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    HajimeJime_prsk

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    HajimeJime_prsk

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    一筋縄ではいかない類との信頼関係に奮起する司の話。

    ・司類ワンドロワンライに投稿した過去作を追記修正。お題は「コンビニ」「ゲーム」。
    ・ユニスト後~ワンハロ6話あたりの時間軸。
    ・司→→→→→類(ブロマンス)
    ・作中での司の行動はテーマに沿うための捏造なため、真実性は無し。苦手な方はご注意を。

    アンコール 陽が傾いた夕方、司はフェニックスワンダーランドの近くに建つコンビニに向かった。悠々とした足取りで自動ドアを潜り、菓子コーナーで目的のものを見つけて少し悩んだ後、しっかりと手に取ってレジへと進む。カウンターにしっかりと置いたのはプラスチックケースに入ったラムネだ。司はそれを自分用ではなく、ユニットメンバーへ渡すためのプレゼントとして選んでいる。

     『ワンダーランズ×ショウタイム』が結成されてから数日。司は座長としてメンバーの特徴を把握しようと自己紹介を提案した。名前はもちろん、通っている学校や好物、苦手なものといった少々深い内容まで披露するそれは、乗り気でない寧々を除き賛成された。
     司の大声から始まり、えむの快活な紹介、寧々のシンプルな回答、類の芝居じみた語りと、実に個性的な自己紹介がなされた。そうして仲間のことを詳しく知った司は、さらに親交を深める方法としてそれぞれの好物を渡すことを思いついた。
     今後は座長の自分を頼る場面も出来るだろう。であれば、頼りやすい雰囲気を事前に作っておくこともきっと座長の役目だ。そんな期待に満ちた使命感がいま、司を動かしていた。

    「会計、お願いします!」

     ラムネが店員の手に渡る。司は『買い物のときに決めるかっこいいポーズ その十』で支払いを済ませた後、ラムネをスクールバッグに入れてコンビニを出た。そして、夕染めの歩道で司を待っていた類と合流し、帰路に着く。

    「ずいぶんと早い買い物だったね。明日の朝食かい?」
    「いいや。朝食は毎朝、母さんが出してくれるものを食べるんだ。コンビニで済ませることはよほどじゃない限りしないな」
    「へぇ。司くんはしっかりとした朝食を摂るんだね」

     類はそう、笑みを薄く延ばして言った。感心したような言葉に親を誇る気持ちが湧き「スターは体が資本でもあるからな!」と力強く返す。「なるほど、演出を加減する判断基準として参考になるよ」と類はにっこり頷いた。
     話題を演出に繋げるあたり、本当にショー中心の思考回路なのだな、と司は思う。会話は弾んでいるように感じるが、だからと言って仲が深くなったわけではなさそうだ。類は基本的に人当たりの良い表情で話すのではっきりした溝を感じにくいのだ。そう、まだスタート地点なのだと気持ちを引き締め、司はバッグに手を潜らせて先ほど購入したラムネを手に取る。

    「類、お前にこれをやろう」

    夕焼け空に目を向けていた類が振り向いた。差し出されたものを目に留めて数秒見つめたのち、「これは?」と問いかける。

    「ラムネだ。好物なのだろう? 受け取ってくれると嬉しい」
    「……賄賂なんて無くても、座長の要求には全力で応えるつもりだけれど?」
    「賄賂じゃないわ! おい、悪い笑みをするな! 贈り物として素直に受け取れぃ!」
    「冗談さ。ありがたく頂戴するよ」

     類はにっこりと笑ってラムネを受け取る。ラベルを一周見た後、バッグの中へ丁寧に差しこんだ。

    「……正直、お前はラムネを好むように見えなかったから意外に思った」
    「好み……というより、低コストかつ効率的に糖分補給が出来る点で好んでいる、というのが大きいかな」
    「む。そうだったのか」

     低コスト、と聞いて先ほどコンビニで済ませた会計を思い出す。レジの画面に表示されていた金額は百円程度で、確かに安い買い物だった。しかし、類の言う好みは司の捉え方とずれており、「それは果たして好物といえるのだろうか」と逡巡してしまう。それでも、「効率を重視する」という類の人間性を知れたことに満足感を覚えた。相手の内面を知ることは、信用と友情を繋いで行く大切な過程なのだから当然の感情だ。
     行く先を照らす夕日を見つめる類の足取りは、幾分か穏やかになっている。


