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    ukiistok

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    ukiistok

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    高2の時の刑桐幻覚。刑部さんが旧スタオケに加入して横浜へ通うことで桐ケ谷くんと会う時間が減ってそうだな。たまに会えたときは甘い時間を過ごしていたらいいなという妄想。寛容にご覧ください。

    #刑桐
    paulowniaWood

    ブランク――桐ケ谷?全く、久しぶりに学校へ来たかと思えばこれか。
    名前を呼ぶ声と、嫌味たらしい小言が不思議と懐かしい。机に伏したまま、桐ケ谷は近づく足音に耳を澄ませた。
    こいつと二人だけの時間というのは久しぶりな気がした。別に喧嘩をしたわけでもないし、疎遠になったわけでもない。ただ、お互いそれなりに多忙だったのだろう。
    特に刑部は、生徒会や家の事で駆り出されているにも関わらず、近頃は横浜まで足繁く通っていた。刑部にスターライトオーケストラという学生オケから声がかかったのはこの春のことだ。学校経由での誘いだったこともあり、優等生の面を被る刑部は断れなかったのだろう。「せいぜい楽しんでくるさ」と自嘲気味に笑う横顔を見た夜から三ヶ月ほどが経つ。そのオケは界隈でも名が知られていて、週末などはホールで演奏会なども行っているそうだ。どこにそんな時間があるのか全く理解できないが、忙しくしている方が性に合っているのだろう。
    刑部と顔を合わせる時間が減り、つまらなく感じたことも確かだが、不満に思うことは一度もなかった。本人は認めないだろうが、刑部が相当な音楽バカだと言うことを桐ケ谷はよく知っている。
    「いつまで寝ているんだ、晃」
    親の他に、桐ケ谷をそう呼ぶ人物は一人しかいない。呆れたような物言いに、甘さを纏った声で鼓膜をくすぐられる。机の前に腰掛けたのだろう。床とスチールの脚が擦れる音は、木板の表面を振動させた。素直に起きてやるにはなんだかつまらない気がして、たぬき寝入りを続けてみる。こういう戯れも久しぶりだと思うと、どこか浮ついた気分になった。近くに刑部の息遣いを感じて、ほんの少しの期待がよぎる。
    そっと、冷たい指先が桐ケ谷の頭に触れた。後頭部の形を確かめるように移動し、毛束を掬われると、先までするすると優しく撫でられる。
    「…晃」
    不意に、耳元でそう囁かれた。
    すでに目が覚めていることはお見通しなのだろう。はやく起きて相手をしろとでも言うように、低く、柔らかい声が小さく響く。一体どんな顔をして言っているんだか。
    「ここが教室だって忘れてるんじゃねえのか、会長サン」
    刑部の手を捕まえて顔を上げる。さっきまで空調の効いた部屋にいたのだろう、まだ冷たさの残った手の持ち主は薄い唇を機嫌良さげに綻ばせてこちらを見つめている。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。教室中が夕日色に染まっていて、数時間ぶりに浴びた光がひどく眩しい。
    「久しぶりの逢瀬だからね。それに施錠は済ませてある」
    「用意周到かよ」
    刑部は、桐ケ谷と合わせるように手のひらをゆったりと半回転させ、オレンジ色に投写された手指を絡める。肌の厚みに触れると、手の届く場所に刑部がいるのだと、やっと実感した。
    「それにしても、いつから寝ていたんだ?」
    手を弄り合いながら、揶揄うようにそう聞かれる。
    「あー、飯食ってからだから五限?」
    「馬鹿だな」
    嘲笑混じりに言われ、少々ムッとした。これは本当に馬鹿にされている方のやつだ。それでも、愉しげな刑部の表情を見てしまうと苛立ちのようなものは凪いでしまう。長い付き合いだからというだけではない刑部にだけ湧いてくる情というのが、桐ケ谷の中に確かにある。
    「お前が単位がどうだとか言うから来てやったのに」
    「俺を先輩と呼ぶことになって良いのなら好きにするといい」
    「誰が呼ぶかよ。気持ちわりい」
    本気とも冗談とも取れる軽口を交わしながら、互いの手のひらの形を思い出すように指を絡め合う。ほんの少しの間があった。悪戯に動いていた指は一瞬力を緩め、桐ケ谷の手は丁寧な動作で包まれる。
    「寂しかったかい?」
    本音を纏った、自負と不安が混じったような眼差しを向けられる。ここで寂しかったなんて返せるほどの愛嬌は持ち合わせていないが、はぐらかしてしまうには刑部に悪い気がした。几帳面に結ばれたネクタイを掴み、乱暴に引き寄せる。触れた、柔らな部分から、全部伝わるだろう。
    寂しくなかったなんて言えば嘘になる。学校や水戸で起こる諍いは自分一人でどうにでもできたし、ウロボロスのメンバーも増えてきた。それでもどこか物足りなく感じていたのは、きっと知らずのうちに刑部が隣にいることが当たり前になっていたからだ。
    唇をゆっくり離すと、桐ケ谷の鼓動が大きく跳ねた。そこには素直に答えた方が良かったと思ってしまうほどに、満足そうな刑部の笑顔があって居た堪れなくなる。それでももっと触れ合いたくて、桐ケ谷は再び刑部の口を塞いだ。

