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    hiwanoura

    @hiwanoura
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    hiwanoura

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    怪しいお店をしている先生とアルバイトのタルによる、怪異巻き込まれ現パロ。略して怪異パロ。途中までです……
    ※微グロ?
    ※微ホラー?

    #鍾タル
    zhongchi

    怪異に好かれまくるタル怪異パロ


    其れは、気が付いたらそこにいた。
    瞬きをした瞬間、伏せていた視線を上げた瞬間、横を向いた瞬間……そんなふとした瞬間に、視界の端に現れ始めた黒い影。なにかいたな?とそちらを向いても、そこには何もおらず。気のせいか……それとも疲れているのか、と、すぐに興味はなくなってしまうのだけれど、しかし。少しするとまたその影は視界の端に居るのだ。見ようとすると見ることの敵わない何か。正直、気にはなるが、まぁ邪魔なものでもないし生活の妨げにもならないので放っておこうと思っていたのだが……数日が過ぎ、影が居ることに慣れ始めた頃。ふと、其れが視界を占める割合が以前より大きくなってきていることに気がついた。ゆっくりと、しかし確実に。影が、近付いて来ている……そう理解すると、今度はなぜか周囲に火元もないのに焦げ臭さを感じるようになった。普段生活している時にはそんなもの感じないのに、決まって影が見えた時には何かが焼けた臭いが鼻をつく。ただの枯葉や紙なんかを燃やしたような焦げ臭さでは無い。鼻の奥にまとわりつくような不快な臭いと、刺激臭とが混ざりあったようなそんな焦げ臭さ、と。そこまで考えて気がついてしまった。あぁこれは、人が焼けた時の臭いだと。なるほど、この背後に居るこいつはただ真っ黒な影かと思っていたが、焼死体だったらしい。皮膚が黒く炭化してしまうほどに焼かれた、人だったものだ。未だにこうして彷徨っているということは、ひょっとしたらまだ死んだことに気がついてはいない……つまりは、生きたまま焼かれたのかもしれない、と。その何者かも分からないなにかにほんのわずかに憐れみを感じていると、また周囲でおかしな事が起き始めた。手を洗おうと捻った水道から真っ赤な水が流れでて止まらなくなったり、歩いていたら目の前にベシャリ、と何か生き物の皮を剥ぎ取ってぐちゃぐちゃに潰して丸めたような物が落ちてきたり、壁に爪が剥がれるまで引っ掻いたような傷が無数に着いていたり、細い隙間に血走った目が大量に……それこそ隙間なく詰め込まれていたり。十分置きに知らない番号からかかってくる電話をとると『死死死死死死、ね、呪われろ死死死』と絶叫されるか、謎のお経を聞かされるし、学校に置いてある上履きに溢れんばかりの爪が、まだ肉片も血もついたような状態で入っていた時には流石にどう処分するか困ったものだった。鏡に映る己は何故か自分の首をガリガリと引っ掻き血塗れになっているし、かくかくとおかしな動きで歩く髪の長い女とすれ違えばもれなく追いかけてくる。足をよこせ、腕をよこせ、目玉をよこせと求められ、布団に入って寝ようとすると、ケラケラと笑い声が聞こえ天井に張り付いた子供が、その目玉の嵌っていない眼孔からダバダバと血を流しながら見下ろしてくる。ふと窓の外をみれば落下していく人影と目が合うし、通りかかった公園の木にはぶらりぶらりと首を吊った人が揺れながらジィとこちらを見ているし。遠くに女の子がいるな、と思った次の瞬間にはその子が目の前に来ていて、黒目のない、濁った白い目をじ、と向け「アソボ、アソボアソボアホソボアソボアソボアソボ」と首が折れるほど……というか、もう殆ど折れてその細い首が千切れ始める程に傾けて壊れたラジオのように誘ってきたり。そうして、焼死体がもう視界の半分を埋めつくし、なんなら顔を覗き込んで来るようになった頃、今度はどこからとも無く童歌の『通りゃんせ』が聞こえるようになったのだった。





