1999年7月に世界は終わらなかったけど 五条先生に好きだと言われた。俺も好きだよと生徒として返すのは、その好きって言葉と、人差し指でおろされた目隠しからあらわれた綺麗なガラスみたいな瞳が熱っぽすぎて、流石にはばかられた。
「ええと」返事に困る俺に、先生は言う。
「だから悠仁にも、僕を好きだと言って欲しい」
好きだと言うのはわりと簡単。それにそれは、嘘なんかじゃなくて、本当だ。でも、先生と同じ好きじゃない。そんなのはバカでも分かる。俺の好きと、先生の好きは違う。
――たとえば、温度とか。自分の好きを春だなんて表現するのは少し、小っ恥ずかしいけどさ。春と夏みたいな感じ。先生の好きは、ジリジリしている。向けられている視線で焦げそうだった。
だから、「目隠しあげて」と頼んだ。先生は、少し不機嫌そうな雰囲気を出したけど、黙って戻してくれた。
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