凡人の言うところには静かで長閑でよい午後、であるはずだった。
ぴくりと違和感に反応した鍾離は筆を置き、そしてその瞬間、窓の外から璃月中の空気を震わせるほどの雄叫びが響き渡った。続けざまに、金切声の悲鳴だ。
やれやれ。仕方がない。凡人と化した身とは言え、璃月に住むものとして、この街を守る権利と義務はあるだろう。
鍾離はすぐに自室を出た。往生堂の玄関前では、従業員が腰を抜かしそうになって柱にしがみついている。
「堂主は?」
「今朝からお出かけになっています」
ならばすぐに思い浮かぶ神の目を持つ者は、あの戦闘狂の男ぐらいだろうか。しかしあの男も大人しく銀行にいない可能性がある。
鍾離が表に出ると、三杯酔前の広場でヒルチャール岩兜の王が太い腕を天に向かって叫び声を上げているのが見えた。
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