「待たせたな」
店を閉めて、外で待ってた刑部に声をかける。昼間は汗をかく陽気でも、零時を過ぎればさすがに空気が冷たい。
今日は週に一度、刑部が来る日だからバイクでは来ず、このままどちらかの部屋に行く予定だ。
「いや…」
言葉を濁した刑部が、直前まで見ていたスマートフォンの画面を切った。画面の光に照らされていた煙草の煙が、途端に姿を消した。
「んだよ、よくない知らせか」
「晃は知らなくていいことだよ」
咥えていた煙草の灰を落としながら、刑部が笑顔で蓋をする。それに少しばかりカチンときて、つい棘のある言葉がでる。
「そーかよ。急ぎの用なら別に、今日来なくても良かったんだぞ」
心とは正反対の声が出るか止まらない。刑部はそんな桐ケ谷を見つめると、煙草を吸って煙を顔面に吹きかけてきた。
「うわ、げほっ。…なにすんだよ」
手を振って煙を散らして睨み上げると、楽しそうな顔をして携帯灰皿に煙草を押し付けている。
「んだよ?」
「いや、晃はかわいいね」
「…意味わかんねぇ」
はぐらかされた気がするが、深追いしてもこんな時の刑部は答えないので放っておくに限る。
「で、問題はねぇんだな」
「あぁ」
「なら行くぞ」
そっぽを向き、先を行くように早足で進む。それを見守るように刑部がゆっくり着いてくるものだからそれも腹が立って、歩みを止める。
「晃?」
追いついてきた刑部が覗きこんでくるもんだから、いつも着ている上等なスーツが皺になるのも構わず引っ掴んで、顔を下げさせて唇を合わす。
「ばぁか」
一瞬のことで目を丸くして呆けている顔に溜飲が下がり、気分は良くなる。
さっきまで刺々していた心が丸くなるのを感じながら、行こうぜと促すが刑部は動かない。
「どした?」
「まったく、お前は」
離れたと思った顔がまた近づいてくるものだから、受け止めようと目を細めたら後頭部を掴まれ、動けないようにされた。
「おさ…んぅ!」
先程とは比べほどにならない圧で唇を合わせて、口内を蹂躙される。息苦しさもあるが、何より気になることが大きすぎて刑部の肩を叩いて口を離させる。
「にっが!苦ぇんだよ!」
さっきまで刑部が吸っていた煙草の味が移り、苦味で舌が痺れている。桐ケ谷が吸う煙草より、数段重い。
「晃がかわいくて、ついね」
「うるせーよ」
飄々と嘯くので蹴りを入れ、釘を刺しておく。
「歯ぁ磨かないとヤんねーかんな」
「やれやれ、わかったよ」
煙草の煙を顔に拭きかける意味は「今夜貴方を抱く」