ガトホワ/ガトノワシリーズ進捗◆◆◆
思いがけないことに、その機会はすぐに訪れた。
ホワイトとの出会いから一週間。いつものように猫の餌を補充するためにカフェに行くと、まるで先回りをしていたように寛いでコーヒーを飲む霊犀調査員がいた。
「やあ、ガット。いい店だね」
「この一週間全く連絡がつかなかったのに、突然どういう風の吹き回しですか」
「ははっ。ちょっとどう答えたものか考えあぐねていたんだ」
「……僕が聞こうとしていることがわかった、と?」
「まあね」
霊犀はコーヒーをもう一口飲むと、ガットに向かいに座るように促した。
ガットが席に着くと、もう一杯のコーヒーが運ばれてくる。
「先に注文しておいたよ。オリジナルブレンドでよかったかな」
「……」
そこまで予測してここに来ていたのか。
ガットはため息をついてコーヒーを口に含む。いつもと同じ注文のはずなのに、いつもより少し苦い気がした。
「……どうして彼をリーズニングのところへ。デザイア・メロディーとリーズニングは因縁のある相手だ。安全な場所へ彼を連れて行って欲しいと言ったはずです」
「彼、というのは、ホワイトのことかい」
「……ええ」
「リーズニングならホワイトを守ってくれると思った、というのが一番の理由だよ」
霊犀調査員はにっこり笑って言う。
「対デザイア・メロディにーに関してなら、リーズニングより安全なところはないからね。なにせ、トゥルース嬢も守り抜いた男だぞ。餓死しかけで閉じ込められていたところを保護したという」
「……それでも、デザイア・メロディーと関わりがないわけじゃない」
「なら、君が君自身の手で安全な場所とやらを手配すればよかったじゃないか」
霊犀調査員はきょとんと目を瞬いた。
本当に、心から不思議だ、というように。ひゅ、と息を呑んだガットを見つめながら、テーブルに頬杖をついて霊犀調査員は面白そうに続ける。
「そうしなかったのは何故だい? 言い訳をして、自分自身で守らなかったのは?」
「それは、僕と関わると、彼が危険に晒されるから……」
「いいや、違うね。守る自信がなかったからだ」
他の客が入ってきたのだろうか。からんころん、とドアベルが鳴った。それを、ガットは意識の遠くで聞いていた。
霊犀調査員は構わず続ける。
「一度、彼を守り切れなかったから」
「あなたに、何がわかる……!」
衝動的に、その襟元を掴み上げる。けほ、と霊犀調査員が咳き込んで、それなのに頭が冷えない。
図星を疲れた身体、ということは自分でもわかっていた。
けれど止められなかった。サフィールを消した、あの方法以外の何か、可能性を提示された気がして、気が気ではいられなかった。
その時だった。
「ガットさん……」
はっと手の力が緩み、霊犀調査員がとっと席に落ちるように座り直す。
振り返った先には、白い髪。夕暮れの空が照らして朱に染まった青年──ホワイドが、驚いたようにこちらを見つめていた。