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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮4ー4(タイトル未定)。レオナとの馴れ初めを話すジャックの話。

    湖と最寄り駅を繋ぐバスは木々に囲まれた山道を走っていた。まだ日が高いこともあり、乗客の姿はほとんどない。

    ジャックとラギーは一番後ろの広い席に腰を下ろし、隣の空いているスペースには先ほど買った大量のお土産を置いていた。駅まではまだしばらくかかる。

    窓側の席で静かに携帯をいじっていたラギーだったが、突然あっ、となにかを思いついたかのように声を上げた。

    「そういえば、ジャック君にもプレゼントを贈りたい相手がいるんスねぇ。さっきは好きな人なんかいないって言ってたのに」

    なんの脈略もなくいきなり投げかけられたその言葉に、ジャックは驚く。

    「なんですか、いきなり」
    「だって最後に買ったあの石、あれって誰かにプレゼントするんでしょう?あんなの仕事仲間にあげるもんでもないし、家族にってわけでもなさそうだったし」

    そう言いながら口元に笑みを浮かべるラギーは、独り言のようにぽつりと呟いた。

    「週刊誌にでも売ったら高値で買ってくれるかも」

    その言い分に目をすがめたジャックは抗議の意をとなえる。

    「茶化さないでくださいよ」
    「えー、だってあの人気マジフト選手のジャック君の恋愛事情ッスよ。みんな興味あるって」
    「……」

    そう言いながら口に手を当て、シシシと笑うラギーに、ジャックは思わず口を閉ざす
    恋愛事情。その発想はなかった。言われてみれば、あれは贈り物としては不向きだったかもしれない。

    彼はきっと幼い頃から黄金に囲まれて生きてきた王族で、自分は少し話をしたことがあるだけのただの一般人。加えて、宝石でもなく、恋愛だなんて勘違いを誘発してしまうような、石粒が入っただけのただの瓶など、贈り物としていかがなものだろうか。
    今更ながら、迷いが頭をもたげる。

    ラギーは急に黙こんでしまったジャックの顔を気まずそうに覗きこんできた。

    「あーと……もしかして怒った?」
    「いえ、そんなんじゃないです。……その」

    ジャックの口からは歯切れの悪い言葉しか出てこない。それでもなんとか話を聞いてもらいたくて、とりあえず頭に浮かんできた言葉をたどたどしく口にする。

    「最近ある人と知り合って……、その人砂が入った小さな瓶を持っていたんです」
    「うん」
    「初めて会った時、その瓶が俺のところに転がってきて、俺がそれを拾ったんです。そしたら返せって言われて」

    一つ一つ確かめるように呟かれていた出来事をおとなしく聞いていたラギーだったが、ジャックの言い分を聞いて、突然えっと驚き顔をしかめた。

    「わざわざ拾ってあげたのにそんなこと言われたんスか?」

    眉間に寄せられたしわに、ジャックは慌てて否定する。

    「あぁ、いや、別に怒ってたとかじゃないんです。ただ返してくれって言われただけで。……その人、すごく悲しそうな表情で瓶を見つめていたんです。その顔が今でも忘れられなくて」

    思い浮かぶのはいつだってあの悲し気な横顔だ。

    「へ―、よっぽど大事なもんなんスね、それ。どこで知り合ったんスか?」

    知り合った場所を聞かれたジャックは正直に答えていいものか迷い、とっさに言葉が出てこなかった。あー、と間延びした声が答えを濁す。

    「それは、えーと……王宮です」

    それを聞いたラギーはわっと肩を引き上げ、ジャックに向かって身を乗り出す。

    「王宮!?王宮っていうと、夕焼けの草原の?」

    ジャックは目を伏せながら、一つ頷きを返す。

    「はい。初めて行った時、どこもかしこもキラキラしてるし、着飾った偉い人たちがたくさんいてちょっと疲れちゃって、それで少しだけって思って中庭に避難したんです。そこなら誰もいないだろうって。そしたらあの人がいて」
    「あの人……」
    「はい。そこで知り合って、それから何度か王宮に招待されたことがあるんですけど、そのたびに中庭に行ってその人と会ってるんです」

    そこまで言って、二人の間に沈黙が流れた。

    「……ちなみにその人って、誰か聞いてもいいッスか?」

    ここまで聞いてもらっておきながら誤魔化すことなど、ジャックにはできなかった。息を大きく吸い、ゆっくりと吐き出す。

    「えーと、その、レオナ……殿下です」

    その答えにラギーはハッと息を飲んだ。

    「レオナ、さん?」
    「ラギー先輩、殿下とお知り合いなんですか?」
    「えっ、あー、うん」

    歯切れの悪い返事が返ってくるが、ジャックには気にする余裕はなかった。脳裏にはあの横顔が浮かんでいる。

    「どうしてだが分からないですけど、あの人にはなぜか笑っていてほしくて。砂とは違いますけど、同じ瓶に入った石だし、すごく綺麗だし……どう思います?これをあげたらあの人は喜んでくれると思いますか?」

    結局のところ、本当に喜んでくれるかどうかはレオナに渡すまでは分からない。それでも、ジャックは自分の胸の内を話さずにはいられなかった。

    「……きっと、喜んでくれるッスよ」

    どこか優し気を含んだ声音に、ジャックは少しだけ胸が軽くなるのを感じた。

    「だったら、俺は嬉しいです」

    お土産の袋の中には簡単に包装された瓶が入っている。喜んでくれるといい。この瓶を見るときは笑ってくれると嬉しい。
    ジャックは、白く輝く小さな石が彼の心を慰めてくれることを心から願った。
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