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    duck_ynbt

    @duck_ynbt

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    duck_ynbt

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    以下要素含みます

    ・一方通行≠鈴科百合子
    ・鈴科百合子:一方通行のクローン
    ・一方通行は無性(子宮、陰茎、陰嚢無し)
    ・上→←一
    ・一⇔百合(恋愛ではないが家族愛とも断じられない)
    ・上←百合
    ・とても捏造

    クローンの百合子ちゃんの口調は一方通行ともIF百合子とも完全に乖離しています

    私が好きになった人は、兄のことが好きでした。兄、というのは少々語弊がありますね。
    私は彼のクローンだから。
    便宜上兄と呼んでいただけで、実際は私のオリジナルです。
    男性のクローンなのに私の性染色体がXXだったのは、多分兄もまた便宜上男性と遺伝子情報を登録されているだけで、実際はどちらとも取れないことが起因しているかもしれません。
    だから私がこうして彼、と呼ぶのもあくまで便宜上のことなんです。兄として接してきたので、今更「彼女」と呼ぶのも違和感がありますから。
    彼は一見して判る男性器も女性器も持たなかったこともあってどちらにも捉えられることが多く、正直男女問わず好意を持たれる印象が強かったです。ユニセックスな服装だとナンパされ、困ってる女子供を助ければ一目惚れされ……彼の心にはいつも不動のヒーローがいて、その人に感化されてか結構お人よしなんです。
    私ですか?男性に言い寄られた経験が無いとは言いませんが……兄のクローンである以上私の容姿も当然似通う部分があるので、そこに惹かれてくる人間もいたでしょうね。私個人でなく、オリジナルの遺伝子情報ありきの結果です。
    かわいい?兄に関係なく?いいんですよそういうおべっかは、煽てなくてもちゃんと話しますから。

    話を戻します。
    私が兄に拾われたのは、絶対能力進化計画が中止された後です。学習装置や研究所の資料からオリジナルにまつわる情報は得ていました。非人道的な研究に巻き込まれていたことも、それに対する償いとして犠牲にしてきた第三位の妹達を守り続けていたことも。人が兄に感じる残虐性や野蛮性は、彼自身の心を守るための脆いガードだったと思います。だって兄は心配性で、口調は投げやりでも優しさの隠しきれない人だったから……。
    調整不良で伏せっていた時も、事ある毎に傍にいてあれやこれやと気を回してくれました。不慣れだから黄泉川さんや芳川さんに色々訊いて……辛い時に適切に処置いただけることは勿論ですが、一番心に響くのは心遣いなんだ、と。兄から一番教わった気がします、今思えば。
    黄泉川さんも芳川さんも、そして打ち止めちゃんも、とてもよくしてくださいました。彼女達は困ってる子供へ本当に分け隔てなく接してくださるんです。
    でも極めつけはそう、ここでは大変な有名人ですよね。上条さんです。
    彼は一度自分のパーソナルスペースに入れた人間をほぼ無意識に助けてしまうから、自分を顧みることを知らないのかとでも言うほど。一度助けられてしまえば、気にならずにはいられませんでした。おまけに顔を合わせる機会が何度もあれば……彼の優しさはまるで麻薬です。自分だけに向けられたものではないと何度思い知らされても、虜になってしまう。
    上条さんだって、距離の近さとか、言動とか、ちょっと思わせぶりなんですよね。それも誰に対してもではありますけど。でも、明らかな例外がいました。