     ■  □  ■


    「あんたがやってること、好感度上げみたい」

     司は瞠目した。グレープフルーツジュースを渡されて掛ける言葉としては噛み合わないように感じたからだ。意図が伝わっていない司の様子に、寧々は全く遠慮のない溜息を零す。

    「好物プレゼントして相手の好感度を上げる、っていうのがゲームのシステムと似てるって言ってるの。えむにも類にもしてるんでしょ?」
    「あぁ、オレは頼れる座長になる男だからな! それに――」
    「うわ、あからさま。餌付けじゃん……」
    「いま素晴らしいことを言いかけていただろうが!
     コホン。……それに、お前たちはこれから共にショーを作り上げていく仲間だ。そんな仲間のことを知るにはきっかけが必要だと思ってな」
    「へぇ……」

     司の仲間思いな発言に寧々は思わず感心し、目の前の男へ少しだけ上向きな評価をくだす。それを声色で察した『目の前の男』はたいそう自信に満ちた笑い声をあげながら、「ゲーム」と聞いて昨夜の出来事を思い出していた。
     それは妹の咲希が遊んでいた育成ゲームだ。入浴後、湿らせた髪をそのままにするほどには夢中なようで、司は湯冷めを注意しながら彼女の髪をタオルで拭いてやっていた。楽しいかと聞けば元気よく頷き、育てているペットが成長していく姿を見るのが楽しいのだと声を弾ませていた。加えて、成長するたびペットのことを知れるのにワクワクするとも。大好物らしいえび天丼をひょいひょい与える様子にペットの胃もたれを心配したが、司の心配をよそにペットは元気よく、目に見えて成長していた。
     好物を与えて懐かせる。懐く度に相手のことを知る。その流れは、司の「相手の好物を贈る」という行動と確かに似ているように思えた。回想を経てようやく寧々の言いたいことが分かった司はふむ、と腕を組む。

    「まぁ、相手を知るということが楽しいのは事実だ。手に取るように――とまでは言わんが、お前たちのこともだいたい分かってきたつもりだ。コミュニケーションに欠かせない積み重ねだと実感しているぞ」
    「でも、類にはよく振り回されてるよね。二重の意味で」
    「それは! あいつの提案する演出が突拍子もないからだ!」

     本日も類の演出案は大胆かつハイレベルだった。数日練習した、ワイヤーでの補助付きアクロバットをどこで使うのかと思えば、ワンダーステージの上から颯爽と現れる勇者のシーンだと言う。目立ちたがり屋な勇者の性格がよく表れているとの主張に異論は無いが、例えワイヤーアクションだとしても慄くのは仕方ない。
     しかし、司は類が役者の怪我もお構いなしに演出を付ける人間でないことはここ数日で理解していた。練習での様子もあるが、たまに一緒になる帰り道に「役者には限界を超えてほしいと思っているけど、危険な目に遭わせたいわけではないことは分かってほしい」と話していた類の言葉で確信に変わった。役者を傷つけてまで演出案を押し通したいわけではない、そんな意思を察したのだ。
     だからこそ、練習に力が入るというものだ。今は休憩中だが、終わったあとに十分体を動かせるようストレッチは欠かさない。そんな司の意気込む姿を横目に、寧々は貰ったジュースを飲みつつ類の様子を窺った。彼は時おりラムネを口にしながらステージの計測を行っている。
    寧々はふと、昔の彼がしていた昏い瞳を思い出した。中学の頃に見かけた諦めきった瞳が、今や演出が形になることへの期待に輝いている。その変化を見れば、類の自由を重んじる寧々にとっては口角がふんわりと緩むのも自然なことだった。


