まいにち無占(みっかめ) 敵対組織の者だろうか。それならノワールを人質にするのかもしれない。
ぐっと唇を噛み締めたノワールの頭に、范八の手が伸びてくる。
──殴られる!
瞬間。そう思って首を竦めたノワールにもたらされたのは、てのひらが頭を撫でる、柔らかな感触だった。
「え……?」
「怖がらなくていい。俺達は怪我をして倒れていたお前を保護しただけだ。手当だってしているだろう?」
あ、と小さく声が漏れる。確かに、そうだ。
はっと謝七を振り向き、そして今度は范八の顔を見つめる。
──敵意が、ない。
ノワールは目を瞬いた。
范八の目に、黒と青のオッドアイが揺れているのが映っている。
「ご、めんなさい」
震える声でそう口にしたノワールの頭を、今度は謝七の手が撫でる。
「謝らないでください。怖かったのでしょう? 酷い怪我をしていましたし、よっぽど辛い目にあったんですね」
優しく落とされる言葉に、ノワールは小さく、本当に小さく息を吐く。
ぎゅっと手を握りしめ、目を閉じ、恐る恐る、目を開ける。
それをどうとったのか、謝七と范八は顔を見合わせて困ったように笑った。
「落ち着いたか? なら食事にしよう」
「范八の作るお粥は美味しいですよ」
言って、范八がノワールの前に盆を置く。
そこにはスープ皿に似た深皿が乗っていて、深皿の中には白くどろどろしたものが入っていた。パン粥のようだが溶け残っている小さい粒は麦に近いものに見える。ポリッジ……かもしれない。あの麦の香りがノワールは苦手なのだが、これからはそんな臭いはしない。
上には茶色い粉のようなものが振りかけてあって、先ほどからしている肉の匂いはこの器からしていたのだと分かった。
「おかゆ」
「はい、お粥です」