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    heartyou_irir

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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮4話-2(タイトル未定)。二人で観光しているところ。

    さんさんと降り注ぐ太陽の光を浴びて金色に輝く水面。よく手入れの行き届いた青々とした芝生。涼やかな風は頬を撫で、木の葉を揺らし過ぎ去っていく。

    「へぇー、けっこう良い感じのとこッスね」

    ラギーをそう言いながら手に持った携帯で写真を撮っていく。あとで資料として使うためだ。

    広い芝生は夏にはキャンプ場として使われ、近くにはバーベキュー用の炊事場まで準備されている。奥の方にはコテージもあり、団体での宿泊も可能だ。
    湖の脇にはレストラン付きのペンションが建てられ、ちょっとしたお土産品もここで買うことができる。

    「静かでいいところですね」

    今時珍しく、右を見ても左を見ても、周りにあるのは自然だけだ。木々の揺れる音が心地いい。
    白塗りに青い屋根がついたペンションを携帯に収めていたラギーが、あっと声を上げて指を差す。

    「ジャック君、あそこ行きましょう。あそこ!」

    その指の先には桟橋に紐で括り付けられたボートがあった。一般的な手漕ぎのボートを筆頭に、色とりどりの白鳥や動物達、それと車を模したものが浮かんでいた。

    「いいですね」

    さすが大人だけでなく家族連れにも人気のスポットだけはある。ラギーはそれらもまとめて写真に収め、ボートの管理小屋へ足を進める。

    既に何隻か浮かんでいるボートに混じり、ジャックとラギーも手漕ぎ式のボートで湖へ漕ぎだした。周りの景色を撮るのに忙しいラギーに代わり、ジャックがオールを持つ。

    初めてのボートで最初はぎこちなくオールを動かしていたジャックだったが、すぐに要領を掴み、一定のスピードで進んでいく。陸地にいた時より幾分か冷ややかな風が頬を滑っていく。
    ラギーはボートから身を乗り出し、手のひらで湖の水をすくう。

    「オシャレなランチが楽しめて、こうしてゆったりのんびり時間が経つのを楽しめるなら、意外と恋人の旅行プランにもいいかも」

    ちゃぷちゃぷと揺れる水の音に耳をすませる。ここは、忙しない現実とはどこか切り離されたような、穏やかな時間が流れる場所だった。ラギーが言うように、きっとカップルにも人気の観光地になるだろう。

    「あそこの芝生、夏はキャンプ場として使って、冬はかまくらや雪像を作って遊ぶスポットになるらしいですよ。家族連れとかダチ同士で来ても楽しそうですね」

    遠くに見える岸では釣りを楽しんでいる親子の姿がある。先ほどキャンプ場で見かけたテントの持ち主なのかもしれない。
    ラギーは手に溜めていた水をひっくり返し、濡れた手を軽く振る。振り落とされた雫が水面に波紋を作った。

    「そういえば、ジャック君ってけっこうモテるッスけど、誰かとお付き合いとかしてないんスか?」
    「えっ?」

    唐突すぎる質問に、ジャックは目をまばたかせる。当のラギーはいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。

    「なんですか、いきなり……」
    「う~ん、なんか今ふと思いついちゃって。ほら、ジャック君って全然浮いた話とかないからさ。どうなのかな~って思って」
    「はぁ……」

    カップルの観光がどうのと話をしていたせいだろうか。なんの脈略もない質問に、とりあえずジャックは首を傾げて考えてみる。離れたところからボートを楽しむ子どもの笑い声が聞こえてきた。

    「う~ん、今のところそんな人はいないですし、予定もないですね」
    「へぇ~、そうなんだ」
    「それに、なんていうか上手く言えないんですけど……違和感みたいなのがあるんですよね。なにかが噛み合わないというか、しっくりこないというか」

    ラギーの言う通り、ジャックはこれまで多くの女性からアプローチを受けてきた。それこそ、好きな人がいないのならば取り合えずでもいいから付き合ってほしいと言われたことさえある。

    けれどもジャックはそのどれにも首を縦には振らなかった。想いを寄せる相手がいなくてもだ。
    告白を受けるたびに、言い様のない違和感に駆られていた。嵌ったピースを無理矢理解体するような、ないはずの隙間を無理にこじ開けられるような不快感。

    そんな思いを抱えてまで恋人を作ろうとは思わなかった。

    「そうなんスねぇ。じゃあ、良い人もいないの?」

    良い人。そう言われて、一瞬だけ脳裏に浮かんだ姿があった。毎回、たった数分だけ会えるあの人。

    「それは、えーと、その……」
    「えっ、いるの!?」

    慌てたラギーの声に合わせてボートが大きく揺れる。ジャックは自分の想像をかき消すようにラギーに向かって手を振った。

    「いや、でもあれはそういうんじゃなくて、その……違うんで!」

    目を手で覆いながら否定するが、瞼を閉じると更に鮮明に彼の顔が浮かんでくる。ジャックは体温が上がった気がして、片手で首元をパタパタと引っ張る。

    「そうなんだ……」

    ぽつりと、ラギーが呟いた。目を隠しているせいで、顔に影を落とすラギーにジャックが気づくことはなかった。
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