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    ぷらば

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    2021/09/19開催ばでみプチオンリー「Extra Mission!」にて行われたペーパーアンソロジー企画の無配ペーパーに載せた小説です。会場でお手に取ってくださった皆さま、ありがとうございます!

    Press Pause 画面上部から落ちてくる様々な形のブロックを、ボタンを押してくるくると回転させる。既に下のフィールドに積まれたブロックの塊を見て、積んだことでなるべく隙間が出ないような形を選んだら、場所を決めて一気にブロックを落とす。一段がブロックで埋め尽くされ、その段が消滅する。そんなことの繰り返しでこのパズルゲームは成り立っている。
     日曜日の午後、アーロンはリビングのソファに座り、テレビゲームをプレイしていた。
     パズル、アクション、シューティング、RPG……様々なジャンルのゲームがルークの家には揃っているので、アーロンはしばしば暇潰しにプレイしている。
     年季の入ったハードとソフトはエドワードとプレイしていたもの。少し前に大流行したハードやソフトは、学生時代に友人たちと遊ぶために買ったものだという。もちろん最新のハードもある。
     最初にルークの所持しているゲーム群を見たとき、アーロンは「多いな」と思った。しかしルークに言わせると「普通」らしい。自分のことをゲーマーだと思ってもいないそうだ。
     長い間ハスマリーで暮らしていたアーロンにとって、ゲームという娯楽は縁遠いものだった。研究所にいた頃、アーロンがリカルドから持ち込んだ携帯ゲーム機で「ヒーロー」であったルークと一緒に遊んだのを最後に、触れるどころか見ることもなかった。それが今では、ハスマリーに平和を取り戻し、こうしてエリントンのルーク宅でのんびりとゲームをしているのだから、人生何が起こるかわからない。
     キッチンのほうからリビングへやってくる足音が聞こえる。一瞬テレビの画面から視線を外してそちらを見ると、ふたり分のマグカップを持ったルークだった。
     手に持ったアーロンの分のカップをローテーブルに置いて、ルークが隣に座ってくる。大したスペースを開けずに座られても、それを不快だとは思わない。ルークとは恋人同士だからだ。
    「アーロン、またテトリアシトリッスやってるのか」
    「おう」
    「モクマさんもこれ得意だって言ってたんだよな。今度対戦してみたらどうだ?」
    「オレはそこまで得意じゃねえから、おっさんには負けそうだな」
    「またまた……右下のスコアを見てから言ってくれよ。こんな点数、僕じゃ絶対に出せない」
     アーロン自身はスコアを気にせず、単純にゲームオーバーになるまでプレイしているだけなのだが、ルークによるとこれは世界トップクラスの成績らしい。確かに、このゲームにはインターネットを通じて世界中の人と対戦できるモードもあり、アーロンはそこで負けたことがなかった。
    「アーロンは何をプレイしても上手いからなあ」
     ルークがどうしても先に進めずにいたゲームも、アーロンは初見でクリアできる。ジャンルは問わない。大体のゲームはアーロンの持つ動体視力と反射神経、情報処理能力でこなせてしまうのだ。
    「やっぱりeスポーツって言うくらいだから、ゲームに求められてるのも基本的には運動神経なんだろうな」
    「運動神経といや、お前よく飽きもせずにあの運動ゲームやってるな」
    「ロングヒィットアドベンチャーのことか?」
     ルークが最近ハマっているのは、ロングコンという専用コントローラーを用いて実際に己の肉体を鍛えつつストーリーを進める、フィットネスゲームだ。
     アーロンも試しに少しだけやってみたが、あまりにも簡単すぎてまったくフィットネスにならないのですぐにやめてしまった。
    「そりゃ続けるよ。筋肉は一生の相棒だからな」
     一生の相棒。その言葉にアーロンはぴくりと反応する。手元が狂って、置くべきでない場所にブロックを置いてしまう。
    「そんじゃオレはお役御免ってことか」
     拗ねたような声が出た。というか、拗ねている。よりにもよって大切な「相棒」の称号を、筋肉に盗られるとは。
     ルークのことは丸ごと愛しているから、もちろん彼の身体を構成する筋肉も愛している。だが相棒の座を盗られるとなると話は別だ。今この瞬間、ルークの筋肉はアーロンの敵となった。
    「あっ、違うんだ! ロングヒィットの箱に書いてある、ゲームのキャッチコピーなんだって!」
     アーロンが拗ねた理由に気づいたらしいルークは、慌てた様子で弁明する。しかしロングヒィットアドベンチャーが何と言っていようと、アーロンには関係ない。ルークが「相棒」という言葉をアーロン以外に使ったことが問題なのだ。
    「一生自分の筋肉と仲良くしてろよ」
     ハグもキスも、自分の筋肉とやっていればいいのだ。そんな気持ちを込めて吐き捨てた。
    「ごめん、アーロン。訂正する。僕の一生の相棒はアーロンだけだよ」
     ルークが真摯に謝る。アーロンは筋肉に勝ったようだ。聞けたい言葉が聞けたので、許してやってもいいのだが、なんとなくそのまま拗ねたふりを続ける。
     先ほど誤って落としてしまったブロックの分は、もうリカバリーが効いている。また一段、ブロックが横一列に揃って、パッと消えた。
     沈黙の中、ゲームの効果音と陽気なBGM、そしてアーロンの操作するコントローラーの音がリビングに響く。
    「なあ、どうしたら機嫌直してくれるんだ?」
     耐えかねたらしいルークが尋ねる。情けない声色は、まるでしょげた犬だ。アーロンは心の中で笑って、あえてぶっきらぼうな返事をした。
    「肉」
    「わかった。何キロ?」
    「いや、肉だけじゃ足りねえな」
     ルークをちらりと見て、挑発的に自らの唇を舐める。そして何事もなかったかのように、すぐにまたゲーム画面に視線を戻した。
    「キスも追加するよ!」
     アーロンの意図を汲んだルークが嬉しそうに言った。
    「今すぐな。とびきりのを頼むぜ」
    「じゃあゲームを一時停止してくれないと」
    「しながらゲームやって世界記録出すのもアリだな」
    「その挑戦はまた今度にしてもらいたいな。今からのキスはちゃんとした謝罪だから」
     アーロンは笑いながらポーズボタンを押した。

    (了)
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