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    ぱんつ二次元

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    ぱんつ二次元

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    ED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。

    #モクチェズ
    moctez

    降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもしれませんねェ」
    「あー……ま、そん時はそん時で。叩き出されんようにどうにかするよ」
     のらりくらりと躱しながら、反省の色ひとつないのは、きっと確信犯だからだろう。その証拠に、振り返りはしてもその足がこちらに向くことはない。
    「お前さん、おじさんと一緒に叱られちゃくれないかい?」
     悪い遊びに誘うように、こっちにおいでとその目が語る。まるで、チェズレイが断らないのを分かりきっているみたいな顔。人のことをなんだかんだ言うくせに、モクマも大概だと思う。
    「……仕方のないひとですね」
     薄らと雪の積もる甲板に、さく、とブーツの踵を踏み出す。脇に並ぶと、モクマはまた歩き出す。さくさくと、密やかな足音がふたつ、誰もいない甲板にひびく。
    「船旅ってのも、たまにはいいよね、ゆったりのんびりできてさ」
    「そうですねェ、できれば部屋で『ゆったりのんびり』したいところですが」
     嫌味半分に言いながら、ダウンジャケットの前を合わせる。いつものそれとは異なる、羽毛の入った冬仕様の分厚いダウンを着てもなお、しんから凍ってしまいそうな冷気が容赦なく隙間から入り込む。陸の上よりいっとう冷えるのは、つめたい風を遮るものがなにひとつ存在しないからだろう。
    「風邪をひくまえに戻った方がいいのでは?」
    「うん、あと少ししたらね」
     言いながら、モクマは引き返すつもりはないようだった。何か目的のある足取りで、迷いなく船首へと向かう。散歩でもしない?と、言われたときは、ずいぶん場違いな時間に誘うものだとは思ったけれど、きっと何かあるのだろう。
     甲板をくるりと半周もしただろうか。揺れる船の、一番先頭――から、少し外れ。目印みたいに立てかけられた釣り竿の脇で、モクマはふいに脚をとめる。あー、ここだここ、と、少しだけ浮かれた声で近づいて、ちょいちょいとチェズレイに手招きする。
    「ここが一番眺めがいいんだってさ。昼間、仲良くなった船員さんに聞いちゃった」
    「――なるほど、あなたらしい」
     外出の件はとうに根回し済みだったらしい。
    「それで、眺め、とは?」
     答えの代わり、モクマは目を眇めて前方を見る。視線の先には何もない。あるのは、どこまでも広がる黒い海と灰色の雲で、その、一番端の境目をじっとモクマは見つめている。
    「水平線、ですか?」
    「うん」
     と、モクマはうなずく。
    「好きなんだよね。海とか空とかの、なんにも先の見えない感じが」
     手すりにもたれて、ふ、とモクマはマフラーの隙間から吐息をこぼす。隠された口元はきっと笑っているのだろう。ふわりとたちのぼる白がひどくあたたかそうに見える。
    「……昼間の方が、見やすいのでは?」
    「これはこれで、風情があるでしょ」
     きっと夜明けが近いのだろう。とけあう海と空のはざまは、そこだけ色をたしたみたいな紫で、分厚い雲の蓋の下で、息をひそめる朝日の気配を滲ませている。もっとも、この天候では日の出を臨むことは難しいのだろう。雪を避けるようにファーのついたフードを被る。くろぐろと波打つ北の海は全ての色を溶かし込んだみたいな重たい黒に濁っていた。きらびやかな街明かりに彩られた、あの鮮やかなコバルトとは違う。雪の白も、雲の灰色も、朝日の紫も、全て呑むみたいな、つめたいばかりの濁った黒。後ろ暗い商売には似合いの色だと皮肉に思ったことはあれど、風情がある、なんて、思ったことは一度もなかった。
    「セイっ!」
     ふいに、ふざけてるみたいな掛け声で、ダウンの胸元をてのひらでぺちんとはたかれる。
     何かと思って下を見ると、長方形の袋状の何かが胸元にへばりついていた。
    「お前さん、なんだか寒そうだからさ。おじさんの秘密兵器、一枚分けたげる」
    「秘密兵器……?」
     ぺりぺりと、へばりついたそれを引きはがす。一度使われた後なんだろう、接着力の低い粘着面には、見覚えのある紫の布地の痕跡がべったり付着している。
    「これは……新手の辱めですか?」
    「え、知らない?使い捨てカイロ。あったかいよー、おじさん五枚ぐらい貼っちゃった」
