電話ボックス①「死者と話せる電話ボックス?」
ホテル内、エルツさんの営むバーで酒のつまみに用意されたものを軽くつまみながらロイドはさっきまで聞き流していた話を遮り、話をしていた主であるレディに訝しげに聞き返した。
「そ。最近私のファンがそんな話をしたの」
レディは人差し指をロイドの鼻先に向け、自身ありげに笑ってみせる。
「死者って...そんなわけ...」
「そう?ホラーの定番だと思うんだけど」
ペロリと下唇を舐め、レディは注がれた麦酒を呷る。
「ていうか、本当に自由だな」
評判とか、立場とか。気にしないんだろうな。と思う。半ば呆れたようにため息をつく。それに対して、少し目を逸らし拗ねたようにレディがぼやく。
「まぁ、それがわたしだし。もう身勝手な事はしないように気をつけるわよ」
「あ、いや俺もレディは少し変わったと思うよ!」
「なぁに?その上から目線!」
ロイドの必死のフォローに吹き出して笑う。その笑顔にはあどけなさも自然さもあって、いつもの笑顔とは違う魅力がある。
「そういえば、レディ。この前一緒にいた女の子は?」
「ああ、アンのこと?」
「レディが特別誰かと出かけてるの見たことないからさ、友達なんだろ?」
「その話、したくないなぁ....」
少しいじけるように指で毛先を弄び始める。
「なんで?」
「アンは私の友達だから」
「ええ〜・・・」
深夜の外の空気にレディは身体を伸ばす。酔いに火照った身体に優しい風が身体を撫でる。上機嫌な足取りなままロイドの方にくるんと向き直り、笑顔を向けた。
「じゃあ、私は帰るわ」
「またソファで寝るなよ?」
「寝ないわよ!ばーか!」
「送ってくよ」
「ううん、一人で...帰るわ」
「でも」
「いいの」
キッパリと断られる。確かに普段見せている不甲斐ない自分ではいささか頼りないところではあるだろう。気まずさに頭をかいていると、ふとレディの顔が先ほどより近くにロイドを見つめていた。酒に潤んだ瞳と目が合い、思わず一歩後ろに下がる。レディはそのまま口をゆっくり開いた。
「貴方だったら電話ボックスでなんて話す?」
「え...」
「...謝るかな」
「なんで?わたしと一緒ね。ロイドらしいわ。でもロイドのことだからわたしとは違って...」
「殺したくなって、殺した」
「え?」
ロイドからの言葉にレディは思考を止まらせる。短い期間とはいえ、今まで見てきた彼の人間性を覆すような言葉は彼が冗談では絶対的言わないようなことだと知っていたからこそ、その言葉の意味を理解するまでに酔いは冷めていった。