    「さすがに四六時中、とぉ~りゃんせとぉりゃんせ~って歌われるのは煩い」
    しかも近くの時と遠くの時とだんだん近付いて来る時とあるんだよ?そんなバリエーションいらないって!と。そう、飲み終えたペットボトルをぐしゃりと潰し唇を尖らせ言うタルタリヤに、話を聞いていた一同は数秒の沈黙の後、揃って「いやいやいや、ちょっと待て」と突っ込みをいれた。
    『通りゃんせの前にもっとなにかあるだろ!』
    『歌が近いか遠いかは一番どうでもいいわよ?!』
    『シシュウ、スゴイ、クサイ』
    クワッと目を見開き(目がついていない者もいるが)顔を引きつらせつつ。見た目からは想像できないほどにあまりにもまともな意見を言う周囲に、この場で唯一普通の人間らしい見た目をした言われた当人の方はと言うと、青色の目をパチパチと瞬かせ、首を傾げて
    「なんかおかしなことあった?」
    と。そう至極不思議そうにキョトンとした顔で応えた。それに、あーこりゃダメだ、と頭を抱えた(頭が無い者も略)彼らが諦めと共に吐いた深い溜息が、さして広くもない店中に折り重なるように落ちたのだった。
    もー、ちょっと聞いてよ!!と、店に飛び込んできたところから始まったここ最近のタルタリヤのお悩み相談という名の愚痴は、結局のところストーキングしてくる焼死体のせいで気が狂いそうなわけでも、嫌がらせのように靴に詰められた生爪のせいで病みそうなわけでも、数歩歩けばぶち当たる数多の怪異のせいで死にたくなるわけでもなくて、四六時中聞こえてくる歌がただ鬱陶しい、というだけの話だったことに、彼の愚痴の聞き手役である呪いのぬいぐるみだとか、髪の伸びる市松人形だとか、血を流す鏡だとか、コロコロ転がる目玉だとかは呆れ返ることしか出来なかった。自分たちが言うのもなんだが……この人間、怪異だとか呪いだとかお化けだとかに慣れすぎじゃないだろうか?いや、ほんとに自分たちが言えることじゃないが、と。そのまだ幼さの残る顔を呆れの表情を隠すことなく見あげた。
    「えー、でもほんとにうるさいんだよ……ついつられて歌っちゃうし」
    確かに、寝ても起きてもずっと歌が聞こえてくる、というのはさぞや鬱陶しいだろう。普通の人ならば三日と持たず精神不安や不眠に陥り、自死を選ぶ者さえ出ておかしくない状況だ。成程それは辛いな、とその青い目の下を見ると隈なんて全く出来てはおらず、それどころかシミも傷もなくつるりと健康そのものという顔色をしていて、まぁ、こいつは……そうだよな……と、そっとクマのぬいぐるみは見なかったことにした。
    「ペンギン様の細道ってどこだよ!!って探しても出てこないし」
    『ぶふっ!』
    「地図アプリで『ペンギン、細道』って検索した時のオレの気持ち考えて」
    『調べる前に気がつけ』
    盛大な聞き間違いをあたられても困る、と。笑いを堪え裂けた腹を押えつつ言うクマに、タルタリヤはじとりと目を据わらせ、頬を膨らませた。
    「他人事だと思って笑ってないでよ。耳元でずっと歌ってあげようか?通りゃんせ」
    『それはいやだ』
    「でしょ。他のはどうでもいいんだけど、ずっーと歌われるのは煩いし、飽きてくるんだって」
    他の、と気軽に纏められたものも十分危険なもので普通の人ならば付きまとわれたら最後、発狂し死を選ぶか、運良く生きてもその後の人生はめちゃめちゃになるようなタイプの怪異たちなのだが、まぁしかし、常日頃から何かしらに憑かれ、絡まれている怪異ホイホイなタルタリヤにとってはいつもより少し多いかな?くらいのものなのだろう。問題と言えば焦げ臭いせいで鼻がムズムズするのと、ところ構わず降ってきたり塗りたくられたりする血の汚れを落とすのが面倒なくらいで特に気にするものでもなくない?と、あっけらかんと言う彼に、ほんとにお前、人間なのか?という疑問は飲み込んで、血濡れのうさぎのぬいぐるみが短い腕を組みそのちぎれかけの首を傾けた。
    『でもここじゃ聞こえないな。通りゃんせ』
    「確かに……焼死体のストーカーもついてきてないね」
    先生のおかげかな?と。小さく肩をすくめるのにだろうな、と周囲も頷く。この怪異たちが住まうこの場所は、彼らの主たる鍾離の縄張りだ。嘗て――それこそ岩神として国を治めていた頃に比べたら力は弱くなったとはいえ、未だにそれなりの力は持つ元神の領域には流石に入ってくるほどの力はないのだろう、と。店の入口である扉の向こう側、磨りガラス越しに見える複数の蠢く黒い影を見やった。
