まいにち無占(ここのかめ)「こちらも用意しておいてよかった。ノワール、唐辛子が入っていないものなら食べられるか?」
范八が小皿に取り分けてくれたのは、ひたすら茶色い料理だった。
酸っぱい匂いからして、ビネガーを使っているのだろう。
揚げた肉のようなものと玉ねぎ、人参がとろりとした透明なソース?に包まれている。
唐辛子の気配はどこにもない。
ならば安心できる……だろうか。
ノワールは恐る恐るフォークを握りなおした。
微笑んだままの謝七がこちらを見ている。
だがいまひとつ踏ん切りのつかないノワールに焦れてか、范八が箸という二本の棒で玉ねぎを摘まみ、ノワールの口の前に差し出してきた。
「大丈夫だ、これは辛くない」
「……うう」
ノワールはしばし呻いて、范八に引く気配がないのを見て取って、ようやっと口を開けた。
そうっと放り込まれた玉ねぎは香ばしかった。
もしかして素揚げされているのだろうか。一瞬胡麻油のいい香りがして、中からじゅわっと甘い味が広がる。