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    清 川

    伏右固定、虎伏メインにまったりゆったり

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    清 川

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    ひらぶーに参加した時の作品。
    似非ケーキバース。原作軸。

    味覚がなくなる話「うげぇ、まっず!」
     カレーライスを食べたはずだった。けれど見た目は熱々の大好きなカレーライスなのにも関わらず味が全くもってしなかった。ぺっぺっ、と舌を出して水を飲む虎杖の姿に伏黒は、「御愁傷様」と心の中で呟いて己のカレーライスを口に運んだ。
     その日は、虎杖と伏黒の二人での任務だった。遠出ではなく、都内の。任務内容及び呪霊の情報は前もって渡されており、真面目な伏黒が隅から隅まで資料を読み尽くした所で「これはそう難しい相手ではないな」と判断した。実際に現れた呪霊は渡された資料どおり苦戦もなく、無事に祓えたのだが、最後の最後で誤算は起きた。肉弾戦を得意とする虎杖が弱った呪霊相手に逕庭拳を決めた際に呪霊が最後の力を振り絞って暴れ、不意をつかれた虎杖が呪いを被ってしまったのだ。慌てて伏黒が駆け寄るも見た目には何の外傷もなく、意識もはっきりとしていた。呪いを受けた本人ですら「今んとこ普通」と言うので、高専に戻って家入に診てもらおうと補助監督の伊地知の待つ車まで戻った。「お疲れ様でした」と伊地知の声に「お疲れ様です」と挨拶を交わし、虎杖が呪いを受けたことを報告すると、見るからに焦りだす伊地知が「早く家入さんに診てもらいましょう」と慌てて車を走らせた。
     いつもよりスピードの出ている車の中で虎杖は、現場に来る前に購入していた飲みかけのジュースを口に含んだ瞬間、勢いよくジュースを吐き出した。
    「大丈夫か! 虎杖!」
     呪いのこともあって伏黒が慌てて顔を寄せると、混乱しているのか目を丸くしてぱちぱちと虎杖が瞬きをする。ポタポタと口から垂れるジュースが気になって伏黒は、ポケットからハンカチを取り出すと濡れた口と濡れて色が変わってしまった制服を軽く叩きながら拭く。
    「どうした。何かあったのか?」
    「いや…、味が…しなくて」
    「味?」
     虎杖の手に握られているジュースを見れば、それは赤いラベルの、どちらかと言えば甘みと味の濃いコーラ。不審に思い伏黒がそれを奪って一口飲んでみたが、少しだけ炭酸の抜けたただのコーラだった。味がしない、とは決して言えない。
    「呪いのせいかもな」
    「マジか…。全っ然味がしねぇんだけど! ただの炭酸水」
    「…厄介な呪いにかかっちまったな」
    「一生このままなんかなぁ…」
    「一時的な呪いのせいだろ。解呪方法が分かれば戻るだろ、多分」
     はぁ、と虎杖が重い溜息を吐き出して、ポツポツと電気が付き始めた外の夜景に目線を送った。いつもより早いスピードで車は高速道路に乗る。
     高専まで、あともう少し。