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    ukiistok

    DONE高2の時の刑桐幻覚。刑部さんが旧スタオケに加入して横浜へ通うことで桐ケ谷くんと会う時間が減ってそうだな。たまに会えたときは甘い時間を過ごしていたらいいなという妄想。寛容にご覧ください。
    ブランク――桐ケ谷?全く、久しぶりに学校へ来たかと思えばこれか。
    名前を呼ぶ声と、嫌味たらしい小言が不思議と懐かしい。机に伏したまま、桐ケ谷は近づく足音に耳を澄ませた。
    こいつと二人だけの時間というのは久しぶりな気がした。別に喧嘩をしたわけでもないし、疎遠になったわけでもない。ただ、お互いそれなりに多忙だったのだろう。
    特に刑部は、生徒会や家の事で駆り出されているにも関わらず、近頃は横浜まで足繁く通っていた。刑部にスターライトオーケストラという学生オケから声がかかったのはこの春のことだ。学校経由での誘いだったこともあり、優等生の面を被る刑部は断れなかったのだろう。「せいぜい楽しんでくるさ」と自嘲気味に笑う横顔を見た夜から三ヶ月ほどが経つ。そのオケは界隈でも名が知られていて、週末などはホールで演奏会なども行っているそうだ。どこにそんな時間があるのか全く理解できないが、忙しくしている方が性に合っているのだろう。
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    konatu_0722

    MOURNING日常推理モノが書きたいと頑張ったけど、面白くないのでここで供養
    「呪いって信じるか?」
     深夜午前二時。明かりを消して怪談話をするにはもってこいの時間だが、同じベッドに眠る刑部は興味の欠片もないようで欠伸をしている。桐ケ谷だって別段、怖い話をしようと考えたわけではない。ただ単に、ふと思い出しただけだ。
    「お前の口からそんな単語が出てくるなんてね。どうした、夜中のトイレに行くのが怖くなったか」
    「そんなんじゃねぇよ。ただこないだ大学の先輩に変なこと言われてさ」
     興味を持ったのか、枕に預けていた頭を腕に乗せてこちらを見てきた。
    「詳しく話してみろ」

     まだサブスクにも上がっていない話題の映画があった。興行収入何百億だかで、大学でも見に行ったと話題で持ちきりだった。あいにく桐ケ谷は見てなかったが、同じ学部の先輩が興味あるならDVDを貸してくれると言う。その先輩は二年に上がってから同じキャンパスで通う内に仲良くなり、来年は大学院に進むらしい。スタオケの練習と授業の兼ね合いが難しく、提出物に困っていると声をかけてくれたり、過去テストの情報をくれたりと工業部では珍しい部類の穏やかで気配りができる人で世話になっている。そんな先輩から、興味があるならと借りることができた。家に帰り早速観ようとパッケージを開けると、中は何の印字もされていないDVDが一枚。普通はタイトルが印刷されているのにおかしいなと思いつつデッキに入れようとしたところで、その先輩から電話がかかってきた。
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    asaki

    PAST2022.12.18[星々が紡ぐ旋律2]にて展示していた作品。

    卒業式後、気持ちに見て見ぬふりをする桐ケ谷と落ちてくるのを待つ刑部の話

    ※多分、今後続きます。
    【刑桐】Irresistibile/春 すうすうと無防備に寝息を立てる男の姿を、初めて見たかもしれない。
     二人掛けのソファに窮屈そうに脚を投げ出し、胸元には読みかけの参考書らしきものが伏せられている。
     ベランダの窓は開け放たれ、生成りのシアーカーテンが揺れるたびに影が揺らめく。甘い匂いを乗せた風がはらりはらりと桜を誘い込んでくるのか、室内に桜の花弁が散っていた。
    (絵になる男――)
     まるで映画かドラマのワンシーンのようで、桐ケ谷は思わず舌打ちしたくなった。


     高校を卒業したら進路は分かたれる。今までのようにつるんではいられない。
     地元の専門学校に進んだ桐ケ谷と、都内の大学に進学した刑部――どうしたって、共有する時間は減る。中学と高校時代、小学校の時よりも一緒にいた時間は少なかったが濃度が違った。ぎゅっと凝縮されていて、いつでも桐ケ谷の後ろには刑部がいるような気がしていた。事実、スターライトオーケストラとして活動している間は刑部とほぼ一緒にいたと言っても過言ではない。菩提樹寮へ通う際も、一緒にツーリングしているような気になった。
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