ずっと、わからなかったのに。.....
何度一緒に溶けたあとだっただろうか。
お互いの腕の中で微睡むような、そんな頃合いだった。
「ねぇ、ユーヤさん」
ふいにおもむろに名前を呼ばれ、ぼぅ…と意識を浮上させるとあいつは俺の頬を撫でて言った。
「 、って言って」
「“ ”。……?」
そうこの距離だから聞こえるささめき声に、起き抜けで、それ以外の理由もあった気はするが…あいつにしか聞こえない声でオウム返しに言うと「ふふ、」と小さな笑い声をもらし顔を俺の首筋に埋めてきたのでそのまま頭を抱きしめてやった。
「スコッチ、眠い」
「ごめんなさいユーヤさん、おやすみなさい」
とても眠かったから少し浮上した意識は優しい声を聞きながらすぐに落ちていった。
起床する頃、ベッドの中で唐突に思い出した。
スコッチと俺はすごく親密な関係になった。
と。少なくとも俺は思っていた。
バーボンの部下として上からあてがわれた俺は、彼とよく一緒にいたスコッチに懐かれた。
ネームドではない俺のことを「ユーヤさん」とさん付けで呼び人懐こく愛嬌があり気がきく男だった。
そんな男に徐々に絆されていき、お互いの気が向けば熱を分け合うような仲になったが、元々そのケが俺もあったから優しく暴かれるのは心地よさしかなかった。
けれど、どうだろう。
あの男、スコッチは今はいない。
どこにいるのか、なぜいないのか全くわからない。バーボンに聞いたら「ちょっと上に、厄介な仕事を押し付けられたようで、当分帰ってこないですね」と言っていたからそういうことなのだろう。気難しくまたは人を煙にまくような言いようが得意な男が珍しく声に張りもなく言っていたから、少し、胸が騒いだなんて。そんなことはないはずだ。
俺にも一言言ってくれたっていいのになんて。
末端の人員の1人の言ってほしいなんて、烏滸がましいにも程がある。
「ヒロミツ、」
そうだ。
あのときスコッチはそう、俺に言ったのだ。
「ヒロミツ、」
唇でもう一度、誰にも聞こえない言葉をあげる。
『ねぇ、ユーヤさん』
そうだ、あいつは言っていた。寝落ちする寸前の俺に言っていた。
『これ、ユーヤさんだけに教えます。これ、オレの、大事な大事な言葉なんです。覚えていてくれたら、嬉しいです』
あれで、俺が覚えられると思うか。
名前?
突然浮かんだ推論に目を見開く。
それなら。覚えていてほしいが覚えられては困る、ということなのかと納得がいく。
けれどネームドのあいつが俺にその名前を?
あまりの有り得なさに馬鹿げていると思うのに、笑いが込み上げる。
頬が不自然に濡れていく。
嬉しい。
誰にも告げられない喜びが胸を駆け抜け、どうにかなってしまいそうだ。
「 、」
ああ。
今なら、どんな相手でも一発でしとめられる。