進行の早い病その日はたまたま生徒会の仕事があるからとアマミネくんが不在で。レッスンの合間に何か食べようとマユミくんと2人適当なファミレスに入ったんだった。
どういう話の流れでそうなったのかは、
「百々人は秀が好きなんだと思っていたが」
という、マユミくんの一言で吹き飛んでしまった。
「……へ?」
注文した品物は一つも来てない。ちょっと持て余した時間を埋めるために会話してただけ。今日はアマミネくんがいないから静かだな、とは思っていたけれど、別に彼の話をしていたわけではない。なかった。ぴぃちゃんの話はしていた。それはさすがに覚えている。
僕が固まっていることが不思議だったのか、マユミくんがほんの少し首を傾げた。
「違うのか?」
心底疑問に思っているといった顔でそんなことを言う。
「いや……うん、好き、だけど」
好き?好きってなんだ?いや、同じグループのチームメイトだ、そりゃあ好きか嫌いかで聞かれれば好きに決まっている。そんな当たり前のことを今聞くのか?という気持ちと曖昧な笑みを添えて返答するも、マユミくんの顔は納得していないようだった。眉間にほんの少し皺がよる。
まだ夕飯には早い時間帯で、店内は人もまばら。沈黙を埋めるような騒がしさは、残念ながらない。妙な沈黙で息が詰まりそうで、無意識に視線を少し逸らしてしまった。
マユミくんは、ふむ、と考え込むように口元に手を当てる。考え込むというよりは言葉を選んでいるのかもしれない。直接的な物言いが多い彼には珍しい行動だった。
普段の僕ならここで別の話題を切り出して話をうやむやにしていただろう。なのに、僕にそんな余裕はなく、たださっきのマユミくんから出た「僕はアマミネくんのことが好き」という言葉の意味をぐるぐると考えていた。
好きってなんだ。絵を描くことは好き、ぴぃちゃんのことが好き、アイドル活動が好き、マユミくんのことだって僕は僕なりに好きだと思う。頼れる仲間だ。
それと同列に、アマミネくんは?と並べようとして、僕の思考はそこでストップしてしまった。
……あれ?
さっきまでまばらだった店内に、少しずつ人が増えてきているらしい。さざめくような音が喧騒に変わりつつある。けれどそんなものに気付かないくらい、僕の頭は混乱していた。
そもそも、そもそもだ。元々は苦手だったはずだ。
自信に満ち溢れていて、その自信が彼の実力に裏打ちされたものであることを知っている。それがどうしようもなく自分にないもので、正直疎ましいと感じたことがないわけではない。
同じグループとして過ごす時間が長くなるにつれて、彼の努力と才能を目の当たりにするにつれ、劣等感はそのままに、それでも随分と好ましいと思うようになったのは事実だ。
好きだと思う。
けれどその「好き」を、僕はどうやら他の「好意」と同列にしたくないらしい。
そんなことに、なぜか今気付いてしまった。
「…………」
「百々人?」
僕の様子がちょっとおかしいことに気付いたらしい。どうした?という落ち着いた声に引き戻される。
「……マユミくんのせいだ」
「は?」
気付いてしまえば、引き戻されてしまえば、さっきまで気にならなかった店内の喧騒を一気に意識してしまう。無意識に流していた感情にも、気付いてしまえば意識せずにはいられない。
今僕はどんな顔をしているんだろう。
僕の顔を見たマユミくんは珍しく気まずそうな顔をしていた。
「いや、すまない。自覚していると思っていたんだが」
絞り出すようなそれに抗議したのは言うまでもない。