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    mochi_70

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    2024.05.05
    賢者の超マナスポットで頒布したネファの無配です

    『1d100で出た秒数キスしないと出られない部屋』

    ネロは西の国での任務の最中、気づけば見知らぬ白い部屋にいた。状況を確認しようと見渡すと、同じ部屋には同じ状況のファウストが。
    部屋に家具の類いは一切無く、扉も無い。魔道具を構えようとしても、手元に出すことはできなくてネロは眉を顰めた。
    この部屋には精霊が全くいない。魔法で壁を壊すことは難しいだろう。
    「ネロ。」
    ファウストの低い声が狭い部屋に反響する。
    彼も周囲を警戒しながら魔法をどうにかして使えないか探っていた。
    「無事か?先生。」
    「あぁ。……だが、悠長にしている場合では無さそうだな。置いてきたヒースとシノも心配だ。」
    二人の会話が続いた瞬間、部屋の壁にふよふよと小さな光の粒が集まってきて何らかの文字が浮き上がる。ネロとファウストは警戒するように数歩後ろに下がって距離を取った。そこには──

    『1D100で出た秒数キスしないと出られない部屋』

    「「…………………」」

    ぽふん!とファンシーな音と共に現れたのは小さなテーブルと不思議な形のしたサイコロがふたつ。
    「これだから西は……」
    ファウストは頭が痛い、と言わんばかりにため息を吐いて眉頭を抑えた。
    ネロもため息を吐きたい。なんだよこれ、と思いながら目の前の文字を呆然と見つめる。
    「……見たことのない形のサイコロだな。」
    「あーこれ、カジノとかボードゲームとかで使うやつ。」
    「詳しいな。」
    ファウストは警戒するように指先でサイコロを突いて、幾度目かわからないため息を吐いた。
    「仕方ない、か。」
    「え!?本当にやるの!?」
    「このままでいるわけにもいかないだろう。子供達の事もある。」
    すんなり受け入れる彼にネロは「えぇ……」と声を漏らした。不安気な琥珀の瞳を一瞥して、ファウストは何事もないような言い方で鼻を鳴らした。
    「どこの馬の骨かわからないやつにきみの可愛いところを見せるのは癪に障るがな。」
    思いがけないストレートな言葉にネロは面食らう。
    「恋人とキスするのは悪いことではないだろう。」

    ぽふん!!!

    またも異音が部屋に響いて、辺りを見渡す。部屋の出口は現れていない。と、なると──

    『2D100で出た秒数キスしないと出られない部屋』

    「なんで!?」
    「2D……?」
    なぜか増えた指示にネロは頭を抱え、ファウストは首を傾げた。なんでだよ。おかしいだろこの部屋、なんてため息を吐きながら困ったような顔をしているファウストに声をかけた。
    「二回ダイス……サイコロを振れってやつ。」
    「なるほどな。この部屋の主の気は狂っているのか?」
    「せんせ、言い方言い方。」
    歯に衣着せぬファウストの言葉にネロは苦笑を漏らした。同意ではあるけれど。
    ファウストは大きくため息を吐いてネロに向き合う。
    「こうしていても埒があかない。やるぞ、ネロ。」
    「えぇ………まじで?」
    「あたりまえだ。」
    そう言って目の前の賽を降ると小さな音が静寂に満ちた部屋に響く。

    〇七

    さすがファウスト、と褒め称えたくなる数字だ。うちの先生は引きが良いのだから。
    ファウストはネロに賽を手渡して振ることを求めて、思わず苦い顔をしてしまう。ここではイカサマは許されないだろうという予感がしているから。

    七十一

    「……まぁ、そんなこともあるよ。」
    「これ、どっちもあんたが振ったほうが被害少なかったんじゃねぇ?」
    意を決して振った数字は予想通り芳しくないものだった。ちょっと悪いけど悪すぎるとも言えない微妙な数字。
    ファウストがラッキーボーイだったおかげで合計の数はとんでもないことにはならなかったけれど、一分以上にはなってしまった。
    「じゃあ、するか。」
    なんでもないようすで言う彼にネロはムッとした顔を浮かべた。まっすぐなところは恋人の好きなところだけど、こんなところで中央を発揮しなくていい。ほんとに。
    ネロの瞳が曇ったことに気づいたファウストは不安気に眉を曲げた。
    「僕とキスするのは嫌?」
    「嫌、じゃねぇけどさ。」
    少し言い淀む。問うような彼の視線に観念したネロは視線をずらして小さく口を開いた。

    ──だって。

    「……あんたの蕩けた顔、誰にも見せたくないん、デスケド。」

    ネロの頬は真っ赤に染まって、頭から湯気が出てしまいそうだ。ネロの中にある独占欲と、平然としているファウストに拗ねた本心と、で。それらで消えてしまいたい程の羞恥心に襲われていた。
    六百も生きていてこんなくだらない独占欲を出してしまうなんて、少し前は考えてすらいなかったのに。
    「そう……」
    少し考え込むような声色でファウストは口元に指を添えた。ちらりとネロからみた彼の表情は色付きのサングラスに隠されていて見えなかったけれど、でも。

    「……じゃあ、きみが隠して。」

    笑みを含んだ微かな吐息と、柔らかい感触がネロの触覚を刺激する。とろりと蕩けた紫水晶を覆い隠すようにネロは手を伸ばして──

    七十七秒後、白い部屋の中からカチリと音がした。
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