まいにち無占(むいかめ)「どうしましたか?」
謝七はノワールの頭を撫でながら尋ねる。
どうした、と言いたいのはこちらの方だ。
見ず知らずの相手にこんな風に優しくする理由がわからない。
范八が盆を片付け、ノワールをベッドの中に戻す。
東方の人間だろうに、この部屋の内装はこちらのものと変わらないらしい。
慣れ親しんだ様式のベッドに横になって、シーツを駆けられる。
右には謝七が、左には范八が。
ノワールのことを優しい目で見ている。頭を撫でている。
子供じゃない、と言いたかったが、怪我をしたことで予想以上に消耗していたのだろう。
そうやっているだけですぐに眠気が訪れた。
「う……」
「眠っていいですよ。後は私たちがしておきます」
「ああ、早く骨を繋げ、『ノワール』」
うとうととまどろみの中に落ちていく意識に、ノワールは抵抗しなかった。
抗えないほどの眠気が襲ってきたからだ。
安心できる場所で、ノワールは久々にまっとうな眠りに落ちていく。
(……あれ)
眠る前、一瞬浮かんだ疑問があった。
(僕、名乗ったっけ……)
けれど、それはぼんやりした頭の中では泡沫のように弾けてしまう。
次に起きた時、ノワールはその疑念を覚えていなかった。