     率直にいえば、虎杖が受けた呪いは「味覚がなくなる」呪いだった。家入に診てもらうも解決策は未だに生み出せていない。虎杖が味覚を失ってから、なんと三週間が経とうとしていた。何を口にしても味がしなくなったためか、どちらかといえば得意だった料理の回数も減った。味見ができなければ料理の出来が分からないからだ。伏黒と釘崎、それに五条も加わって解呪方法を探しているが行き詰まっているのが現状だ。
     伏黒の部屋でレトルトカレーを口にして「不味い」とスプーンを皿に投げ出して水を飲む虎杖の姿に伏黒は、口に運んだカレーライスをもくもくと咀嚼してごくんと飲み込んだ。スプーンに掬って見たそれは紛うことなきカレーライス。味も「不味い」の意味が「レトルトだから」なら分かるが、そう言う事ではない。虎杖からすれば、暖かい何かを口にしているだけ。その感覚は分からないが、脳がカレーと理解しているのに口に運べば味がしないのは気持ち悪いだろう。嗅覚は正常らしく、匂いはカレーだと分かっているからタチが悪い呪いだ。
    「お前、最近あんま食ってねぇだろ」
    「だって味しねぇんだもん」
    「けど、体力つけねぇとだろ。いいから食え」
    「へいへい」
     いやいやスプーンにカレーを乗せて口に運ぶ姿にほっとした。味覚を失ってから虎杖の食事の量は格段と減っていた。味がしなくて食べる気がしないのだということは分かっているが、やっぱり食べないと体力は減り、体重も落ちしてしまう。味がしないことを除けば、他は正常なのだから。たった一口が飲み込む速度が遅く、何度も水を飲む姿に「御愁傷様」と思うけれど、伏黒は誰よりも虎杖のことを心配していた。
     あの時、もし虎杖ではなく自分が呪われていれば虎杖はこんな思いをしなかったのでは無いか、と何度も思い返す。たらればを言っていないで解呪方法を見つける事が先決なのは分かっているが、後悔はどんな時にも押し寄せる。
    「味がしねぇのは食いもんだけなのか?」
     それはただの疑問だった。口に含むもの全てが無味なのか、それとも食べ物でなければ味はするのか。
    「伏黒は俺が何でも口に入れる赤ちゃんとでも思ってんの!?」
    「そうじゃねぇよ! 口に入れるのは普通食いもんだけだろ。けど、それ以外にも煙草とか無機質なもんもあんだろ」
    「まぁ…。けど、俺煙草はまだやってねぇよ?」
    「は? まだ?」
    「いや、こっちの話! で、食べ物以外なら味がするかどうかって話だよな! 木とか齧ってみる?」
     今はぐらかされた気がする。
    「木か…。割り箸ならあるぞ」
     立ち上がって簡単な調理道具を入れている引き出しから、透明な袋に個包装されている割り箸を一本取り出して虎杖に投げる。それを上手くキャッチして封を開けると、ふんわりと木の匂いがした。匂いは分かる。開けた割り箸をそのままネズミのようにガジガジと齧ってみるが、やっぱりというか、予想通り何の味もしなかった。
     虎杖は「味しないね」と箸をテーブルの上に置いて、ごろんと横になった。急に虚しくなる。もしかしたら自分はこのまま解呪できず、味覚を失ったままかもしれない。呪いの王を宿しているため秘匿死刑は決定しているが、その日まで美味い物をたらふく食べていたかった。食事は人間に取って三大欲求。そのひとつが欠けるというのはあまりにも悲しい。
     見上げた天井をぼうっと見つめていると、それを覆うようにして伏黒が現れたので慌てて体を起こした。
    「次はこれとかどうだ?」
     伏黒が手にしていたのは真新しいおたま。鉄の味、脳では理解しているが多分舐めたところで味はしないだろう。三週間も味覚がない状態で生活しているのだから何となくだが勘が働く。
    「もういいって。そのうち解呪されんの待っとくよ。心配してくれてあんがとね、伏黒」
    「虎杖」
    「ん?」
    「これならどうだ?」
     すっと差し出されたのはすらりと細く白い指。虎杖が驚いて目を見開き、伏黒を凝視する。伏黒はさも当たり前のように差し出した人差し指と中指の指先を虎杖の唇にふにっと押し付けた。慌てて細っこい手首を掴んで止めさせようとするけれど、それよりも先に伏黒の指先が唇を割って入ってきた。

    ──瞬間、その甘さに驚いた。

    「虎杖?」
     指を銜えたまま動かなくなってしまった虎杖の姿にどうしたのかと心配になって指を引き抜こうとすると、掴まれていた手首に跡が残るほど力を入れられてしまい動けなくなった。驚く暇もなくペロリと指先に触れる、濡れて柔らかい舌の感触に肩が揺れる。口に含んだ指先を生暖かくて柔らかな舌先が指の形を確認するように指に沿って舐め上げてきて、伏黒の肩がぴくんと揺れた。そのままじゅるじゅると虎杖の口の中で舐め回されたかと思うと、指元までしっかりと咥えられてしまった。
    「…っ!」
     音を立てて指と指の間を分厚く濡れた柔らかな舌が味わうようにゆっくりと、けれどしゃぶるように動かされて指先からビリビリと体に電流のような何かが走って腰の当たりがむずむずとする。力が抜けてしまいそうで、ぐっと息を飲んだ。
    「はぁ…」
     漸く解放されて、糸を引いて離れた舌。こちらをみてくる見たことも無いほどにギラギラと熱の篭った目に「やばい」と思った時には伏黒の目線は天井を見ていた。

     三週間ぶりの味だった。なにを食べても、舐めても、なんの味もしなかった。食事なんて味のしないスポンジをずっと食べているようで吐き気がした。
     伏黒が心配そうにしていることには初めから気づいていた。美味しくもない飯を食べ、美味しくもない飲み物を飲む。味を知っていたが故にそれは苦痛で、それはこの世界にぽっかりと穴が空いたような喪失感。飢えていた。獣が涎を垂らして唸り声を上げているように。
     一度知った味を取り上げられて、もう一度その旨味を与えられた。
    「伏黒甘い」
    「いたどり…!」
    「もっと舐めたい」

     一度飢えた獣に餌を与えたら、理性など失うに決まっている。


     
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