。あの頃、爪の間にいつも絵具が入り込んでいたのに、今日の三好さんの爪は何の汚れもなく潔癖そうに切りそろえられていて綺麗だった。
「これで我慢ね」
「……全部、過去になったんですね」
「うん。もう遅いよ、ぜんぶ」
「……俺、三好さんの幸せを願ってます」
もう抱きしめられない。
もうキスもできない。
何をするにも手遅れなのだと実感する。この資料室の扉は俺たちが開けていいものではなくなった。談話室のほうから、他の団員の笑い声が響き渡る。もう主役を独占していい時間は終わった。戻りましょうか、と言うと、うん、と小さな声で三好さんは答えた。ずっと繋ぎっぱなしだった手がパッと離されて、三好さんは俺を追い越して談話室の方へ向かった。
こんな時にも、彼は俺の先を行く。そして俺は三好さんが残した、長くたなびく春の名残を、いつまでも惜しむように手繰り寄せながら生きていくのだ。