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    heartyou_irir

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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮4-5(タイトル未定)。雪の石をレオナにプレゼントするジャックの話。

    いつもと同じ中庭。一人佇むジャックは、背後から近づいてくる足音に勢いよく振り返った。

    「レオナさん」

    側に歩み寄ることさえ待ちきれずレオナの元に駆け寄ると、レオナはそのジャックの行動に驚いたように少しだけ目を見開いていた。

    「どうした」

    心地いい低音に顔がにやけそうになる。ジャックは逸る気持ちを抑えながらポケットに手を入れた。

    「実は、今日は渡したいものがあって」
    「渡したい物?」

    そう言って取り出したのは、先日ラギーと観光した時に買ったあの瓶だった。可愛らしい袋に入ったそれをレオナに向かって差し出す。

    喜んでくれるだろうか。期待を込めた眼差しでレオナを見つめると、袋とジャックを交互に見ていたレオナがそっと手を伸ばしてきた。すらりと伸びた指先が袋を取り上げる。

    「開けてください」

    レオナはいつもと変わらぬ表情でそれを見つめ、言われるがままにリボンを引いた。そして開いた袋に入っていた瓶を取り上げ、目の前にかざす。

    「それ、俺の国のものなんですけど、雪の石っていうんです。雪の結晶みたいな形をした石なんですけど……」

    レオナの瞳がぶわりと見開かれる。そして掲げていた石を篝火に向かってかざした。
    火の光を反射した石はまるで宝石のように輝き、レオナの瞳に星が舞った。呆けたようにそれを見つめていたレオナの唇が弧を描く。

    「悪くねぇ」

    眩しげに細められた瞳に、ジャックは人知れず胸が熱くなるのを感じた。良かった。喜んでくれている。

    レオナはジャックからもらった瓶のコルクを開け、ジャックに向かって差し出した。持て、ということだろう。ジャックはレオナに従い、それを受け取った。

    両手が空いたレオナは今度は自分の服の胸元に手を入れ、そこから長い紐を引っ張り出した。

    取り出された紐の先には小さな瓶が括り付けられていた。あの時ジャックが拾った、紐が千切れていた瓶だ。中には前と変わらずなんの変哲もないただの砂が入っている。
    そしてレオナは先ほどと同じようにコルクを抜き、片手で瓶を持ったまま、空いている手をジャックに向けて差し出した。ジャックは持っていた瓶をレオナに渡す。

    受け取ったレオナは、雪の石が入った瓶を砂が入った瓶に向けてゆっくりと傾け始めた。キラキラと光る石が砂の上に積み重なっていく。そして瓶の中が八割ほど埋まると、レオナは傾けていた瓶を元に戻した。
    再び瓶をジャックに手渡す。

    レオナは瓶に栓をし、中身を混ぜ合わせるように右に左にと傾けていく。すると、最初は別々に分かれていた石と砂は、しだいに一つになっていった。なんの変哲もなかった砂の中に雪が混じっていく。

    ジャックはその光景を見ながら、まるで自分がレオナの一部に触れられたような気になった。言い様のない興奮が体の中から湧き上がってくる。
    レオナは瓶を再び胸元に戻し、ジャックから受け取った石の瓶も同じように懐にしまった。

    「喜んでいただけましたか?」
    「……あぁ」

    満足そうに細められた瞳にジャックは優しく微笑み返す。そして喜びにあふれ出る心は、レオナにある願いを吐き出した。

    「あの、代わりに……というわけじゃないんですけど一つお願いがありまして、聞いてもらえますか?」

    笑みを絶やさず出てきたその言葉に、レオナはジャックを見ながら一つ瞬きをした。

    「なんだ?」

    ジャックはそれを聞いて、いつかの願いを口にする。

    「今度夕焼けの草原で行われるマジフトの試合……それを観に来て頂けませんか?」

    ジャックの口から出たささやかな願いに、レオナは口を閉じる。ジャックはそんなレオナの手を取り、その場に跪いた。

    「最高の勝利を、あなたに捧げます」

    少しもぶれることのない真っすぐとした視線を、レオナは静かに見つめ返した。

    「国王陛下にじゃなくてか?」

    その言葉にジャックは頷き返す。胸に当てた手には心臓の鼓動が伝わっていた。

    「はい。あなたに……」
    「……」

    ジャックを見下ろしたまま、レオナは沈黙を保つ。けれどもジャックの視線が逸らされることはなかった。光を宿した蜂蜜色の瞳が一心にレオナを見据える。

    「観に来てくれますか?」

    ジャックは辛抱強くレオナの返事を待ち続けた。やがて、レオナは引き結んでいた唇をほどく。

    「……気が向いたらな」
    「っ、はい!」

    その言葉に、ジャックの顔がパッと綻びる。前と同じ曖昧な返事だが、きっとレオナは会場へと足を運んでくれるだろう。ジャックはそう確信していた。

    「楽しみにしています」

    そして握りしめた手はそのままに、ジャックはその場に立ち上がる。
    レオナが来てくれる以上、いい加減な試合はできない。ジャックは次の試合で完全なる勝利をレオナへと捧げることを決意する。



    そして、試合当日。悲劇は起きた。



    「ジャック!!」
    空中で投げ出された体が落下する。視界にはゆっくりと青空が広がっていった。全てがスローモーションで動き、会場からは悲鳴が上がる。
    土煙を上げながら地面に落ちたジャックはそのまま全身を強く打ちつけ、意識を失った。
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