偏食の男③虫が転がっている。
足を畳み空を仰いでいる虫をじっと見つめる。
もう、動かないみたいだ。
セリカも目を細めて空を見る。青い空が見えた。
「もう、動かないのか?お前。」
虫は答えることはなかった。
ふぅとため息をつき踵を返した。
「おお、少女ヨ。なんと哀れな事カ。」
男の独白が聞こえる。
キールは胸に手を当ててセリカの前に現れる。
足を組み、セリカと目が合うとゆっくりとお辞儀をした。その様は、舞台上で劇を披露する男優だった。セリカはキールの様子につまらなそうな顔をした。
「チリチリかよ。何のようだ?」
「健気な少女を演じル。そんな貴方に敬意ヲ。」
「難しい事分かんねーよ。」
いつも以上に分からない。と同時にキールの奇妙な言動に軽く怖気が走る。本能的に距離を取ろうと少し下がった。
「人間のフリなどもうしなくていいんダヨ。セリカ。貴方は、紛う事なき怪物ダ。」
その言葉に心底不快になる。静かにキールの顔を見上げる。
「してねーよ。」
その言葉にキールは涙を流して膝から崩れ落ちた。
「まさか!?そんな!!おお、ディーゼル。なんて残酷なんだ。この健気な怪物に自覚すらしてやらないなんて!!」
胸の前で手を祈るように両腕の指を絡ませる。
天に祈るように、懺悔するように続けた。
「おお、我が愛よ懺悔します。懺悔します。」
セリカは懺悔を続ける異常な様子のキールから離れようとするが、うまく体が動かない。
そこで突然後ろから肩を引かれ、大きな背中の後ろに回される。一瞬のことで肝が冷えたが、すぐに、
いつも共にしていた男の背中だと気づき、気持ちが落ち着いた。思わずほっと息をつく。ディーゼルは肩で息をしていた。
ディーゼルがキールに銃口を向けていた。
「あんまり図に乗るなよ。キール。」