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    ny_1060

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    突然思いついた執事キース(28)×貴族の子息ブラッド(16)パロの書き出しです。続きません!(2024.03.18)

    「坊ちゃん、着きましたよ」
    「何故お前はそんなに浮かない顔なんだ」
    「本当に良かったんですか? やっぱり何人か連れてきた方が……」
    「不要だと言ったはずだ。お父様もお許しくださった」
    「それを言われるとなぁ……」
     差し出された手は取らずに馬車から飛び降りる。それを気にした風もない男はまだ渋い顔をしていた。
    「往生際が悪いぞ、キース」
     キースはこれ見よがしに肩を落として溜息をつくと、御者に行って良いと合図した。

    「ここは静かだな」
    「大旦那様の隠れ家ですからね。奥まっていますし、それに今は誰もいませんし」
    「しつこいぞ」
    「失礼いたしました」
     飄々と宣う男の横顔を見ながら長い廊下を進む。
    「こちらがご寝室です」
    「わかった。荷解きは自分でするからお前は下がって良いぞ」
    「恐れ入ります。では何か軽食をご用意します」
    「焼き菓子はあるだろうか」
    「ございます。紅茶とともにご用意しましょう」
    「頼む」
    「失礼いたします」
     通されたマスターベッドルームは屋敷の俺の寝室よりも格段に広かった。ジャケットを脱いで、キングサイズのベッドに行儀悪く倒れ込む。瀟洒な装飾の施された天蓋を見つめながら、俺は漸くここまで漕ぎ着けたのだと実感していた。
     ビームス家の子女は代々、十七になる年の夏に隣県の名門校に留学することとなっている。将来のために見聞を広め人脈を形成せよという趣旨だが、俺はこの機会を単なる好奇心以上の理由で心待ちにしていた。その理由が俺の随行者、キース・マックスだ。

     ◇ ◇ ◇

     キースがこの家で働き始めたのは俺が六歳の時だ。今日からお前付きの執事になる者だと、当時まだ健在だった祖父に紹介されたのが俺達の初対面だった。
     第一印象は率直に言って良くなかった。基本的な所作こそ執事のそれだったが、滲み出るこの家の使用人らしからぬ気怠い雰囲気に俺は子どもながらに戸惑ったし、鬱陶しい長い前髪にも違和感を持った。清潔感を殊更大事にする祖父や父がこんな格好を許していることが信じられなかった。
     しかし、その前髪の下が眼帯で覆われていることに気付いてから、俺は俄然彼に興味を惹かれた。それなのに、何故目を隠しているのか尋ねてもはぐらかされるばかりで、俺は苛立った。キースの言うことにいちいち逆らってみたり、困らせようと無茶を言ったりしてみたが、キースは意に介する様子もなく、あの気怠げな空気を纏ったまま俺の小細工を悉く受け流した。結局何をしてもキースの掌の上だったと気付いた俺は、彼を見る目を改めざるを得なかった。
     他方、キースはともすれば仕事をサボろうとするという悪癖を持っていた。ビームス家において勤勉でない人間などというものは存在しなかったので、俺は衝撃を受けた。規律を重んじる家風を六歳にして着実に身につけつつあった俺は、キースの生活態度を徹底的に指導することにした。雑に着崩された制服を逐一直し、サボっている姿を見つけては小言を言う俺にキースは辟易し、それを見た家庭教師は「これではどちらが世話役かわかりませんね」とよく笑っていた。
     それでいて、キースの傍は何故か居心地が良かったし、彼の言葉には不思議な引力のようなものがあった。
    「坊ちゃんはいつも肩に力が入り過ぎなんですよ。少しはサボってみればいい」
     俺にサボりを咎められたキースにそう唆されて、俺はある日初めて家庭教師の授業の時間に逃げ出した。すぐにメイド達に見つかってしまったが、連行されて戻ってきた俺を見るキースは悪戯っぽい優しい笑みを浮かべていて、俺はキースのことがまた一つ好きになった。
     そう、不覚にもとしか言いようがないが、俺はいつの間にかキースから目が離せなくなっていたし、彼のことをかなり気に入っていたのだ。そして、その感情が身近な者へのただの親愛ではないと気付いたのは十二歳の時だった。
     その日はバレンタインデーだった。この国では男性が愛する女性に花を贈る日だ。休憩中のメイド達が誰が誰に花をもらっていたなどと楽しげにささめく声を通りすがりに耳にしてしまった俺の脳裏に真っ先に浮かんだのは、キースの姿だった。キースは誰かに花を贈ったのだろうか。もしかしたらあのメイド達の中の誰かかもしれない。その想像は、途轍もなく俺を揺さぶった。
     気付いたら自室の前まで来ていた。扉を開けるとキースが窓辺で腕組みをして立ったままうとうとしていた。いつもならば見つけた途端に叱責しているところだが、その日の俺はキースを見つめたまま暫く動くことができなかった。
     午後の柔らかな光が差す中で目を閉じて俯いているキースは、彫刻のように美しかった。ずっとその姿を見ていたいと思うのに、早くその瞳に俺を映して欲しい、いつものように柔らかな眼差しを向けて欲しいと、切実なほどに願ってしまった。その時、ストンと腑に落ちるように、俺は自覚した。この男が欲しいのだと。
     それから四年、俺はずっとキースに密かな恋をしている。

     ◇ ◇ ◇

     隣の県にふた月行くだけなのだから、お付きはキースだけで良いと俺が主張した。向こうの学校でみっちり教えてもらってくるのだから家庭教師も不要だと突っぱねた。
     俺は自分が人を惹きつけるものを持っていることを自覚している。そして、キースも恐らく例外ではなく、時折眩しいものを見るような目で俺を見ていることに、俺は疾うに気付いている。
     これからのふた月は誰にも邪魔されない。父にも、メイド達にも、口うるさい家庭教師にもだ。
     この夏、俺はあの愛しい男を手に入れる。
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