    『でも諦めてはいないな』
    「もー本当にしつこい」
    『一体何したんだよ、嫁』
    「なにもしてないって!」
    じーっと一同から疑いの目を向けられ否定をしても、まぁ誰も信じる訳もなく。歌ねー、無視するしかないんじゃないか?いや嫁も歌って対抗しろよ。ラップバトルみたいな?通りゃんせバトル??と、解決出来そうで出来なさそうなアドバイスをしてくる怪異たちに、タルタリヤはもう少し真剣に考えてよーと溜息と共に文句を零した。と、言っても何が原因でこうなったかがわからない以上、解決の仕方も分からないのだから仕方ない。さて、どうしたものか……揃ってうーんと頭を捻っていると、微かな衣擦れの音と共に、ゆらり、と奥の暗闇が揺れた。
    「あ、おはよ」
    「ぅむ」
    夜の闇がひとひら零れ落ちたかのように。現れたその人は墨色に枯茶色の模様があしらわれた寝巻き、と言うには上等すぎる衣を纏いゆらゆらとどこか覚束無い足取りで声をかけたタルタリヤへと近寄ってきた。そうしてするりとその長い腕を彼の腰へと回し、後ろから抱き締めるように腕の中へと収めて。その肩に額を乗せてグリグリといい位置を探すのに、抱え込まれた当の本人は苦笑を零す。
    「先生、まだ寝足りないの?」
    と、腰に回る手を軽く叩き、肩に乗る頭を撫でてやる。すると擦り寄るように微かに身じろいだ頭から、小さく「おきてる」と、返事が返ってきた。
    「起きてないじゃん。もーお寝坊だね」
    己を離す様子も離れる様子もなく、逆に少しの隙間も許さないというかのように腕の力を強める彼――この店の主である鍾離に、タルタリヤは仕方ないなーと体から力を抜く。この体勢になると、引き剥がすことが不可能に近い事は、過去の経験からよくわかっているのだ。
    『今日は早起きな方だ』
    『あるじさま、起きてえらい』
    「いや、甘やかしすぎでしょ」
    口々に言う怪異たちに呆れたように言うと、市松人形が小さく肩を竦める。
    『あなたが来ない日はもっと寝てるわよ』
    最近は寝てる時間の方が長いものと。そういうのに、まぁおじいちゃんだからねぇと返して。タルタリヤは鍾離の艶やかな焦げ茶の髪をひと房引っ張った。
    「ほら、起きて先生。ちょっとオレの話聞いてよ」
    「うむ……あぁ、きいていた」
    まだ半分寝惚けているような声で。そうぽやぽや答える鍾離は、しかし本当に話は聞いていたようで「歌がうるさいのだろう」と、タルタリヤの肩に頭を埋めたままモゴモゴと呟いた。
    「なんだ、聞いてたの」
    「公子殿の声で目が覚めたからな」
    「最高の目覚めだね」
    にっこりと語尾にハートマークをつけて言ってやれば、小さな唸り声と共に返事の代わりに額を押し付けられる。学校終わりでそのままここに来たので今は制服を着ているが、もしこれが普通に首元の空いたTシャツなんかを着ていたら首筋に吸いつかれていただろうな、と思わせるようなその動きに、ぞわりと腰の当たりが熱くなるのを感じながら、タルタリヤは「なんか文句でもあるの」と、腰に回る腕を摘んでやった。
    「ぅむ、快活な公子殿は愛らしいが、目覚めの時はもう少し穏やかな方が好ましいと思ってな」
    「穏やかに声掛けても起きないじゃん先生」
    「そんなことは…ない、ぞ?」
    「自信無さすぎでしょ」
    語尾が小さくなるのを鼻で笑い、起きなかったら寝込み襲っていいならそうしてあげるよ、というと、できるものならやってみろと返されて。むぅと頬を膨らませたのはタルタリヤの方だった。こんなことをいい、隙があれはそういった意図のあるような手つきで触ってくるしキスだってしてくるくせに、いざセックスするぞ、となるとそれは未成年だからダメだと断固拒否で一切手を出してこようとしない鍾離に「先生の意地悪!」といつものように悔しさを滲ませつつ返し、はぁ、と一つため息を吐く。
    「で?これはどうにかなるの?」
    いくら強請っても、押し倒しても、寝込みを襲っても手は出して貰えないのだ。いい加減ムラムラ……いやイライラするけれど、それはどうにか抑え、この話題はまた今度、と頭を切りかえ言うとようやっと伏せていた頭が上げられた。
