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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮2話ー3(タイトル未定)。レオナの痕跡、そしてジャックの記憶を消すところ。

    真っ先にやったのはジャックのスマホから連絡先を消すことだった。クルーウェル立ち合いのもと、ジャックのスマホを操作して一つ一つ保存されていたやり取りと消していく。

    メッセージアプリはラギーから情報が洩れる可能性があったため、ラギーのアカウントごと削除した。後でまた入れ直しておけば問題はないだろう。
    久しく使っていないメールも、ご丁寧にレオナだけフォルダが分けられており、簡単に削除することができた。

    できる限りのことを保健室で済ませ、レオナは次にジャックの部屋へ向かった。部屋に残された痕跡を消すためだ。二年生とはいえ相部屋は変わらない。魔法で鍵を開け、自身にも簡単な目くらましの魔法をかける。あとは下手に大きな音さえ出さなければ寝入っているルームメイトが起きることもないだろう。

    二年生になって初めて入った部屋はどこか懐かしさを感じるものだった。勉強机の近くに置かれた棚には何種類かのサボテンが飾られている。どれも少し大きめのもので、この前レオナが贈ったものは見当たらなかった。

    植物園に移動させているのなら他のものと混ざり、レオナが贈ったものだという記憶が無くなっても気にならないだろう。

    整頓された机はやはりジャックらしかった。レオナの痕跡といっても、もともと物の貸し借りはやっていないため、考えられるのはサボテンともう一つしかない。レオナはそのもう一つを探るため勉強机の一番上の引き出しを開けた。そこには小さな四角い箱が入っていた。なんの装飾もない、木製のケース。レオナはそれを開け、中身を確認する。

    目的の物で間違いなかった。これだけはどうしても回収する必要があった。窓から差し込む月明かりを反射するそれに蓋をして光を遮断する。もうここには用はない。レオナは来た時と同様に、誰にも気づかれないまま静かに部屋を後にした。
    クルーウェルから連絡が入ったのは、次の日の夕方だった。


    *****


    大層な魔法陣の中心、ジャックはそこに寝かされていた。
    実験室の更に奥、普段は鍵が掛けられ何人も立ち入ることのできないこの場所で、儀式は粛々と行われていた。今ここにいるのは眠ったジャックと魔法を施すクルーウェル、そしてレオナの三人だけだ。光を遮るカーテンのおかげで、暗い室内の光源といえば申し訳程度に立てられた細い蝋燭しかない。

    クルーウェルが呪文を紡ぎ出す。すると陣を描いていた粉が淡く青色に光り出した。下から宙へと浮かび上がる様は幻想的で、まるでこれから行われることが高貴なもののように錯覚してしまう。

    レオナは何も言わず、壁に寄りかかったまま静かにそれを見つめていた。やがて淡い青は色濃く変化し、クルーウェルの呪文に合わせ、まるで蛍のように輝きを増す。

    そしてクルーウェルは懐から一つの小瓶を取り出した。液体のようだが、レオナの位置からは中身は詳しく見えない。蓋をしていたコルクを抜き、中身を手のひらに垂らす。それをもう片方の指に付け、その指をジャックに向かって伸ばした。

    額からこめかみにかけて、まんべんなく濡らしていく。光がそこへ集まり出した。ジャックの顔が青く照らし出される。そしてクルーウェルの詠唱が止まったと同時に、そこは一瞬だけ強い光を放ち、部屋中を漂っていた青色は霧散した。不思議なことにジャックの顔の濡れた跡も、きれいさっぱり消え去っていた。
    魔力の気配が薄れていく。

    「これで終わりだ」
    「……あぁ」

    終わった。全て終わった。あっけなく。
    未だに目を覚まさないジャックだが、明日の朝にはいつもと同じように、何事もなかったかのように、目を開けることだろう。

    「念のため、今夜もハウルは保健室で過ごさせる。お前も来るか?」
    「目が覚めて知らない奴がいたところで、面倒なことが増えるだけじゃねぇか」

    俺は部屋へ帰る。あとは適当に説明しとけ。
    そう言うと、レオナはこの部屋の出口へと向かう。気だるげな態度も不遜な物言いも、全てが全ていつもと変わらなかった。キィ。木製の扉が開かれた拍子に音を立て、そして控え目な音を鳴らして閉められた。

    クルーウェルは閉ざされた扉から目を外し、魔法陣の真ん中で眠り続けるジャックを見る。
    魔法は成功だ。呪文も陣も、魔法薬も完璧だった。明日、ジャックが目を覚ましたら、ジャックの中にあったはずの記憶は魔法の蓋で覆いかぶされ、きれいさっぱり押し込められているはずだ。

    ジャックの目を覚まさせるためにはこの方法しかなかった。しかし、クルーウェルの中にはどうしようもないやるせなさが残る。

    この魔法はあの妖精がかけた魔法が消えるまで効果が続く必要がある。そうしなければジャックは記憶が無くなるまで再び眠りにつくことになるからだ。それが二年後か、はたまた五年後か、正確な時間は分からない。

    ある日突然、なにかのきっかけで蓋が外れるかもしれないし、死ぬまで記憶が戻ることもないかもしれない。けれどもし妖精の魔法が切れた後に記憶が戻れば、そこまで考えてクルーウェルは首を振る。答えが分からない問題をあれこれ考えたところでどうしようもない。もしそうなったときは、あの二人の問題だ。今は出来うる最善を尽くした。そう思うことしかできないのである。

    今晩も保健室で寝泊まりだ。クルーウェルは道中誰にも見つからないように、寝ているジャックの体に転移魔法をかける。
    明日、ジャックは記憶を失った状態でいつもと変わらない朝を迎えることだろう。
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