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    nameko135

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    https://www.pixiv.net/novel/series/13087851)の続き。
    ガトノワとガトホワが幸せになるはなし。ガトとホワが出会う話。

    #納占
    nana
    #ガトノワ
    #ガトホワ

    ガトノワとガトホワが幸せになるはなし2 正午、食事を摂り終え、ホワイトは本棚の整理をしていた。
     ひっきりなしに大小の依頼が来るので、書類整理はどれだけしても終わらない。
     それでも、少しだけでも見やすくすればそれだけ効率が上がるので、ことオルフェウス探偵事務所では本棚の整理も重要な仕事だった。
     他に、ホワイトは猫探しの依頼や失せもの探しの依頼を手伝うこともある。
     ホワイトはなぜかこうしたことに対する勘が良く、逃げた猫や失くしものの在り処をぴたりと当ててしまうのだ。そういうわけで、ホワイトはこのオルフェウス探偵事務所で役割を得、のびのびと生活していた。
     保護されたとき、ホワイトはひどく衰弱していたらしい。医者が言うには、なんらかの劇薬に近い薬を大量に投与された形跡がある、ということだ。
     ホワイトは覚えていないが、身体にも無数の傷跡があったという。時が経つにつれ薄れていったそれを、元気になったホワイトが見たことはない。
     ホワイトは記憶喪失の人間だ。そんな人間が、こんなにも自由に心労なく過ごせているというのは、かなり珍しいケースだろう。
     投与されていたらしい薬の影響か、異様に色素が薄く強い日光に弱いホワイトを、リーズニングもトゥルースもホワイトの自主性を損なわない程度に、と大切にしてくれる。
     リーズニングも、トゥルースも、本当にいい人達だ。
     そんな彼らと家族のように過ごせて、ホワイトは本当に幸せ者だなあ、と思う。
     ぱらぱらと資料を捲り、日付順に仕分けていく。そうしながら、ふとホワイトは目を伏せた。
     幸せだ。ホワイトは、優しい人たちに保護されて、優しくされて、本当に幸せなのだ。
     ただ、そう、ただ、満ち足りていないだけで。
     ホワイトの中にはずっと、何か、大切なものが足りないような感覚があった。
     それはおそらく、記憶を失った時に欠けたものなのだろう。
    「……何か、大事なことを忘れたのかなあ……」
     書類をいくつかまとめてファイルに閉じる。それを本棚の端にしまいなおし、次の日付のものへと手を伸ばす。その時だった。
     ──カラン、カラン。
     玄関の向こうからドアベルの音がした。事務所に来客があったのだ。
     はっと振り向いた向こうで、リーズニングは資料を眺めて何か書きこんでいるし、トゥルースは何か証拠品のようなものを傾けて確認している。
     どちらも手が離せない様子だ。
     ホワイトは「なら自分が」と玄関へ向かった。見える位置にある玄関の鍵を開け、ドアを開く。
     はたして。
     そこにいたのは、はっと息をのむほど美しい顔をした青年だった。
     少しやつれて、髪も跳ねてはいるが、その造作の美しさは隠せない。銀色の髪は後ろで一つに縛られており、それより少しだけ濃い色をした目を縁どるまつ毛は長い。
     少し汚れた白衣の下にはスーツを着ていて、それらは一目で上等なものであるとわかる代物だった。何かで汚れているのが本当にもったいないくらいだ。
     少し大人びて見えるが、年のころはホワイトと同じくらいに見える。
     ……大人びて見える?今、自分は何と比べたのだろうか。
     驚いた顔をした青年にはっと我に返って、ホワイトはにっこり笑う。
     しかし、青年がなぜか苦しそうな顔をしたので、ホワイトは一瞬戸惑ってしまった。
     自分はなにかこの青年に無礼なことをしただろうか。
     記憶喪失というのは言い訳だが、ホワイトはマナーとか、そういうものも忘れているのかもしれない。
    「あの……?」
     ホワイトの声に、青年は目を伏せた。その手が握りしめられている。
    「……『はじめまして』私はガットと言います。ミスター・リーズニングを尋ねてきました」
     青年が、もう一度ホワイトに視線をよこした。悲しそうな銀の目に、ホワイトの胸がなぜか痛む。
     だから、あえて明るくホワイトは返した。この青年に、笑顔になってほしかった。
     どうして、見ず知らずの相手にそう思ったのかは、わからないけれど。
    「あ、はい! 私はホワイトと言います!」
    「……いい名前ですね」
     その言葉に、既視感があった。けれど、その理由がわからない。
     ただ、嬉しかった。気付けばホワイトは口をほころばせていて、へへ、と照れてしまっていた。
    「ありがとうございます……」
     ホワイトの言葉に、青年──ガットは目を細めた。
     表情は笑顔の形をしているのに、それが無理矢理に作ったものだとホワイトにはわかった。
    「ガットさん……? 何か、お辛いことでも……? それが依頼内容ですか?」
    「あ、いえ、ここにはお礼をしに。以前、迷子になったユキ……愛猫を見つけていただいたので……」
    「お礼?」
    「ホワイト、誰が来たんだ? ……ああ、ガットか」
    「先生!」
     訪問客があるのに気付いたのだろう。
     リーズニングが玄関に顔を出す。
