夏影と祭りの声音 夏の夕暮れ、というのは不思議な気持ちになる。時刻の割には明るい空、日が落ち始めても生ぬるい気温、昼間の暑さが飽和してところどころに居座るようなそんな空気。
どこかから囃子の音色が聞こえる。空は濃い紫色で、時間は夜の七時をいくらか過ぎたくらいか。参道に並ぶ出店はどれも小さい頃に見たような懐かしさを覚え、漂う匂いは色んなものが混ざっている。ベビーカステラの甘い匂い、焼きそばのソースの匂い、フライドポテトが揚がる香ばしい匂い。すんと鼻を鳴らせば、その全部が綯い交ぜになった『祭り』の匂いが深く身体の内側に染みた。
「何か食うか、荒船」
隣の男を見る。いつもと同じ無表情の穂刈が窺うように荒船を見ていた。
「そうだな……とりあえずカゲんとこ行こうぜ」
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