まいにち無占(いちにちめ) 閉じた瞼の向こうから光が透ける。
目覚めたくなんてないのに、その抵抗をそっと払いのけるように温かな光が意識をつついた。
──起きたくない。起きたらまた辛いことが待ってるから。
暗い部屋、重ねた罪と血の臭い。それから、数えるのも苦しくなる罰の数々。
そんなことばかり思い出す中で、不意に鼻をついたのは不思議な香りだった。
肉、だろうか。
それも、スパイスで脂臭さを誤魔化していない、今まで嗅いだことのないような、柔らかみのある肉の香りだ。
言うならば、美味しそう、というのだろうか。
そんな感覚すら他人ごとみたいで、変な夢だな、なんて思う。
美味しい、なんて、自分は──ノワールは知らない感覚なので。
くう、と腹が鳴る。そういえば任務でしくじった後から何も食べていない。
空腹になるのも仕方ないのかもしれない。
「おや、起きたんですか」
「──……っ!」
その他人の声に一気に覚醒する。
弾かれるように飛び起きて、臨戦態勢を整える。
──が、すぐにシーツの上に倒れ込んでしまった。
「……あ、……⁉」
足が痛い。関節がおかしい。膝から下を意思の通りに動かせない。
見れば、ノワールの膝からふくらはぎにかけて分厚く包帯が巻かれていて、そこには添え木までしてあった。
それも両脚だ。折れている、と感覚で分かった。
「い……っ」
「ああ、だめですよ、動いては。骨が折れているんですから」
にっこりと笑ってベッドに歩み寄ってくる男は東方の顔立ちをしていた。
白い異国の服を身に纏い、長い黒髪を背で緩く結った男はノワールの両脇にそっと手を差し入れて元の位置に戻した。