    「お知合いですか?」
    「ああ。以前の依頼人だ」
    「ホワイトさん、ちょっと手伝ってほしいなのー!」
     リーズニングの言葉に被さるように、トゥルースの声が響く。
     見ればトゥルースは本棚の高い位置にある書類を取り出そうと背伸びしており、もう一歩が届かないようだった。
     あれは先ほどホワイトが並べた書類だ。上背のあるホワイトでないと取れない位置に置いてしまったらしい。
    「手伝います!」
     ホワイトは背伸びするトゥルースのもとへ向かい、本棚へ手を伸ばす。
     ──いい名前ですね。
     なぜか、ガットの言葉が脳裏に反響していた。頬が、わけもわからず熱くなる。
    「あの人に見とれちゃったの? たしかに綺麗な人だったなの!」
    「そ、そんな、からかわないでください!」
     トゥルースがにこにこと笑って言う。冗談だとわかっているのに、必要以上に焦ってしまった。
     本棚から取り出した書類を束ねてデスクに置く。
     抜けている書類もないようで、トゥルースが頷いている。
     と、そうこうしているうちにリーズニングが戻ってきた。
    「何をしてるんだ……玄関先にまで声が届いていたぞ」
    「えへへ、ごめんなさいなの。それで、先生、どんな依頼だったの?」
    「まったく……話を逸らすのはお手の物だな。トゥルース。依頼じゃない。猫探しの礼をもらった。大事な猫だったそうで、しきりに感謝されたな。……ほら、ホワイト、お前が公園で見つけた白猫、覚えてるか?」
    「……ああ!」
     覚えている。とてもホワイトに懐いてくれた猫がいたのだ。名前はユキ。依頼人はあの人だったのか。
    「お礼だと言って菓子折りをもらったんだ。トゥルース、ホワイト、あとでいただこう」
    「これ、三丁目のすごくおいしいパティスリーの缶なの! すごい!」
    「それは楽しみですね……あれ?」
     ホワイトが缶を受け取ると、不意にその包装紙の隙間からメモのようなものが落ちて来た。
     メモ、というより、カードだろうか。そこには一年ほど前の日付と「忘れない」という言葉が書いてある。ずいぶん大切にされているのだろう。ペンの跡は古いのに、随分綺麗なカードだった。
    「カード? 私たち宛じゃないなの」
    「……ガットは気付かなかったのか?」
    「あ、あの」
     ホワイトはカードを両手で持って、リーズニングと、トゥルースを交互に見た。
    「私、届けてきます。きっと、大切なものですから」
    「日差し、大丈夫なの?」
    「今はそんなに光が強くないですから。フードを被れば大丈夫です」
    「ああ、なら頼む。トゥルースと私は残りの仕事を片付けておく」
    「行ってらっしゃい、ホワイトさん」
    「はい!」
     ホワイトは白いフードを被って玄関の扉を開けた。強すぎない陽の光がほんのりとあたたかい。
    「行ってきます」
     毎日繰り返すような、他愛ない言葉。そんな単純な言葉を口にできることが幸せだ。幸せなことだとちゃんとわかっている。
     そう思う理由に心当たりはないのだけれど。
     オルフェウス探偵事務所を出ると、遠くの方にガットの後姿が見えた。万が一曲がり角を曲がってしまうと見失ってしまう。
     だからホワイトは走った。
     ゆっくりと歩いているガットとの間の距離はすぐに縮まる。
     たったそれしか走っていないのにも関わらず息を切らしたホワイトは、それでも見失わないうちに、とガットに声をかけた。
    「ガットさん……!」
    「え……」
     びくり、と肩を揺らして振り返ったガットは、ホワイトを見て目を見開いた。
    「どうして、ここに……」
    「忘れ物です」ホワイトが差し出したカードを、ガットは驚いた顔で見る。
     自分の服のポケットを探って、何かを探して「あ、ああ!」と声をあげた。
    「すみません、届けてくださったんですね」
     ホワイトからカードを受け取ったガットは大切そうに、今度は鞄の中にカードをしまった。
    「大事なものなんですね」
    「はい。……とても、大事なものです」
    「その日付には、何か意味があるんですか?」
    「……え」
    「あ……勝手に見て、すみません。不躾でしたよね……」
    「……いえ」
     ガットは目を伏せた。
     長いまつ毛がガットの目元に影を落とす。
    「忘れてはいけない──忘れたくない、大切なことがあった日なんです」
     どこか暗い目をしたガットに、ホワイトは自分が彼の大切なものを土足で踏み荒らしたのだということを理解した。
    「ご、ごめんなさい……。聞いてはいけないこと、でしたか」
    「いいえ、いいんです」
     ガットはうっすらと微笑んで見せた。その目は相変わらず暗い色を宿して、寂しさに揺れている。
     しゅんとうなだれるホワイトに、ガットは目を細めた。その手が一瞬ホワイトに伸ばされて、触れる直前でぎゅっと握りしめられる。
    「……もう、ついてきてはいけませんよ。あなたは、日差しに弱いんですから」
    「は、はい……」
     笑みを浮かべたまま踵を返したガットの背中を見つめ、ホワイトは自分もオルフェウス探偵事務所への帰路を歩いた。
     少し歩いて、ふと思う。
    「あれ、私、日差しが苦手って、ガットさんに言ったっけ……」
     ──と。
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