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    ゆるゆる書いてた町日

    #至綴
    toTheExtension
    #町日
    townDay

    「はああああ、やっぱ、町田先生カッコイイよな〜」
    恍惚とした表情で、日野は宙を見つめる。試しにとその視線の先を追ってみたがやはり何も無い。いつもの発作かと、西園寺はため息をついた。
    「あ、ため息つくと幸せが逃げるぞ」
    「なら僕の幸せはお前が吸い込んでいるんだろうな」
    西園寺の言葉に、日野はキョトンと大きな目を瞬かせた。
    「またまたー、皇帝もそういう冗談言えるようになったんだなあ」
    うんうんと訳知り顔で頷く日野に西園寺思わずこぶしを握りかけ、思いとどまった。
    いけない、手に負担がかかる。
    この程度、そう思わなくもないが何がどう作用するか分からない。余計な負担をかける必要は無い。そう自分を戒め、どうにか意識を逸らそうとする。だが無慈悲にも苛立ちの原因は言い募った。
    「なあ、西園寺もそう思うだろ」
    「何の話だ」
    「町田先生だよ! カッコイイよなぁ」
    「顔の造作は整っていると思う」
    「お、話が分かるじゃん。西園寺も悪くないよ、先生には負けるけど」
    またデレっと日野の顔が溶ける。西園寺は自分の容姿にさほど興味はないが先程の日野の言葉には非常に腹が立った。
    「そんなに好きなら告白でもなんでもしてきたらいいだろう」
    ちょっとした意趣返し。これで慌てふためくもよし、そういうのじゃないんだよ!と文句を言われるのも想定内だ。しかし、日野の反応は予測していたどれでも無かった。
    「……言えないよ」
    らしくない、儚い笑みを浮かべて、静かにそう言った。西園寺は後悔した。気安く踏み入っていい場所ではなかった。彼の柔い所を自分は今踏みにじったのだ。
    「日野……」
    「そんな顔すんなよ! 余計惨めになるじゃん!」
    冗談めかして笑う彼に西園寺の胸はより一層痛んだ。だが、誰よりも苦しいのが日野だということも分かっていた。
    「……たまになら、話を聞いてやる」
    たまにだぞ、そう念押しして西園寺はバツが悪そうにそっぽを向いた。日野は一瞬何を言われたのか分からないという顔をしたが、数拍置いてぷっと吹き出した。日野はそれを皮切りにゲラゲラと笑い出す。それに困ったのは西園寺だ。
    「お前、人が真面目に……」
    「いや、ごめん……、だって……」
    ヒーヒーと器用に椅子の上で笑い転げる日野に西園寺の顔は徐々に赤く染っていく。
    気をつかったらこれだ!
    もう知らん! と心からそっぽを向いた西園寺に対して、ようやく落ち着いたのか日野が機嫌を伺う。
    「怒んないでよ〜」
    「知らない」
    「飴ちゃんあげるからさ〜」
    「いらない!」
    日野の振る舞いは拗ねた子どもへの対応そのものだ。西園寺の心はどんどん閉ざされていく。仕方がないなと、日野は眉を下げた。仕方がないのはどっちだ。
    「嬉しかったんだよ」
    「……なら笑う必要なかっただろう」
    「だって出ちゃったんだもん」
    あっけらかんと悪びれもせず言う日野に、西園寺は今日一番のため息をついた。
    「幸せが逃げるよ?」
    「それをお前が吸うんだろう」
    それなら、ため息も悪くはない。
    また不思議そうに瞬いてから、日野は心底可笑しそうに笑った。