    それが兄です。
    ただならぬ関係にあったことは、勿論存じていました。完全に闇に取り込まれかけていたところを救われたこともあって、対人接触について判りやすくインスパイアされていましたし。本人が自覚するにも多少はかかりましたが、憧憬の念を強く抱いていたのも明らかです。そう思うと情緒の発達くらいでしょうか、兄の成長が乏しかった点は……あと運動能力もですか、何かと能力に頼りがちだったので。
    兄が無自覚な思いを向けている間、上条さんも兄を憎からず思い始めたことを知って、私は初めての失恋を経験しました。今思い返すと、そんなに悪いことではなかったと思います。寧ろ、ただのクローンに過ぎなかった私に人並みの、しかし未知の感情が生まれたことに感謝しています。
    勿論、最初からそのように割り切ることはできませんでした。
    情報が脳内に流れ込んでくるにつれ、胸がズクズク痛んで、鉛を飲み込んだように身体が重くて、何をしてもロクに手につかない日が続きましたよ。普段なら絶対しないのに包丁で指を切ってしまったりして……その時は兄が慌てて止血してくれました、あんなに焦った表情は滅多に見せなかったと思います。なのにその時の私は「ああ、今この血を逆流させて命を奪ってくれたら」とぼんやり願ってすらいました。あの時は「こんな感情に振り回されるくらいなら、生きていたくない」と本当に思っていたんです。恋仇に気を遣われて、自分は為すすべもなく……たかが恋、されど恋、ですね。ええ、今は思い出の一つです。
    上条さんに兄のことを訊かれるのも回数が重なると流石に慣れて、だから私も訊きました。
    「私を通さずに、本人に直に訊いてくれませんか」
    と。そうするとね、すごくバツが悪そうな顔をするんです。
    「いや……確かに百合子の言う通りだ。一方通行が『オレと話す位なら百合子と喋ってやれ』なんて言ってたけど、流石に言伝までしてもらうのは違うよな」
    兄は私の気持ちもお見通しでした。生育環境が異なってもやはりクローンなので、感情にも多少似通うところがあるんです。つまり自身の気持ちを圧し殺した上で敵に塩を送った、とでも言うのでしょうか。いえ、もっと単純で純粋な、家族に対する愛情を彼なりに示してくれたんだと思います。情緒未発達だけど、家族というものに飢えていた彼の意思表示。そこに自己犠牲があっても気付けない、将又他人を押し退けて自分が幸福を奪い取る形になりかねない状況への不安があったのかも。
    ただ、それは私への信頼が無いことの裏返しでもあります。上条さんと兄が結ばれたら、一度は傷つくかもしれない。でも私はいずれその傷を乗り越えて、また一つ成長することができるんです。そうなれる強さを皆さんにもらったんですから。

    その日、帰宅して兄に思いの丈をぶつけました。ぶつける、というのはやや暴力的ですが、そうでもしないと言いくるめられてしまいそうだったんです。
    完全に虚を突かれた様子でした、私から強く主張するのは初めてな上に内容が内容ですし。自分が言われる側なら、強いショックを受けたと思います。
    兄は暫く、何かを言おうとして口を噤む動作を繰り返して……あの日に初めて、兄の涙を見ました。喜怒哀楽の中でも、日頃最も見せない感情の発露を。
    とてもかなしくて、気付いたら彼を抱きしめていました。誰よりもしなやかで強く頼り甲斐を感じていた背中が、こんなにも華奢でいとも容易く手折れそうなものだと、あの日に初めて、知ったのです。
    「大丈夫だから」と声には出さず、声の伴わない嗚咽で揺れる背をただただ摩り続けました。兄のほうも何も言わず、ただ私の肩口に顔を押し付けていました。この学園都市の叡智がこんなに小さな頭に詰まっていると思うと、どこか不思議な心地がしたのです。大人たちが恐ろしい怪物だと称する生き物は、こうして涙を流して哀しむことができるただの子供に過ぎません。あの夜、私たちは胸の内を洗いざらい晒け出し合い、互いを唯一無二のものとしました。一台のベッドも軽い子供の体重であれば2人分あっても軋むこともありません。
    「お兄様」
    「ン」
    「お目々が真っ赤ですね」
    「オマエもな」
    「ですよね」
    向き合って横になると、自分とそう変わらない顔貌が直近に映ります。しかし、やはりどこか違うのです。いかに酷似していようと、互いが互いの肩替わりをすることは適わない事実を突きつけられた気がしました。

    一気にお話ししたら疲れてしまいました、兄に似て体力が低いんでしょうね。
    休憩を少々いただいてもよろしいでしょうか。
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