     みてみて、と、モクマはダウンをぺろんと捲ってみせる。アロハの上に、チェズレイの摘まんでいるそれとまったく同じ四角い袋が無造作に貼りつけられていた。
    「使い捨てカイロ――なるほど、存じ上げてはおりますよ。アロハの上にべたべた貼るそのセンスは呆れを通り越していっそ尊敬の念すら覚えてしまいそうですが――まさかモクマさん、私に同じことをしろと?」
    「ええと……やっぱお前さん、こういうのあまり好かんタチ?」
    「好きか嫌いかで言えば論外ですね」
    「あー……選択肢にすら入らんってことね」
     ま、お前さんにゃ似合わんか、と、伸びてきたモクマの手を躱して、安っぽいカイロを手袋の内側に握り込む。
    「冗談ですよ。ありがたく使わせていただきます」
     両手のひらで包み込むと、かじかんだ指先がじわりと温まっていく。くたびれたぺらぺらのそれには、まだ少しだけモクマの体温が残っている気がした。
    「――もう少しだけ、ここにいてもいいですか」
    「うん。最初から、そのつもりだったからね」
     とん、と、モクマの肩が触れる。カイロひとつぶんの代わりみたいに距離を詰めて、けれど特に何をするでもなく二人並んで海を眺める。くろぐろとした海の向こう、飛沫を上げて黒い尾が一度だけ跳ねるのが見えた。くじらか、それとも別の魚か。一度だけ姿を見せたそれは、すぐにまた、海に呑まれて消えていく。
    「いるんだねぇ、こんな寒いとこにも、生き物って」
    「いますよ、どこにでも」
     手を伸ばしてモクマの肩ごしに釣り竿に触れる。
    「でなければ、釣りなんてしないでしょう?」
    「なるほど、そりゃそうだ」
    「案外大物が釣れるのかもしれませんよ?」
    「くじらとか?」
    「ええ、くじらでも、いるかでも。釣れたらボスに送りましょう。ついでに怪盗殿にも」
    「ついでなんだ」
    「今日は、一緒にいるでしょうから」
     他愛のない言葉遊びを繰りながら、身体を預けるように肩を抱いてくっついた。髪についた雪をのけるようにモクマの手がファーの内側のブロンドを梳く。
    「チェズレイ、寒い?」
    「少しだけ――寒いのは、苦手なので」
    「確かに、冷えるもんねぇ、ここ。じっとしてたら凍っちまいそうだ」
    「……目的地は、もっと寒いですよ?」
     返事のかわりに柔らかく頭を撫でられる。やめておきませんか、と、今更吐きかけたことばを寸前で呑み込んだ。凍ってしまう程寒くても、きっとモクマは行くのだろう。数歩先に歩いてから、こっちにおいでと無言で誘う。だから、ずるい――なんて、これも今更か。断る機会はちゃんとあった。
     ヴィンウェイへ行きたいと、切り出したのはモクマだった。今日の天気でも話すみたいな何気ない口調で、何にも知らないみたいな惚けたそぶりで、こちらの心を探るような慎重さで。
     あのときに断っていれば、多分、モクマは引いたはずだった。寒いからでも遠いからでも空がこんなに青いからでも月がこんなに綺麗だからでも、それがどんな滅茶苦茶な理由だろうと、チェズレイが本気で嫌がるならモクマはそれ以上を望まない。それがたとえ、指一本の触れ合いでも。
     だから、『それ以上』を望んだのは、ただチェズレイの意思だ。例えそれが、断らないのを見越した誘いだったとしても。
    「しかし意外だね、お前さん、寒いのは得意なんだと思ってた」
    「……苦手ですよ。だから、あっためてください。秘密兵器、たくさん貼っているんでしょう?」
    「あー……そんな力いっぱい凭れられるとおじさんちょっと潰れちゃうかなー?」
    「なら、潰れないように頑張ってください」
     嫌がらせ半分にぐっと体重を預けても、モクマはびくりともしない。重い重い、なんて言いながら、平気な顔でチェズレイを支えて甘やかす。きっと、とうにこちらの嘘は見抜いているんだろう。
     厚手のダウンに染みる冷気も、身を切るようなつめたい風も、やむ気配もなく降り積もる雪も、幼い頃からとうに身体に馴染んだそれだ。今更寒いなんて弱音を吐く程でもない。
     苦手、なのは、そう、ただ、その延長にぶら下がっている無数の思い出だけで。それも多分、モクマは見抜いてる。
     釣り竿の先、垂れた糸はぴくりとも引かない。ゆったりとした速度で進む船の脇、時折流氷が流れてはとぷんと海に呑み込まれる。あるいは先ほどのくじらも、大きな氷の塊の見間違いだったのかもしれない。
     船旅を提案したのはチェズレイだった。たまにはのんびり旅路を楽しみたいから――というのが、表向きの理由。本音はただの時間稼ぎだ。このあたりは流氷や氷山が多い。いちいち避けて進むために、陸路より空路より、海路がいっとう時間がかかる。
     昔は事故も多かったと、寝物語に聞いたのを思い出す。子供にするには物騒で、世間知らずの母には似つかわしくない話だった。今思えばあれは、チェズレイの身を心配してのことだったのかもしれない。事故に遭わないように、危険な場所を避けれるように。どす黒い海の底ではきっと、沈んだ船やいきものの死骸が静かに眠り続けているから。だから、いっしょに呑み込まれてしまわないように――海よりずっと暗く寒く澱んだ場所で息子がしていることを知っていたから。