    「なるぞ」
    「え、」
    あまりにもあっさりと。そう返されタルタリヤは思わず間抜けな声を零す。周囲の怪異たちも、え?そんなに簡単に?と首を傾げるのに、鍾離は「なに、簡単な事だ」とタルタリヤの金茶の髪に唇を寄せた。
    「誘われるまま、歌の聞こえる方へと行ってみればいい。さすれば相手の正体も分かるだろう」
    こともなげにそういうのに「え」の口が今度は「は?」の形に変わり眉が寄る。どういう事だ、と腰に回る腕を無理やり剥がし、向かい合うように振り向くと、己の腕の中から愛し子が逃げたと石珀色の目が一瞬寂しげに揺らいだ。が、青色の目がじっ、と己を見上げてくるのに気がつくと直ぐに機嫌は治り、普段通りの柔らかさでその顔を映した。
    「歌の出処にいっていいの?」
    いつもならば怪異に率先して向かっていく自分をあまりよく思わないどころか、やりすぎるとお仕置だなんだといってくるくせに。今回はどうしたのか、と。言葉にせずともバッチリと考えていることが読み取れる視線を向けてくるタルタリヤに、鍾離は思わず緩みそうになるのを堪え、あぁ、と頷く。
    「そもそもこれは騒がしくはあるがそんなに強い怪異でもないからな。行ったところで公子殿をどうにかできるほどの力もない」
    「そうなの?だんだん近づいてくる奴とか、厄介そうではあるけど」
    「普通の凡人にとっては当然危険で厄介なものだが」
    「……オレは普通ではないと」
    「ないだろう」
    鍾離に即答され、周囲からも『そうだな』と納得されてしまえば、何も言えず。まぁ、身に覚えもあるので反論は飲み込んで、代わりに、強くないんだ……と、呟いた。
    「つまんないの。ってか、それなのにオレに手ぇだしてきたの?先生の加護もついてるのに?」
    「ふむ、少しばかり力が手に入って気が大きくなったのだろう」
    天神、などと名乗っているのがその証拠だ。呆れたように言うのに、あーなるほどなぁと周りも頷く。どうやらそういうものらしい。タルタリヤはよく分からない彼処側の世界の話に、何となく納得するふりをして、頷いておく。深く考えたら負けなのだ。
    「故に直接行くのが黙らせるのには1番良いという事だ」
    「なるほどねー。格の違いを見せつける的な?ま、分かりやすくていいか!」
    なら、さっさと行って黙らせよう!と。ニヤリと実に楽しそうな笑みを浮かべ早速殴り込みに行こうとするタルタリヤに、待ったをかけたのは当然のように鍾離だった。
    「流石に公子殿だけでは行かせられない」
    早くボコボコにしたいんだけど??と、止められたことに不満げな顔をするのに、ちょっと待っていろ、と告げて。店の隅から鍾離が持ってきたのは、茶色のぬいぐるみだった。
    「俺もこれでついて行く」
    黄色の角に、ふくふくの顔。ふわふわとした茶色の毛並みに覆われた短い手足に長いしっぽをもったその触り心地の良いぬいぐるみは、この店から離れることの出来ない鍾離が外に出るために使う、依代だった。久しぶりに取り出してきたそれに、タルタリヤはぱちぱちと瞬きをして小首を傾げる。
    「先生もついてくるなんて珍しいね」
    「お前だけで行かせたら、全て破壊し尽くしてしまいそうだからな」
    「はは、」
    まぁ否定は出来ないかなーと頬を掻き、無造作に掴まれているそのぬいぐるみ――てーくんを鍾離の手より受け取る。両手でかかえ、「じゃあ、デートだね」とにっこりと嬉しそうに笑うと、そうだな、と鍾離も笑みを浮かべた。
    「先生とのデート、久しぶりだなぁ!あ、ところで先生、おんぶ紐と抱っこ紐、どっちがいい?」
    「は?」
    普通、その会話からは出ててこないだろう二つの単語に流石の鍾離も意図を読めず首を捻る。どちら、と聞かれても……と、選べぬが?と。返せば、それじゃ困るよと、返されて。
    「両手使いたいから、ぬい、体に括りつけたいんだよね」
    数秒前までデートだと喜んでいた口から出るにはあまりにも相応しくないセリフに、思わず呆然と瞬きをして。出来れば紐は使わず抱っこがいいんだが、と言った鍾離の言葉は「え、やだ」と、実にあっさりと断られ、無情にもおんぶ紐が用意されたのだった。




