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    はるしき

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    はるしき

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    優しい夜(零盧)
    イチャラブ。

    ##零盧

     ふが、と盧笙は鼻を鳴らし、ビクリと反動で身体を震わせると、パチリとその目を開ける。
     柔らかいラグの下の固い感触が背と頭をきつく刺激し、肩が痛む。
     自由に伸びた腕と足の感覚に、盧笙はようやく自分の体勢を脳で理解する。
    「……あかん、寝てた」
     床に大の字に転がった体勢のまま、盧笙は掠れた声で呟く。
     室内灯が煌々と照らす中、よく眠れたものだ。盧笙は自分自身に呆れた。
    「よう。おはようさん、か?」
     斜め上から降ってきたその声に、盧笙は僅かに顎をあげ視線を向ける。
     そこには、机にノートパソコンを広げ立て膝をつきながら盧笙を見下ろしていた零がいた。
     そうだ、と盧笙は思い出す。
     二人で酒を飲んでいたのだった。最初は缶ビールでお疲れ様と乾杯し、チューハイを一本空けた後、零が土産だと言って持ち込んだ日本酒をグラスで飲み始めた辺りからの記憶が無い。
     つまりは、その頃から盧笙は意識を手放し始めていたのだろう。まぁいいか、と盧笙はふうと息を吐いた。吐き出す息に酒精の薫りが混ざっていて、盧笙は僅かに眉を顰めた。
    「何時……?」
     掛けたままの眼鏡を額の上にずらし、目を擦りながら盧笙が問う。
    「10時ってとこ、だな」
     零は普段と変わらない様子で、盧笙の問いに答えながらノートパソコンを閉じる。10時と言うことは、1時間近く眠ってしまっていたかもしれない。しまった、と盧笙は内心舌打ちをした。折角二人で、簓が居ない夜を過ごせると思ったのに。
    「……零、何してたん……?」
    「ちょいと仕事だよ」
    「……詐欺?」
    「社長業の方だよ」
     胡乱げな瞳で零を睨む盧笙の視線に、信用ねぇなぁ、と零は肩を揺らして笑い、乱れた盧笙の前髪を掻き上げる。
     平時は額を出すように整えられた前髪を掻き上げると、盧笙は零の手の温かさに、ほぅ、と息を漏らす。
     煙草の臭いが染みついた指。盧笙はこの指が好きだった。
    「零、布団連れてってや」
     零を見上げ、盧笙は大きく広がっていた両腕を上げ、零に向かって伸ばす。
    「……いいのか?」
    「なにが……?」
     零の慎重な声で紡がれた問いに、盧笙は眩しそうに目を細めながら、零を見つめ聞き返す。
     なにが、とは。
     零は咄嗟に答えられなかった。
     家主である盧笙の寝室に零が足を踏み入れる際は、彼を抱く時と暗黙の了解で決まっていた。
     今、眠気と戦う彼を抱く気にはなれない。
     そんな自分が、彼の寝室に入っても良いのか。
     零の頭には沸々と疑問が湧き上がる。
    「えぇから、はよ」
     そんな零の悩みも知らず、盧笙は両腕をあげて、せがむ。
     子供のように甘えるその仕草は、普段凜と背筋を伸ばした彼の姿から想像が付かないほどあどけなく、愛らしい。
    「……んじゃ、お言葉に甘えて」
     零は嘯くように笑い、盧笙の身体に覆い被さるように両手をつき身体を屈める。ふふ、と微かに笑った盧笙は、伸ばした両腕を零の首の後ろに回し、両膝を揃えて曲げる。
     両腕を上げたことでできた隙間と軽く曲げられた膝の裏に腕を差し入れた零は不安定な体勢ながらも両腕と膝を突いた足に力を込め、盧笙の細くしなやかな身体を抱き上げる。
    「ん、ふふ」
     頬に当たる零の髭の感触に、盧笙は擽ったそうに身をすくませ笑う。機嫌が良さそうな盧笙の姿に、零も思わずおかしそうに笑う。
    「おらよ」
    「ん」
     片足で器用に寝室の扉を開けた零は、恭しくベッドの上に盧笙を寝かせる。その優しい仕草がおかしく、また笑い出しそうになった盧笙は口元をもじもじと歪めながら自ら眼鏡を外しヘッドボードに置く。
    「零」
     一言。盧笙が名を呼ぶだけで、盧笙が何を求めているか零は理解する。
     随分と懐かれたものだと、零は自嘲する。
    「邪魔するぜ」
     成人男性より背が高い盧笙のベッドに、零は膝をつき身体を沈める。
     自分の意図が伝わったことが嬉しかったのか、盧笙はゆるりと目元を緩め零の胸元に身体をすり寄せる。
    「はぁ……ぬく……」
    「俺を行火扱いするのなんざ、世界中探してもお前だけだぜ、盧笙」
     肘枕をつく零の胸の中で安堵の息を漏らす盧笙の腰に腕を回し、軽く引き寄せながら笑うと、盧笙は眠そうに半分瞼を閉じながら、んん、と僅かに唸る。
    「零は行火やなくて、零やし」
     唇を尖らせた、不満げな盧笙の言葉。
     恐らく煙草をくわえていたら、その言葉の甘さに驚き煙草を落としていただろう。
    「あかん、もう寝る」
     動揺する零の心も露知らず、くぁ、と小さな口を開け欠伸を漏らした盧笙は、涙がにじんだ目を袖で擦りながら零の胸に頬を寄せたまま目を閉じる。
     天然、お人好し、と揶揄される盧笙に振り回されている自覚はある。ただそんな自分も、嫌いでは無い。
    「おやすみ、盧笙」
     零は僅かに笑み盧笙の前髪を掻き分け、白く丸い額に唇を寄せ、ヘッドボードに置かれたスイッチを手に取りシーリングライトの電気を消した。
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