     すきなんだよね、と、ふと、モクマのことばがよぎる。
     ――海とか空とかの、なんにも先の見えない感じが。
     その、見えない『先』に、モクマは何を望んでいたんだろう。何を、期待していたんだろう。
    「そういえば、昔映画で見たんだけど」
     とぷん、と沈んだ流氷を横目に、モクマがつぶやく。
    「豪華客船が、氷山にぶつかるラブストーリーなんだけどね」
    「ラブストーリーですか、それ」
     そうではない箇所のインパクトが大きすぎる気がしなくもない。
    「うん、一応、ラブストーリーだったよ。船がまっぷたつになって沈没するし、たくさん人が亡くなるけど。ヒーローがヒロインを守って海に沈む、綺麗なラブストーリーだった」
    「それは――随分なきれいごとで」
     守って、沈む――それはある意味モクマの理想だったんだろう。チェズレイの声のトーンが下がったのに気づいたのか、映画のはなしだよ、と、モクマは苦笑する。
    「あ、丁度ああいう感じの氷山にぶつかるんだけど、」
    「……気軽に沈没させないでください」
    「しないよ」
     当たり前みたいにモクマは答える。
    「だって、お前が乗ってるもの。だから、させない。お前を置いて海に沈んだりもしない――下衆だからね」
     空が青いとか月が綺麗だとか、そんな常識をかたるのと同じ口調であっさりと。
     その横顔が、ひどく眩しい。
    「それにおじさん、昔はマグロ漁船とかでも働いてたしね。船の修理ぐらい簡単に――チェズレイ?」
     ああ、と、モクマが目を眇める。
     黒い海と、灰色の空との境目で、誰かがそっと隙間をあけたみたいに金の朝日が覗いていた。奇跡みたいなひとすじの光が、まっすぐに海をわたってふたりに差す。
     うつくしいと、ただ、思った。
    「あけましておめでとう、チェズレイ」
     呆けているチェズレイの手をとって、モクマが少し照れくさそうに言う。
    「折角だからさ、どうしてもお前と見たかったんだよね。新年の、いっとうあたらしい朝日を、ふたりで」
     付き合ってくれてありがとね、と、くすぐったいような顔で言うモクマに、首を横に振る。
    「――私も、そう思ったところです」
     一緒にいれてよかった。ふたりで見れて、よかった。きっとモクマがいなければ、この船に乗ることすらきっとなかった。
     奇跡はほんの一瞬だったんだろう。また蓋を閉じたみたいに、朝日はふたたび分厚い雲と黒い海の狭間に隠れてしまう。あるいは、あのうつくしい金もまた、この黒い濁りの中に呑み込まれているのかもしれない。このつめたさに結び付くすべてが、嫌なものばかりではないように。
    「……好きだと、思いますよ、あなた」
    「へ?」
    「好きか嫌いかで言えば、きっと。どちらも、先が見えませんから」
     何を、とは言わなかった。たどり着けばきっと分かる。
     目を閉じて、水平線の、その先を想う。
     くろぐろと深く濁った海も、分厚い雲の向こうの空も、真っ白に澄んだ故郷の雪景色も、どれも先が見えなくて、一人では途方に暮れてしまう。
     降り積もる、雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     今はもう、違うけれど。
     ぐしゅ、と、半端に圧し潰したみたいなくしゃみに目を開ける。両腕で身体を抱きしめて、モクマが微妙な顔をしていた。
    「あー……流石に、ちょっと冷えてきたかも」
    「秘密兵器、そろそろ時間切れみたいですね」
     手に握り込んでいたカイロはいつの間にか冷えていた。となると、モクマが貼っていた方も同じだろう。冷え固まったカイロをポケットに仕舞い込んで、代わりにモクマの腕を抱く。
    「ん、なになに、あっためてくれるの?」
    「ええ、秘密兵器のお返しに」
     ――部屋に戻ったら、もっとあたたまるようなことも。
     耳元に落とした密やかな誘いに、押し殺したため息をモクマはこぼす。あー、もう、と、不明瞭なうめきが聞こえた。
    「そういうこと、唐突に言うのやめて。新年早々びっくりして死んじゃうから」
    「おや、モクマさん、ずいぶんと顔が赤いようですが。新年早々、風邪でしょうか?早くベッドに入った方がよいのでは?」
    「……お前もね」
     ぐ、と、首を抱かれて、くちづけられる。じゃれ合うように互いの温度に触れながら、縺れあって甲板を歩く。ベッドに沈むころにはきっと、ダウンのいらない暑さだろう。裸で抱き合うにはちょうどいい。
     雪の上には、曲がりくねった二人ぶんの足跡がくっきり刻み込まれていた。


