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    雪見/はるのみ

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    雪見/はるのみ

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    バーチャルシンガー🎈が☕の想いで出来たセカイに出てくる(仮)
    恋愛感情はあるけど左右はよく分からん

    白黒のセカイ「今日はここで切り上げるか」
    「そうだね! こはね、大丈夫そう?」
    「うん! ありがとう、杏ちゃん」
    「この前よりも声の伸びが良くなっていたと思う」
    「確かに、着実に上達してんじゃねえの」
    「本当? 青柳くんも東雲くんも、ありがとう!」

     そう言って笑う小豆沢にひとつ頷いた彰人の「crase cafeに行くか」という言葉に、俺達は二つ返事で頷き、足を向ける。

    「にしても、そろそろレパートリー増やしたいよな…」
    「そうだな…」
    「あ! ならさ、コレは?」

     ピタリと足を止めて振り返った白石は、スマホを取り出したかと思えば、手早く操作して、動画サイトを開いた。

    「…ん……『白井カミル』?」
    「うん、ミク達とは違った感じなんだけど、バーチャルシンガーの一種、なのかな?」
    「あ、それ私も知ってる! 最近、ちょっと話題になってるよね」
    「へえ…」
    「二人にもURL送っとくから、興味あったら見てよ!」
    「ああ。そうさせてもらう」

     彰人と共に受信を確認すると、再びメイコさん達の元へと歩みを進める。

     コーヒーを啜りながらも、俺の頭の中はスマホを仕舞う直前に見えた『Untitled』の文字でいっぱいだった。

     *

     家に帰り着くと、母さんが今日は早いと少し驚いていたが、帰宅の早さに反して疲弊していた俺は、ただいまだけ呟いて部屋に向かう。心做しか足取りが重い。
     明日の予習は学校で済ませたし、本を読む気分ではない。―そうだ、白石から送られてきた、白井カミル、の曲を聴いておこう。

    「…これか、」

     一応、イヤホンを着けてから動画サイトのURLを開く。
     様々な曲をカバーしたり、時にはオリジナルで短めの曲を出しているようだが、どうやらテーマは一貫しているらしい。

    「全部、恋愛ソング、なのか…いや、でも、一曲目は違うんだな」

     一番最初にアップされた曲は、『Tell Your World』。初音ミクの曲だ。
     まずはこれから聴こう、とタップすると、原曲よりは幾らかキーが下がったイントロに、男声なのかと少し驚く。カミルという名前は女性名だと思っていたが、派生前は男性名だしな、と思っていると、歌唱部分に入る。

    [形のない気持ち忘れないように]

     ワンフレーズで、背筋が震えた。
     勿論、調声はしているのだろう。しているのだろうけれど、元の声が良くなければ、きっとこうはならない。バーチャルシンガーに疎い俺でも、分かる。

     ―白井カミルは、凄い。

     そのまま一曲丸々聴き終えると、三人が居るグループに感想を送ってしまった。しかも、長文。

    【冬弥がそこまで興奮してるの珍しいね。でも分かるよ!】
    【私も分かる! なんていうか、言葉で上手く表せないんだけど…】
    【そんな凄いのかよ。姉貴のおつかい行ったらオレも聴く】

     三人の反応に頷きながら、そういえばと音楽アプリを開く。
     間違いなく、『Ready Steady』の下に『Untitled』が鎮座していた。

    「……これも、セカイに繋がるのか…?」

     押してみようか、と躊躇っていると、扉越しに夕飯との声が掛けられ、そこで漸く自分が着替えの一つも済ませていないことに気が付いた。急いで着替えながら、スマホはベッドの上に置く。

    「今行きます」

     この日は、夕飯にイカが出て顔を思わず顰めたら、父さんにそっくりだと言った母さんに少しムッとしたことで、頭の隅に追いやられていて、結局再生しなかった。
     その代わりというか、他の曲を寝る直前まで聴きながら、ふと思った。

     ―この声、どこかで覚えがあるな。

     *

    「はよ、冬弥」
    「ああ…随分と眠たそうだな、彰人」
    「例の、ほら、白井カミルの曲、片っ端から聴いてたら、絵名が食い付きやがって。テンション上がったオレも悪かったけど、夜中までずーっと、な」
    「そうか……俺も寝る前まで聴いていたが、綺麗な声だな」
    「冬弥がそう言うってことは、やっぱりそうだよな…ふぁ……」
    「授業中、寝ないようにな」
    「分かってるよ…」

     欠伸を漏らす彰人に苦笑しながらも、教室の前で別れる。

    「じゃ、また……今日は練習日じゃねえけど、何かあったら言えよ」
    「彰人もな」

     そう言い交わして教室に入ると、目の前にクラスメイトの女子―草薙が、立っていた。

    「……おはよう?」
    「…おはよう。……ねえ、類…神代先輩、知らない?」
    「見ていないが…」
    「そう、ありがと。道塞いでごめん」

     スタスタと立ち去って行った草薙は、ロボの機能が何とかと独り言ちて、教室の中へと引っ込む。

    「……神代先輩、か」

     正直、あの人のことはよく分からない。
     まず、司先輩と仲が良い。よく一緒に行動していて、纏めて変人扱いをされている。神代先輩は司先輩を『奇妙奇天烈』と評していたが、噂を聞く限り、他人のことは言えないと思う。
     それから、と思案するが、ヒントが少なすぎる。あの人のことを、俺は何も知らないのだ。

    「……何?」

     気が付けば、俺は草薙に見上げられていた。

    「…か」
    「……か?」

     口が、勝手に動く。

    「…神代先輩のことを、教えてもらえないか」
    「……は? …そんなの、知りたいの?」
    「知りたい」
    「…なら、探してきて」
    「え?」
    「もう登校はしてるんだけど、どこにも居なくて。探してきてくれたら、教えてあげる」
    「……分かった」

     草薙の意図は。
     恐らく、自分が探せる場所は隈なく回って、見つからなかったのだろう。だから、俺に見つけることは困難だと思っている。
     所謂、『無理ゲー』というやつだ。

    「…草薙は、神代先輩が大切なんだな」
    「は? …まあ……類はわたしの、一番最初の友達で親友で、今では仲間だから、唯一無二ではある、けど。ただ、別に小さい子みたいに守る必要はない。…だから、今のはいじわるだったかも」
    「……心当たりは、すべて探したんだな?」
    「うん。誰も予想しない所にだって行った」
    「…そんな所があるのか」

     少しだけ、セカイの存在が頭を過った。次に、あの『Untitled』が。

    「……行ってみる価値はある、か…少し、行ってくる」
    「…無理に探さなくていいけど」
    「いや、俺も試してみたいからな」
    「……ふーん」

     草薙にそう告げて、俺は人気のない場所を探す。

    「……屋上、か」

     階段を上った先の扉を開くと、余すことなく広がる青が眩しくて、少し目を眇める。

    「……よし、」

     スマホを取り出して、『Untitled』をタップする。

     いつもはカラフルな光が飛び出す筈が、なんだか、色を失って見えた。
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