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    KsmrLxh

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    いつかの診断お題で出たやつその1です(再録。初出は2021年6月)

    耳かき无风 「 耳かき? 」
     「 耳かき 」
     「 ……耳かき? 」

     きょとんとした顔で繰り返した風息は、右手をまるめて、自身の耳の辺りを引っかく動作をした。耳の後ろから前へ撫でつけるように、妖精のとがった耳が一度つぶれて、ぴょんと跳ねる……ネコ科の動物が顔を洗う仕草だ。

     「 いや、そうではなくて……人間の体は、新陳代謝で老廃物が出るだろう。それが耳の中にもたまるから、道具を使ってそれを掻き出すんだ 」

     ふうん……?風息は私のまるい耳を眺めながら、人間は大変だな、と呟いた。人間と妖精とでは、どうしたって体のつくりも生き方も違う。この言葉は風息がそういった違いに触れるたび、味がわからないながらもひとまず飲みくだしたときに、よく使うものだ。彼にそんなつもりはないのだろうが、たいていはそれで話題に区切りがついてしまう。
     なにも、風息の膝枕で耳かきをしてもらう……なんて甘い展開を描いていたわけではなかった。まったく思い浮かばなかったかといえば嘘になるが、現実でないからこそ思い描ける夢というものもある。

     任務の合間の、のんびりした休日だった。開けた窓からゆるく風が吹き込み、窓辺に並ぶ風息の植物たちの葉を揺らしていた。次いで揺れた己の髪をかき上げたとき、伸びた爪の感触が意識にとまった。そこで、ここのところ頓着していなかった自身の体を構おうと、まずは爪を整え、そうしてふと耳に意識が向いたのだった。

     風息はそのとき、植物の鉢のひとつを引き寄せ、手入れをしていた。耳かき棒を探してうろつく私に気づき、声をかけてくる。そうして目的のものと、その用途と、その理由とを私は説明し、風息はおなじみの感想を漏らす。
     私と話していた間手を止めていた風息は、再び植物に向き直ると、はさみを動かした。ぱちん。黄色く変わった葉先が落ちる。風息の手つきは優しく、迷いもなかった。私はその音を聞きながら、改めて耳かき棒を持ち直す。
     耳かきはしなくてもいい、とも聞くけれど、まあ駄目なものでもあるまい。多少おざなりに両耳を軽く掃除し、ふと気づけばはさみの音が止んでいる。
     興味深げに風息がこちらをのぞき込んでいた。

     「 へえ、そうやってするのか 」
     「 ……見て楽しいものでもないだろう 」

     風息にしてもらいたがっていた己を棚に上げ、少し身を引く。気恥ずかしいというよりは、多少落ち着かない。耳かき棒をぬぐって、出たごみを片付ける。道具をしまおうと立ち上がると、その動作を風息の視線が追いかけてくる。

     「 風息もやってみる? 」

     提案してみれば、風息は盛大に顔をしかめた。

     「 急所に凶器を突っ込むなんて冗談じゃない 」

     凶器って。苦笑して、風息が言うところの凶器をしまい込んだ。確かに危ういところにものを入れる行為ではある。まして妖精には必要ないものだ。

     「 人間の、一種のグルーミングだ 」

     先ほどの風息の仕草を思い出しながら、一応付け加える。耳を清潔に見目好く保つ。あるいは、……相手に急所を預ける行為、受け入れる行為。信頼の証、愛情の印。
     いずれの先に繋がればいい、と多少の下心を持って風息のきれいな耳を撫でた。むずかるように頭を振って手を避ける風息の、髪が揺れてぱさぱさ鳴る音が、私の耳に届いた。
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    KsmrLxh

    MOURNING映画後IFの無と風の話。をずっと書きたかったのですが年単位で滞っていて完成の目途が立たずにいるので、せめて一部を公開し供養とします。他者を通して「風息」を知る無限を書きたかった。
    前半:ミン先生と無限
    後半:虚淮と無限(会話なし)

    唐突に始まり唐突に終わる。
    【ミン先生と無限。事件後先生の家を訪れる無限】


     風息が【強奪】を使った相手には、ミン先生も含まれていた。
     けれど、館にミン先生から連絡があったという記録はないようだった。
     意図はどうあれ、事実がある以上は話を聞かなければならないということで、事件直後の急務をなんとか終えた後、彼を訪ねるという執行人に私も同行したことがある。
     龍遊で起こった事件の後始末は、龍遊の館でつける。本部の意向はおおむねそれであるが、稀にみる大規模な事態となったために、収拾の助けにナタが派遣されていた。けれど私は、少し立場が違う。私の任務はあくまでも風息一派の捕獲であり、それが結果として意を失った以上、任務はそこで終了していた。私自身が、何より弟子として迎え入れた小黒が事件に深く関わったことで、顛末を知る必要があるとは考えていたし、実際に潘靖にそう話し事件後もなにかと関わり続けていたが、実のところ、こういった枝葉の情報収集は本分ではなかった。それなのに多少強引に理由を付けて同行したのは、ミン先生の語る「風息」に幾分かの興味があったからだ。
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