     END
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空でカジノでルーレットするモクマさんのモクチェズ。モブ視点です。 軽やかなピアノの音色に合わせて澄んだ歌声がホールに響く。カジノのBGMにしておくには勿体ない美しい声が、けれどきっと何処よりこの場に似合う挑発的な歌詞を歌い上げる。選曲はピアニスト任せらしいのでこれは彼女の趣味だろう。
     鼻歌に口ずさむには憚られるようなその歌が、どれほどこの場の人間に響いているかは分からないけれど。
     ルーレット台の前には、今日も無数のギャラリーがひしめいていた。ある人は、人生全てを賭けたみたいな必死の面持ちで、ある人は冷やかし半分の好奇の視線で、いずれもチップを握って回る円盤を見つめている。
     片手で回転を操りながら、もう一方の手で、乳白色のピンボールを弾く。うっとりするほどなめらかな軌道が、ホイールの中へとすとんと落ちる。かつん、と、硬質な音が始まりを告げる。赤と黒の溶けた回転のうちがわ、ピンに弾かれ跳ねまわるボールの軌道を少しでも読もうと、ギャラリーの視線がひりつくような熱を帯びる。
     もっとも、どれだけ間近に見たところでどのポケットが選ばれるかなんて分かるはずもないのだけれど。
     ルーレットは理不尽な勝負だ。
     ポーカーやバカラと違って、駆け引きの余地が極端 9552

    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235

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     鼻歌に口ずさむには憚られるようなその歌が、どれほどこの場の人間に響いているかは分からないけれど。
     ルーレット台の前には、今日も無数のギャラリーがひしめいていた。ある人は、人生全てを賭けたみたいな必死の面持ちで、ある人は冷やかし半分の好奇の視線で、いずれもチップを握って回る円盤を見つめている。
     片手で回転を操りながら、もう一方の手で、乳白色のピンボールを弾く。うっとりするほどなめらかな軌道が、ホイールの中へとすとんと落ちる。かつん、と、硬質な音が始まりを告げる。赤と黒の溶けた回転のうちがわ、ピンに弾かれ跳ねまわるボールの軌道を少しでも読もうと、ギャラリーの視線がひりつくような熱を帯びる。
     もっとも、どれだけ間近に見たところでどのポケットが選ばれるかなんて分かるはずもないのだけれど。
     ルーレットは理不尽な勝負だ。
     ポーカーやバカラと違って、駆け引きの余地が極端 9552