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    mmmuutoo

    @mmmuutoo

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    五さんの独白。映画を受けての小話。全くカプ要素はないつもりだけど、五伊地の人間が書いてるのでそういったエッセンスを感じるかもしれない。

    スーパーヒーローの手 あの春、呪術高専に入学したのは地味でひょろっこい眼鏡のさえない男子が一人だけだった。地方から上京してきたらしいそいつは、見るからに頼りなく、自信もなさげで呪力量もなければ術式もないし体力もない。それをカバーできるような器量もない。そんなやつだった。でも「五条先輩」って後輩から呼ばれるのは悪くなかったし、二年生の二人とは全く違うキャラクターの伊地知は一の力で突けば十の勢いで飛んでいくようなそこそこ面白いやつだった。
     春には七海たちの時みたいに歓迎会をして、京都校との交流会は伊地知がズタボロになってんのがウケて、お疲れさん会で遊園地に行って、任務と学生生活とをそれなりに楽しんでいたと思う。徹夜でゲームするんですか⁈ ってビビりながらもちゃんと言われた時間に僕の部屋にみんなで集合して、しっかりコーラ飲んでポテチ食べてた図太さに笑ったのを覚えてる。まさに青い春。実質学生としては最後の年、なにして過ごそうかって、そう思ってた。あいつらと顔を合わせるだけで楽しかった。
     でも、そんなことを思っていたのは僕だけだったっていうことを思い知らされたのはその年の晩夏だった。あの時期、確かに傑の調子が悪そうなことは知っていた。ぼんやりしていることが増えて、頬も痩せて、遊びの誘いも断られることが増えた。もっとも、等級の高い任務の数もぐっと増えて傑と顔を合わせること自体が少なかったのだけれど。
     そんな日々で傑の摩耗した精神が折れたのか砕けたのか千切れたのか。結果としては呪術界に激震が走る大事件、そして最悪の呪詛師の誕生となってしまった。僕にとっちゃ寝耳に水。ほんとにあいつはどうしちゃったんだって悩みに悩んだけど、動揺しても仕方がないって思っている自分もいた。硝子にも七海にも伊地知にも、いつも通りを装いながら。自分の中のバランスを探る日々。あの時殺さないのが正しかったのか、ああなる前に引き返せなかったのか、とか。
     たらればを繰り返すことの不毛さを感じながらも結論として辿り着いたものは、呪霊も人間も消滅させ得る力を持っていたって、本当に掬い上げたい人の手を掴むことさえできない自分がいた、ということだった。助けてくれっていう気持ちのない人間に、救ってくれって声を上げない人間に、自分の持つ力は意味のないものなのだと思い知らされた。
     だから、伊地知が弱くて本当に良かったと思った。伊地知は等級的に行ける任務もそんなになかった。だから勉強の一環として一緒に来いって言って、よく僕の任務に同行させてた。あいつはほんとにへなちょこで、あと十秒後には死んでたなって場面は両手足じゃ足りないくらいあったと思う。伊地知は、呪霊に取り込まれそうになりながら、脚を明後日の方向に歪めながら、廃病院の屋上から飛ばされながら、鼻血と涙と汚れに塗れてマジで死ぬって顔で「助けてくださーーーーーい‼」って叫ぶ。伊地知の呪力にマーキングしてから任務に入るようにしてたから、場所はすぐに分かる。三途の川はまだ渡んなよって掴んでやったボロボロの手が、僕の手を握り返して五条先輩って呼んで、泣いてんだか怒ってんだか顔をくしゃくしゃにして縋るから。助けていいんだって、助けることに意味はあるんだって、その度に噛み締めた。性格悪いなって思うけど、あの時の僕には必要だったんだよね。
     でもまあそんな生活、ついこの前まで一般中学生だった伊地知には酷だったろう。身体にもメンタルにもきちゃうよね。傑の離反後は僕への監視の目も厳しくなってて楽しいお出かけなんてできないのが当たり前になったから、息抜きもできない、辛いことしかない伊地知は早々に辞めるだろうなって思ってた。灰原のことがあって術師を辞める決意固めてた七海は、伊地知が高専辞めるって決めるまでは在学はするって決めてたみたい。だから「その時」が来たら一気に後輩二人もいなくなっちゃうのかーって思ってた。でも中途退学で去るってことは、命はあるってことだからそれはそれで良いか、っていう思いもあった。でも伊地知はなかなかどうしてしぶといやつだった。一人での三級呪霊討祓も、意識なくして帰ってくることも多かった。硝子の反転術式の精度をめきめき上げさせたのは伊地知の怪我のおかげじゃないかってくらい、恐ろしい回数治療を受けてた。人の進退についてどうこう言わない主義の硝子が、もう辞めてもいいんじゃない? なんて言ってたの、たぶん伊地知が最初で最後。
     そんなもやしっ子代表みたいなやつが、今、補助監督になって同僚として生意気にも任務の概要と留意点を説明してたりする。当時から失礼なケがあったやつだけど、歳を重ねて図太さが増して、前よりももっとナチュラルに失礼なことを言ってきたりする。高専時代に僕が散々助けてやったから今のお前があるんだぞってデコピン。でもそれと同時に、あの時「助けて」って言ってくれたお前がいたから、僕が救われたんだっていう思いがある。
    「五条さん、聞いてないでしょう⁈ この山は絶対に削ったりしないで下さいよ⁈」
     あーあー。現代最強の僕にそんな口聞くなんて、任務ヤダ~って言ったらどうする気?
    「聞いてるってばー。要は、霊験も自然も豊かな御山だから半分以上は残せるようにってことでしょ」
    「違いますッ‼ 傷付けるのが厳禁なんです‼」
     二つ下の生意気な弱っちい後輩。そんなやつと同僚になって口やかましく言われて、それすら楽しく返せるなんて、そんなこと十五歳の僕には想像もできなかった未来だ。
    唯一無二の術式でも、凶悪な呪具でも、この未来は作れなかった。伊地知、お前は絶対に気が付いていないだろうけど、この僕からの信頼を得られたのは、間違いなくお前しか持っていない力があったからだよ。
    「んじゃま、今日もいっちょやりますか」
    「丁寧に……! 丁寧にお願いしますよ……‼」
    「へーへー」
    「……五条さん、ご武運を」
     任務内容についてはいつも通り、首尾よく上々。僕の術式が当たる前に呪霊が派手に自爆したのは予想外だけど。仕方がない。大人になっていく過程で割り切りの大事さというものは伊地知も僕も学んでいるはずだ。
    「……五条さんのバカ……っ」
     帳の外で唇噛み締めてるだろう伊地知には、帰りにうどんでも奢ってやろう。