     ■  □  ■


     ……夕焼けが眩しい。
     夕方とは、こんなに静かだっただろうか。

     ふと、えむが夕焼けを苦手としている理由を思い出して、司のなかの悔しさが類のかたちを取った。あれもこれもと高い声で喋る彼の笑顔がすっかり仕舞われたことがひどく寂しい。
     今日の練習を振り返りながら帰路を歩けば、手に触れる感覚に違和感があった。何かを握っている。視線をやれば、見覚えのあるラムネのプラスチックケースがそこに収まっていた。普段とラベルの色が違うのは『期間限定』という単語に興味を持つ類の素振りを見たからだろうか。

    ――『あんたがやってること、好感度上げみたい』
    ――『仲間のことを知るにはきっかけが必要だと思ってな』

    「…………っ」

     好物は親交のきっかけである。かつての自分の言葉を思い出して、本当にきっかけであることを今さらながら思い知る。

     類は誰にも相談せず演出を改変していた。それは、彼にとって自分が未だ『頼れる座長』ではないことを裏付ける。少なくとも、司はそう思っていた。
     ただ、司による仲間への贈り物は決して独りよがりの行為ではなかったと言えるだろう。互いの内面を知る良いきっかけとなり、彼らの息はユニット結成当初より合ってきていたからだ。信頼関係が着実に築けている証だと心から誇っていた。
     そうして仲間へ贈り物を渡す過程で強く印象に残っているのは、類の笑顔だ。贈り物を受け取るときに見せる笑顔が、人当たりの良いものから素直な喜びへ変わっていく。その変遷に気付いたとき、謎めいた彼の内面を紐解けている感触に充足感をおぼえた。同時に、校内で類を恐れる生徒たちに対し優越感も抱いていた。神代類は得体が知れないかもしれないが実は人間らしいし、自分はそのことをきちんと知っているのだと。
     だから、今までの自分は「類に深く信用されている」と浮かれていたのかもしれない。好物を与え続けたとして、真の意味で信頼関係を獲得できるわけではない、それが現実なのに。ゲームのようだと揶揄されたいつかの記憶が過り、再度悔しさがふつふつと沸いてくる。
     もちろん、いつでも真摯に物事と向き合う司はゲーム感覚で親交を深めていたつもりは無い。ただ、知る度に楽しいと、もっと解明したいと熱中する勢いはあった。そして、司はいつしかその熱を類だけに向けていた。掴めない雰囲気のせいだろうか、理解に時間を要する人物だからだろうか。原因など、過去に戻れない司には分からない。ただ、いま断言出来ることは。

    「ゲームなどでは、ない……」

     存外、低い声が出た。自分に対する落胆と怒りが、下手に混ざった絵の具のように混在している。
     司は手に握っていたプラスチックケースを躊躇なく開け、ラムネを一粒噛み砕いた。さらなる信頼を築くとしても、ラムネがふたりの仲を手助けすることはきっと無いだろう。
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    HajimeJime_prsk

    PAST一筋縄ではいかない類との信頼関係に奮起する司の話。

    ・司類ワンドロワンライに投稿した過去作を追記修正。お題は「コンビニ」「ゲーム」。
    ・ユニスト後~ワンハロ6話あたりの時間軸。
    ・司→→→→→類(ブロマンス)
    ・作中での司の行動はテーマに沿うための捏造なため、真実性は無し。苦手な方はご注意を。
    アンコール 陽が傾いた夕方、司はフェニックスワンダーランドの近くに建つコンビニに向かった。悠々とした足取りで自動ドアを潜り、菓子コーナーで目的のものを見つけて少し悩んだ後、しっかりと手に取ってレジへと進む。カウンターにしっかりと置いたのはプラスチックケースに入ったラムネだ。司はそれを自分用ではなく、ユニットメンバーへ渡すためのプレゼントとして選んでいる。

     『ワンダーランズ×ショウタイム』が結成されてから数日。司は座長としてメンバーの特徴を把握しようと自己紹介を提案した。名前はもちろん、通っている学校や好物、苦手なものといった少々深い内容まで披露するそれは、乗り気でない寧々を除き賛成された。
     司の大声から始まり、えむの快活な紹介、寧々のシンプルな回答、類の芝居じみた語りと、実に個性的な自己紹介がなされた。そうして仲間のことを詳しく知った司は、さらに親交を深める方法としてそれぞれの好物を渡すことを思いついた。
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