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    duck_ynbt

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    上一、一方通行デレ多め?二人だけで花火大会に行く話

    誰にも知られず花火大会 夏休みといえば旅行?プール?キャンプ?自分にもそんな過去があったかもしれない。しかし、記憶が無い以上は遡りようもない。そもそも俺の夏休みは例に漏れずきっちり補習で埋まっている。
     今日は透視能力専攻のカリキュラムをきっちり組まれ、勝てる筈も無い目隠しポーカー(通称:すけすけ見る見る)で10回連続勝利という絶望的な課題を奇跡的にも18時までに終わらせることができたのだ。見えないカードを前に思案を続けたところで、何も考えずにカードを抜き入れするのと変わらないだろうと思い、決まった枚数・箇所だけ交換してひたすらターン数を稼ぐことに注力した。つまりエントロピー増大の法則に賭けベットしたのである。正直天文学的な回数を要するかと思ったが、なんの奇蹟か数百回目にして10連勝を重ねることができた。小萌先生が「か、上条ちゃんはできる子だと信じてたのですよ…」と感極まった時には俺も何故か泣きそうになった。
    「今日は花火大会ですからね、神様が上条ちゃんの日頃の頑張りを見ていたのかもしれません」
    「その頑張りに免じて明日からの補習m」
    「明日も9時からちゃあんと来てくださいなのですよ」
    「……は〜い」
     補習に意識を持って行かれて、花火大会のことは頭から綺麗さっぱり抜けていた。そういえば先日美琴から「29日ってなんか予定ある?」とか聞かれたような(そして「補習」と答えたら「アンタっていっつもそうよね」とぷりぷり怒って帰っていった)。
     でも実際終バス後の商店街には所狭しと屋台が並び、空腹を誘発するような匂いが漂っている。インデックスがイギリスに一時帰国していなかったら間違いなく齧りつきだっただろう。会場に近づくほど人が集まっており、この疲れた状態では流石にポジション取りをしてまで見に行こうという気は無い。早いところ家に帰って音だけでも堪能するか、と帰途への足取りを早める。