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    mmmuutoo

    DOODLE五伊地(♀)です。五→伊♀の図。片思いが好きすぎる。自分が一番厄介なんだなって気付く五。
    俺の、僕の、お前 弱くて、呪力量も少なくて、とびぬけて器用でもなくて、一般社会に居た方が確実に幸せだったろうなと思う女子生徒。それが伊地知だった。同世代の女子なんて歌姫か硝子しか知らないからとりあえず同じように扱ってたけど、あまりにも雑すぎるって七海や傑によく言われたっけか。高専の教壇に立つような年齢になったからこそやっと分かる。確かにそうだったって。呪霊を祓う知識は持っているけど、伊地知は頭のネジが飛んでない。呪力の使い方なんて知らないでもやっていけそうな、かなりまともな分類の人間なのだから、それ相応の扱いをしてやらなければいけなかったんだって。
     修行だって言って低級呪霊の巣窟に放り込んだり、傑や硝子としてたように七海と一緒に同じ部屋をとって旅行してみたり、寮室で一晩中ゲームしてみたり。そういうの、あいつは苦手だったのかも、とか今となっては思う。でも僕の知ってるモデルケースは、あいつらと過ごしたそれしかなかった。灰原も傑もいなくなって、硝子は自分の進む道を決めてて、七海は死んだ目で日々を消化してた。
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