    ×××

    日野の恋心を暴き立ててしまってから数日、僕はあることに気がついた。いや、気がついてしまった、と言うべきか。
    「西園寺、どうかしたか?」
    「いえ、特には」
    そうか? と不思議そうにしながらも、要件を告げる教師をじっと見つめる。書類を確認しながら話す姿は美しい。男を表すには不似合いかもしれないが、凛とした花のような気品がある。
    しかしそれは、とある人物を目にした瞬間散ってしまう。
    「あ、町田センセー!!」
    少し離れたところから大きな声を出して大きく手を振っている人物。彼はまるで飼い主を見つけた犬のように一目散に駆け寄ってきた。
    「あれ、西園寺もいた」
    「むしろあの位置ならボクが先に見えるはずだが?」
    「町田先生しか見えてなかった!」
    てへっ、と可愛くもないぶりっ子をして、そういえばさー、と雑談を始めているこの男、日野の自由さに思わずため息が漏れる。先日のあのしおらしさはどこへ行ったのやら。
    夕暮れに思いを馳せていると、見知った顔がこちらに向かって来るのが見えた。……ただならない様子で。
    彼は一直線にこちらへ来ると日野のパーカーを後ろから引っ張りあげた。
    「ぐえっ!」
    「やあ、元気そうだね、日野。ところで俺は第三音楽室に来いってお前に言わなかったけな?」
    にっこりといつもの笑みを貼り付けてはいるが、その裏から滲み出る怒りは相当なものだ。
    「お前がどうしてもって頼むからわざわざ時間を作ってやったのに、これはどういうことかな?」
    「ごめっ、先生、ギブ、ギブ」
    ぺちぺちと日野は自身の首を絞める東條の手を叩いた。全面的に日野が悪いが、さすがに哀れだ。何より、このことで体罰教師などと先生の評判が落ちるのはよろしくない。ボクは仲裁に入るべく手を持ち上げた。が、一足先に別の手が二人を引き離した。
    「東條先生、そのくらいにしてあげたらどうですか?」
    「……そうですね、俺も大人気なかった。悪いな日野」
    パッと手を放した途端、床にころがって間抜けな声を出す日野に呆れた視線を向ける。
    「うぅ……酷い目にあった……」
    「自業自得だ」
    「ちぇーっ」
    「お仕置きが足りなかったかな?」
    「そんなことないです!!ごめんなさい!!」
    東條先生のセリフにビンっと背筋を伸ばして謝る姿は滑稽としか言いようがない。
    「全く、用事があったんだろう」
    「うん!ごめんね、先生。忘れてた訳じゃなかったんだけど、町田先生見たら吹っ飛んじゃって」
    「俺はお前のなんなんだ」
    あ、と思った。町田先生の言葉に、一瞬だけあの日の笑顔が重なる。それは本当に一瞬で、そのことを知らなければ気にもならなかっただろう。
    「だーい好きな先生!」
    語尾にハートをつけて、冗談めかして言う姿に、なんとも言えない感情が胸をかき乱す。よく聞く戯言。そう流していた言葉にはどれほどの感情が込められていたのだろう。知ってしまったのは数日前だと言うのに、もう知らなかった頃が懐かしい。
    「ほら、行くよ」
    「はーい! じゃ、またね!」
    そう駆け出した日野の背中を見送る。それは廊下の角を曲がってすぐに見えなくなった。自然と、ボクは隣に残った町田先生の方を向く。
    獲物を見つめる、獣の姿。日野の知らない、町田先生の姿。
    「町田先生」
    「っ! どうした?」
    「……いえ、話を戻しましょう。日野が来たせいで中断してしまった」
    「あ、ああ。そうだな」
    一声かければ、それはまた霧散した。いつもの、ボクたちのよく知る町田先生だ。
    この人も、日野のように言えない思いを抱いているのだろう。だが、この人にボクに言えることは何も無い。何も無いのだ。それでも願ってしまうのは、きっとあの男のせいだろう。
    どうか、良い結末が迎えられますように。
    居もしない神にそう嘯いた。
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    hinoki_a3_tdr

    MOURNING記憶にない町日
    故に尻切れとんぼ
     助っ人に西園寺が入ると聞いた時、ああ、このコンクールはもうダメだなと思った。天上天下唯我独尊を地で行く我が校きっての天才、西園寺エニス皇帝陛下。彼は前述の通り、協調性の欠片もなかった。カルテットを行う上で一番重要なのは息を合わせることだろう。誰とでも、いつでも合わせられる。それが一流に求められる素養だ。西園寺にはそれが欠けていた。だから無理だと思った。
     しかし、意外にも西園寺はカルテットを経て少しずつ変わっていった。人と変わることで今まで投げ捨てていた情緒が育ったらしい。当然、演奏にもそれはプラスに働いた。コンクールで優勝が狙えるほどに。もしかしたら、優勝できるかもしれない。出場すら怪しかった俺たちが。できるだろうか。いや、やってやろう。そうしたら、もう少しだけ勇気が出るかもしれない。

     なんて、青春っぽく表してみたが大したこでは無い。優勝できるかも、なーんて、浮かれた思考に引きづられ勢いの波に乗ってしまえー!ということである。そして乗った。展開が早い?? そんなことは知らん。そちらで適当に補完しておいてくれ。
     俺は教師である町田先生が好きだった。男性教諭である。惚れた理由諸々 3896

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