    「ってえええ!?なんで!?」
    「用事がなきゃ来ちゃいけねエのかよ」
    「いやいや用事がなくても来てくれるのは嬉しいけど!本ッ当に嬉しいんだけど!!」
     寮に戻ると部屋の扉の前に一方通行が寄りかかっていた。なんの連絡もなかったのと普段の行動パターンから著しく逸脱した状況に喜びはあるものの、完全に驚きの方が勝ってしまって頭が回らない。
    「というか連絡くれよ!蒸し暑いのに長いこと待って疲れたろ?」
     開錠しながら「合鍵渡そうか?」と訊くと「別に居座りたいワケじゃない」とそっけなく返されてしまう。ヒョコヒョコ真横をついてくる様も併せるとなんか気紛れなネコみたいだ。こちらを毛嫌いしているのではなく、自分がいることで巻き込んでしまわないかどうかを気にしてくれている、という気遣いは分かってる。とはいえぶっちゃけ自分も魔術サイドから断りもなく招集されたり狙われたりと好き勝手されているので、今更といえば今更なんだが。
     しかし外の暑さはやはり堪えたらしく、冷やした麦茶を提供すればゴクゴクと一気飲みしていた。飲み切れなかったお茶が口の端から顎の下を伝っていたのでティッシュで拭ってやると、拭きやすくなるように顎をクン、と上に向けてくる。ここ最近はなんというか割とナチュラルに甘えてくるようになってきていて、過去の自分が見たら羨ましがるより先に驚いて飛び上がりそうなくらいだ。ところで「用が無ければ」とは言っていたものの、今日はアポ無しで何をしに来たんだろうか。
    「これから外に出る体力、残ってるか?」
    「……何かに巻き込まれてる、とか?」
    「そンなンじゃねェ」
     さ・ん・ぽ、と一方通行は言うと杖を支えに立ち上がる。どうやら俺が拒否するとは思ってないらしい。まぁ勿論しないけど。スニーカーを履いて後をついていくと、花火大会の会場とは逆方向に歩みを進めている。どこへ行くつもりなんだろう。
     真横まで追いつくと、今日の補習はどうだったか等訊かれたのでありのまま答える。レベル0で劣等生でほぼ一日補習で花火デートのはの字も出てこないような俺のことを、学園都市第一位は気にかけていてくれるのだ。なんか、感無量。
    「『時間の矢』に思い至るたァ少しは頭が回るようになったな」
    「可能性は五分五分だったけどやらないよりはマシってだけだったよ」
     学園都市特有のカリキュラム外の教養ですら危うい俺が量子論について僅かずつでも前向きに興味を持ち始めたのは、多分真横にいる恋人の影響もあったと思う。好きな子のことを知りたいという至ってありがちな感情から、能力が干渉し得る肉眼では認識できない世界の理屈に少しでもリーチできたら、今以上に分かることも増えたりしないかなんて。本当に不純でしかないけど。
    「とはいえ殆ど運に導かれたとしか思えねェ確率だけど」
    「本当に運が良かったらそもそも補習受けるハメになってないから」
    「違いねェ」
     気づけば辺りは仄暗く、煌々と輝くLEDの街灯の本数も着実に減ってきている。角度の緩やかな小高い丘陵があり、樹木の伐採や芝生の管理が行き届いていた。
     学園都市内にもこんな場所があったんだなぁ、なんて感心した瞬間「ドォン!!!」と強い音が耳に響く。それから、心地良い衝撃が次第に体全体に伝わっていった。
    「花火だ!!」
    「間に合ったみてェだな」
     後ろを振り向くと、花火が何発も連続で打ち上がっている。色とりどりの火花が大輪を咲かせては散り、その後を巨大な打ち上げ音が追いかける。あまりの壮大さに思わず立ち尽くしていると、手を引かれてその場に座らされた。
    「こんな穴場、どこで知ったんだ?」
    「さア、どこだったかな」
     答えてはもらえなかったけど、一方通行が花火大会の存在を認識していて、それを俺と見に行きたくて、そのためにとっておきの場所を探しておいてくれた、という事実だけでも十分お釣りが来るので無闇に追及しないことにした。
     学園都市の花火を俺が今まで何度見たかは知らないけど、国内でも有名な花火大会の映像では見たこともないような色や形の花火もあった。火花の色は化学反応によるものなので、外部にはまだ流通していない成分の研究が進んでいたりするのかもしれない。自分が感嘆している横でも時折「おォ」とか「うわ」とか原始的な感情の発露みたいな歓声が小さく聞こえてくる。
    「一方通行って、打ち上げ花火見たの初めて?」
    「生で見たのは初めてだ、オマエは?」
    「さぁ……どうだったかな」
    「……なンだそりゃ」
     無駄話に花を咲かせている間も花火は上がり続け、次第に低い位置で上がる花火の本数が増えてきた。そろそろラストスパートみたいだ。
    「今日、連れてきてくれてありがとな」
    「あァ……気にすンな、俺が勝手に連れてきちまっただけだ」
    「わざわざ俺を選んで、な」
     芝生の上についてる白い手に自分の手を重ねる。花火の輝きや色を映した白い頬に手を添えた。
    「見なくていいのか、花火」
    「少しだけ」
     一方通行が体ごと向きをこちらに変え、俺の脚の上に手を置く。
     大輪が上空に咲き誇ったのとほぼ同じ時間、俺たちは唇を重ねた。
     花火の音が響く、光が目の端に映る、一方通行も多分俺と同じ感覚を共有している。
     ただ何も考えず、何度も角度を変え、深く口付けをした。リップ音も花火の音の前では全て掻き消える。
     唇を離した瞬間、また特大の一発が打ち上がった。しばらくのタイムラグを要し、打ち上げ音だけが追いかけてきたのが、終了の合図。

    「最後の方、全然見れなかったな」
    「誰の所為だ」
    「まぁまぁ、中継のアーカイブで確認しようぜ」
    「調子のイイヤツ……」

    「で、良かったらこの後見る?ウチで」
    「見るだけ、か?」

    花火で火照った体が冷めやらぬうちに、俺は一方通行の手を引いて帰り道を急ぎ歩いた。
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