    お化け退治するとこまで書きたかった(:3_ヽ)_
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    hiwanoura

    PROGRESS怪しいお店をしている先生とアルバイトのタルによる、怪異巻き込まれ現パロ。略して怪異パロ。途中までです……
    ※微グロ?
    ※微ホラー?
    怪異に好かれまくるタル怪異パロ


    其れは、気が付いたらそこにいた。
    瞬きをした瞬間、伏せていた視線を上げた瞬間、横を向いた瞬間……そんなふとした瞬間に、視界の端に現れ始めた黒い影。なにかいたな?とそちらを向いても、そこには何もおらず。気のせいか……それとも疲れているのか、と、すぐに興味はなくなってしまうのだけれど、しかし。少しするとまたその影は視界の端に居るのだ。見ようとすると見ることの敵わない何か。正直、気にはなるが、まぁ邪魔なものでもないし生活の妨げにもならないので放っておこうと思っていたのだが……数日が過ぎ、影が居ることに慣れ始めた頃。ふと、其れが視界を占める割合が以前より大きくなってきていることに気がついた。ゆっくりと、しかし確実に。影が、近付いて来ている……そう理解すると、今度はなぜか周囲に火元もないのに焦げ臭さを感じるようになった。普段生活している時にはそんなもの感じないのに、決まって影が見えた時には何かが焼けた臭いが鼻をつく。ただの枯葉や紙なんかを燃やしたような焦げ臭さでは無い。鼻の奥にまとわりつくような不快な臭いと、刺激臭とが混ざりあったようなそんな焦げ臭さ、と。そこまで考えて気がついてしまった。あぁこれは、人が焼けた時の臭いだと。なるほど、この背後に居るこいつはただ真っ黒な影かと思っていたが、焼死体だったらしい。皮膚が黒く炭化してしまうほどに焼かれた、人だったものだ。未だにこうして彷徨っているということは、ひょっとしたらまだ死んだことに気がついてはいない……つまりは、生きたまま焼かれたのかもしれない、と。その何者かも分からないなにかにほんのわずかに憐れみを感じていると、また周囲でおかしな事が起き始めた。手を洗おうと捻った水道から真っ赤な水が流れでて止まらなくなったり、歩いていたら目の前にベシャリ、と何か生き物の皮を剥ぎ取ってぐちゃぐちゃに潰して丸めたような物が落ちてきたり、壁に爪が剥がれるまで引っ掻いたような傷が無数に着いていたり、細い隙間に血走った目が大量に……それこそ隙間なく詰め込まれていたり。十分置きに知らない番号からかかってくる電話をとると『死死死死死死、ね、呪われろ死死死』と絶叫されるか、謎のお経を聞かされるし、学校に置いてある上履きに溢れんばかりの爪が、まだ肉片も血もついたような状態で入っていた時には流石にどう処分するか困ったものだった。鏡に映る己
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