君が笑う世界を今日は珍しく、シノも、アイも、ユウも、アキも、ウタも既に出かけている。
そして廿楽も。
廿楽
「部活行ってくるっ〜」
以前に勉強とバンドに加えて、部活にも努力を惜しまない廿楽は大変そうだなと言ったらアイに「お前も同じだろ」と笑われたことがあった。
つまり今ナルと二人きりなのである。
決して気まずい訳ではない。
ただ、俺はナルが好きなものや苦手なものを全く知らない。
ナルも大切なPleasure boatのメンバーの1人だ。
本来なら、リーダーとしてメンバーともっと関わっておくべきではあるのだが。
ナル自体が謎多き存在だというのも理由の1つだとは思う。
二人きりになるのは今日が初めてだった。
🧚♂️
「ねぇねぇげんちゃん。ボクらもお出かけしよ〜」
話しかけるきっかけが見つからなかった俺にとってナルの方から誘ってくれたのはかなり救いだった。
アウトドア日和と言わんばかりの晴天だった。
近くの公園に行くことになった。
シロツメクサが多く生い茂り、鳥が優雅に羽ばたく、自然豊かなこの公園は俺も幼少期から通っている。
🧚♂️
「お花がいっぱいだねげんちゃん」
俺にとっては見慣れている光景だったが、ナルを連れてここへ来たのは初だ。
ナルはまるで子供のように目を輝かせて、草原に飛び込んでいった。
🖤
「おい、怪我したら...」
どうやら心配はいらなかったようだ。
ナルは三葉の原の上をゴロゴロと転がりながら笑っている。
金色に輝く髪には1頭の蝶が止まる。
ナルはエルフだ。
バンドメンバーにとっては周知の事実だが。
もしそれが世間に知れ渡ってしまったら...。
タダでは済まされないだろう。
トップニュースになり、メディアはシェアハウスにまで押しかけ、そして......。
最悪の光景が頭をよぎり、思わず顔をしかめた。
絶対にそんなことはさせない。
俺にとっても大事なメンバーだし、何より俺を必要としてくれる存在の1人なのだから。
🧚♂️
「げんちゃんどうしたの」
そう言って俺の顔を覗き込むナルの瞳は透き通っていた。
人間の汚さも恐ろしさもナルは全く知らないのだ。
だからこそ本当は教えておかなければいけないことは山ほどある。
🖤
「ああ、少し考え事をしてただけ。」
それでも今言うべきではないと思った。
先ほども言ったように二人っきりの休日は滅多にないのだから。
俺はシロツメクサを使ってあるものを作った 。
🧚♂️
「これは何」
そう、シロツメクサの冠だ。
形が崩れぬようにそっとナルの頭に被せた。
🖤
「似合ってるね」
🧚♂️
「ほんとボクかっこいい」
両手でカメラフレームをつくり、ナルを見た。
ナルはファンサービスに慣れてきたようでこちらに向かってピースをしながら笑顔を見せた。
裏のない心からの笑顔に思わず頬が緩んだ。
🖤
「ああ、かっこいいよ」
俺は誓う。
ナルが心から笑って生きていけるこの世界を守ると。